6話
私は十歳になり、本日は月に一度の婚約者とのお茶会の日。
ふとした瞬間に気づいたことがある。カサロはいつもお茶会のとき、付き合っている男爵家のリボンさんに、メイド服で変装させて連れてきていたのだ。
(メイド服にメガネで変装しているけど……彼女は間違いなく、男爵令嬢のリボンさんだわ。こんなに明らかだったのに、これまで気づかなかったなんて……)
一度目の人生で、私はカサロを溺愛していて、彼を誰にも渡したくない一心だった。派手なドレス、宝飾品と化粧で自分を着飾ることばかりに夢中になり、彼の本性や周囲の状況なんて見えていなかった。
――その代償は、彼に毒を盛られ死ぬという結末。死に戻った後は、ただ彼から逃げることばかり考えていた。
(前までの私……お茶会の日、こんな目に遭っていたなんて……バカみたい)
今、目の前のテラス席に座るカサロは、私を放置して隣に立つリボンと楽しそうに話している。二人の手は、テーブルの陰でしっかりと、繋がれているのが見えた。
(はぁ。こんなにもわかりやすいのに……一度目の私は恋に盲目で、何も見えていなかったみたいね)
公爵家の庭園で、一応婚約者の私を置き去りにして、盛り上がる二人を眺めながら思う。このつまらないお茶会も、一刻も早く終わらせて部屋で読書でもしよう。
今日のお茶会に、義務的に参加しているだけのカサロは、私から話しかけなければ一言も喋らないし、私も彼に話題を振るつもりはもうない。
(それにしても、楽しそうな二人を見ているだけなんて、時間がもったいないし、飽き飽きだわ)
この、お茶会が始まってからちょうど一時間。区切りもいいし、お開きにすることに決めた。扇を広げ、微笑みを浮かべながら、私はカサロに話しかける。
「カサロ様、楽しいお茶会でしたわ。お茶も飲み終わったようですし、そろそろお開きにいたしましょう」
そう言って席を立つと、カサロは慌ててリボンと手を離し、形式的な態度で立ち上がり頭を下げた。私も軽く会釈してその場を後にしようとしたが、ふと思い出して一言付け加えた。
「そうでしたわ。……私、王都都立の学園へ入学するまで、家庭教師を雇いましたの。入学までそちらを優先したいので、月一のお茶会はしばらく無しにいたしましょう。……ごきげんよう」
「……え、はい。……わかりました。ごきげんよう、ローリス嬢」
カサロがもう一度頭を下げる横で、リボンは顔を伏せたまま何も言わなかった。その後二人がどのような会話を交わしたとしても、私には関係のないことだ。
(五年後、学園に入学すれば、嫌でも浮気の証拠は集まるわ。その時に婚約破棄を叩きつければいい。いまは、もっとやるべきことがあるもの)
植物の勉強、毒、そして呪いについて――今の私には、それに集中する時間が必要なのだ。