5話
――えぇ、私って、呪われているの?
そんな理不尽な話だけど、その呪いは私が生まれる前――いいえ、前世に原因があったらしい。この「私」ルルーナは、前世であるローデン王女の罪を背負っている。ローデンの罪とは、気に入った男性と無理やり婚約し、その男性が愛していた女性を嫉妬の末に殺めたこと。
そしてローデンを恨んだ男性が、最期発した呪詛の言葉は、ローデンだけでなく「生まれ変わる全ての命」にも毒で死ぬ運命を背負わせたのだ。
(そんな……ローデンの生まれ変わりだなんて……どうして私が?)
さらに妙なことがある。毒で死ぬたびに時が「七歳」まで巻き戻るこの現象……呪いのせいだけでは説明がつかない。
「――巻き戻る理由が、他にもあるってこと?」
疑念が脳裏に浮かんだ瞬間、瞼がぱちりと開いた。
⭐︎
「……ここは私の部屋?」
体を起こすと、目の前に広がるのは見慣れた景色。ソファ近くの絨毯の上に倒れていたようだ。喉にはまだ、焼けつくような痛みが残る。
(あの夢……あまりにも生々しすぎるわ……)
ローデン王女としての記憶と、現在の自分の状況が奇妙に重なって見える。強引に婚約を進めたカサロ侯爵との関係、二人の恋人を引き裂いた罪……全てが前世の記憶に似ている。
「……だったら、まずは婚約を解消しなくちゃ」
私から言い出した婚約だけど……大丈夫。
二人は付き合っているから、お父様に伝えれば婚約破棄……いいえ、婚約の解消ができるはず。
その日の夕食後、部屋で読書をしていると、メイドのシャロンが紅茶を運んできた。
「ルルーナお嬢様、紅茶が入りました」
「ありがとう、シャロン。後は自分でやるから、下がっていいわ」
シャロンが部屋を出たのを見計らい、紅茶に乾燥させたスノーフレの花びらを一枚浮かべる。カップを口に運ぶと、焼けつくような刺激が喉を走る。しかし、半年間毒を摂取し続けた体は慣れていた。
(これでいい……毒に耐性をつければ、呪いを打ち破れるかもしれない)
とはいえ、油断は禁物だ。テーブルに置いた木箱から乾燥させたニヤの花びらを取り出し、水に浮かべて解毒薬として飲み干す。
⭐︎
翌朝、庭に出ると、ジロウじいがバラの手入れをしていた。その傍らに見習い庭師のラマはいない。
「ごきげんよう、ジロウじい。お忙しいところ申し訳ないけど、時間ができたら植物のことを教えてくれる?」
「こんにちは、ルルーナお嬢様。もちろんですよ。ただ少しお待たせしてしまいますが、それでも構いませんか?」
「ええ、待つわ。その間、テラスで見学しているから」
ジロウじいの作業を見守りながら、ルルーナは庭を見渡す。
(これまでの私は、ただ逃げることばかり考えていた。でも、呪いの正体を知った以上、向き合わなければならない。命を守るためだけでなく……強くなるために)