7話
あれから淑女教育、ダンス、領地経営の勉強も順調に進み、私は十二歳になった。植物の勉強も少しずつ進んでいる。カサロとの関係は十歳のお茶会の日を境に冷え切り、年に一度の私の誕生会に、男爵家のリボンを連れて顔を見せるだけになった。
(相変わらずの、二人ね……呆れるわ)
一応、婚約者としての立場は続いているが、カサロの誕生会には一度も呼ばれたことがない。一度目のときは無理やり参加したこともあるけど。巻き戻った後からは、行きたいと思わなくなった。
本日、家庭教師がお休み。日頃の努力のおかげで、専属メイドのシャロンを連れてなら、王都の図書館へ行ってもいいと両親から許可をもらえたので。次の日、私たちは馬車に揺られ、王都に向かっていた。
「ねぇ、シャロン。図書館の後に、王都で人気のカフェに寄りましょう」
「え、いいんですか? フフ、図書館も楽しみですけど、カフェもすごく楽しみです!」
「えぇ、私もよ」
シャロンは私より二歳年上のメイドで、スリーカン伯爵家の出身だ。伯爵家はお茶の商いで有名で、彼女もその家業に誇りを持っている。だが、彼女はあの「九回目」に、毒のお茶を淹れてしまった、張本人でもある。
そのシャロンは学園の卒業後、テラスで今後を考えてため息をついた私を見て、カサロと婚約破棄をして落ち込んでいると、リラックスするお茶を淹れてくれた。
毒で意識が薄れていくなかで、私の名前を叫び、泣き叫ぶ、彼女の声の悲痛な声を聞いた。
今のシャロンは観賞用で、リラックスがあるスワーロンと毒となるスノーフレの白い花のことを知り、恐怖を覚えた。彼女は商いをする家のために、もっと知識を広めなくてはと思ったのか、私と一緒に庭師のジロウじいに植物のことを習っている。
⭐︎
馬車に揺られて二時間後、私たちは王都の門をくぐった。王都都立の学園に通うため、来ていた王都。やはり王都はいつ訪れても、人々が多くあいかわらず活気がある。正門をくぐり図書館へ向かう途中、一軒のお茶屋を見つけた。そのお茶屋は人気なのか、多くの婦人たちが店に訪れていた。
「ルルーナお嬢様、見てください。あのお茶屋が、うちが経営している店です」
「まぁスリーカン伯爵家のお店? すごく人気な店なのね」
私が褒めると「そんなことないです」とシャロンは照れ笑いをした。
歳が近いからか、メイドだけど友達のようシャロン。彼女とこのまま、一緒にいてもいいのかと考えている。両親、屋敷の使用人、庭師のジロウじいもだけど……私の呪いでみんなが巻き込まれたら怖い。
だからいまから図書館で、呪いについての記述がある書物を探すのは難しい。専門職でもなければ、この巻き戻りや呪いの真実にたどり着けないだろう。
それでも、ここで立ち止まるわけにはいかない。
だから、私は前に進むしかない――。
王都の街を進み、私達を乗せた馬車は図書館の前で静かに止まった。




