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私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末  作者: コツメカワウソ


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 ソフィアの話を聞いて、フェイもエリーも言葉を発さなかった。

 ソフィアの決断を分かったからこそ、何と言えばいいのか。


 沈黙を破ったのはフェイだった。


「辛い事を話させてしまったね…シモンからは君の母君が英雄殿を治療した事は聞いていた。だからきっと、ソフィアも同じように考えるんじゃないかとは思ったよ」


 まぁ思ったよりも知らない事が多くて驚いたが、とフェイは腕組みをする。


「ソフィアは…もう決めたの、ね?」


 遠慮がちにエリーは言う。


「はい。アルフォンスが目を覚ましたら全てがハッキリします。今はまだ、私の勘違いであって欲しいとどこかで思っているし、対価として何を取られるのかと考えると恐ろしいとは思います。でも、後悔はしません」


「もしも…ランセル卿の魔力が戻ったとして、その時にもし…ソフィア以外の女性を選んだとしても?」


 意地の悪い質問だと自覚している。

 それでもエリーは聞かずにはいられなかった。


「…そうですね。悲しいけれど、彼が幸せならばそれで嬉しい、かな。母の言葉を借りるなら『自分の事を忘れた恋人を見たら、心置きなく対価を払える』と思いますよ」


 憑き物が落ちたような笑顔で言うソフィアを見て、エリーはもう反対出来ないと思った。

 もしかしたらソフィアは、恋人が自分を忘れる現実から逃げようと、自暴自棄になっているのではと心配していた。

 しかし彼女は冷静だった。

 もちろん両親を見てきたこともあるのだろう、彼女を取り巻く環境は特殊なものだ。

 以前メルと三人で話した時に、北方騎士団を選ばなかった理由を例のイベントのせいと言っていたが、本当は彼女の生い立ちが関わっていたからだろう。


 ふと思う。もしもカイルが自分の事を忘れたら…と。こんなにも落ち着いてはいられない。ランセル卿が目を覚ますまでは可能性の話になるが、それでもこんな風に話す事ができるだろうか。

 その上カイルが魔力を失う事になったら…。


 あぁ、ソフィアは強い。

 小さな見た目からは想像も出来ないほどに。

 無理をしてはいるだろう、静かに泣いていた姿を思い出し、それでも彼女の強さが眩しかった。


 カイル達に話をしていた時から、ソフィアが魔力回路の治癒をするつもりなのは分かっていた。反対するつもりだった。過去の陰惨な歴史を知っている者として、そして大切な後輩が他人のために犠牲になるのを止めたくて。


 でも今は、彼女の気持ちを尊重したい。


 フェイを見る。

 同門であり兄弟子でもある彼は、いつも飄々として掴みどころがない。

 優秀なのに面倒だからと弟子を取らず、何を考えているのかよく分からない変わり者。

 しかし彼が誰よりも思慮深く、懐に入った者に対しては優しいのを知っている。

 治癒室の責任者としての立場とソフィアの強い意志、どちらを取るのか迷っているのだろう。


「でも、もしソフィアが魔力回路の治癒を申し出ても、許可は下りないんじゃ…」


「いや…多分許可は出る、と思う。今の国王は聡明で治癒師の誓約も守ってくれるだろうが、それでも魔導騎士が少ないのは事実だ。ましてや西方には出ない筈の魔獣が現れた。何が起こるか分からない以上、戦力は多いに越した事はない。為政者である以上、国を守る為には許可を出すだろうね」


「…そうですね」


 やっぱりフェイはちゃんと考えている。

 責任者としての責務として、考え出た結論だろう。

 伊達に二十年以上治癒師をしている訳ではないのだ。


「まぁ、それでも僕達では決められない事だ。ランセル卿が目を覚ましたらこれからの動きが決まる」


 フェイは執務机から小さな箱を取り出した。


「ソフィア、君の気持ちは分かった。君は大切な部下だ、本音を言えば反対したい。だけど君の話を聞いて、簡単に出した結論ではない事も分かる。今まで胸の中に収めておくのは辛かっただろう。当時の北方騎士団と国のやり方は納得出来ないし、公表できなかったとしても共有できていれば、ランセル卿は魔力を奪われる事もなかったかもしれない。そう考えるとやるせない気持ちになる」


 フェイにしては珍しく、悔しそうな顔をしていた。

 それはそうだろう。高魔力保持者にとってデモンズハーピーは脅威だ。


「まぁ今更文句を言って仕方がないんだけどね」


 それでも言わずにはいられないよ、そう言ってソフィアに箱を渡す。


「これは?」


「今日はランセル卿に付いていたいんだろう?人は甘い物を食べると安心出来るんだ、後で食べなさい。でも遅くなりすぎないうちに一度帰るんだよ。今日はいろんな事がありすぎたから」


 そう言って棚をガサガサと漁り始めた。


「はい、これはエリーに。遅くまで引き留めちゃったから、明日副団長殿に会うのが怖いからね、賄賂だよ」


 見ると小さなワインボトルだった。


「別に遅くなったくらいで怒りませんよ」


「貰い物だから安心して。私も妻もアルコール苦手だから、困ってたんだよね。副団長殿はワインが好きだろう?さ、今日は解散だ」


 フェイに言われ、ソフィアとエリーは師長室を後にした。







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