4話
私は部屋の隅でスノーフレの毒花を乾燥させた。誰にも見つからないよう、静かに、慎重に。
メイドが淹れてくれた紅茶に、乾燥させた花びらを一枚浮かべる。琥珀色の液体がじわりと深い赤に染まった。
(これで確かめられる……この呪いの真実が)
心臓が鼓動を早めるのを感じながら、カップを口元に運ぶ。液体が喉を焼くような感覚をもたらし、目を閉じる。
大丈夫、私は死なない――そう信じた次の瞬間、鋭い頭痛が脳を突き刺し、視界が暗転した。
⭐︎
「……だ!」「……さいわね!」
怒鳴り声と眩しい光が私を包む。目を開けると、豪華な部屋の天井が目に入った。
シャンデリアの輝き、壁に飾られた豪奢な絵画や彫刻――ここは一体どこ? 視界に飛び込んできたのは黄金の髪の女性と赤髪の男。彼らの名前が自然と頭に浮かぶ。
ローデン・カテーナ――この国の王女。
クリス・ネックス――その婚約者でありながら、彼女に背を向ける男。
なぜ私は彼らの名前を知っているの?
まるで、自分の記憶のように……。
⭐︎
「こんなに尽くしてきたのに! なぜ、あなたは私を愛してくださらないのですか!」
ローデンの声は涙に震えていた。だが、クリスは何も言わず、冷ややかに目をそらすだけだった。
(彼女はただ愛されたかった……でも、それが叶わない)
その姿が、かつての私と重なる気がした。いくら愛を注いでも、相手には届かない。
⭐︎
翌日、ローデンは婚約者クリスが、幼馴染と密会しているという報告書を手に取る。
その手は震え、瞳には怒りが宿った。
「許さない……あの女がすべて悪いのよ!」
嫉妬に駆られたローデンは家臣に命じ、幼馴染を暗殺させる。毒が使われたのは偶然だったのか、それとも必然だったのか……。
その事実を知ったクリスは怒り狂い、ローデンの部屋へと乗り込む。
「貴様、僕の愛する人を殺したな!」
「な、なんのことかしら? わたくしがやったという証拠は?」
「証拠などいらない! お前しかいない!」
怒りと悲しみが混じり合い、クリスは毒をあおる。そして呪詛の言葉を吐いた。
「お前を呪う。未来永劫、何度生まれ変わっても毒で死ぬ運命だ!」
その瞬間、黒いバラの魔法陣が浮かび上がり、ローデンは呪いに囚われる。
⭐︎
(これが……私が毒で死ぬ原因?)
ローデンの記憶? 夢の中で震える私は、冷や汗が頬を伝う。私の死因が、前世のこの呪いに繋がっているとしたら――。
「私はどうすれば……」
目の前の光景が揺らぎ、再び視界が闇に包まれた。