2話
巻き戻った部屋で一人、ベッドの上に座って悩んでいる。これまではカサロが原因だと思い込んで、必死に足掻いてきたけれど。婚約破棄をして彼から離れても、私は毒によって死んでしまった。
――どうすればいい? どう行動すればいいの?
そばにあった枕を抱きしめ必死に考え、ああ、そうだと。ある考えに辿り着く。
何度も毒で死んでしまうのなら、いっそうのこと毒に詳しくなって、毒にも慣れてたらいいのでは?
もし、それでもだめなら……死に戻った後に、別の方法を考えるしかない。九回目の巻き戻りで七歳に戻った私は、テーブルに座りペンを取った。
少しずつ思い出して、どの毒で、どう死んだかをノートに記す。
「……だけど、毒になれると言っても」
二度目に食べてしまったサロ毒キノコ、四度目の毒沼、五度目のシロミの毒の花は生息地が遠すぎるし、この国に存在しない蛇もいて、入手は難しい。なら、解毒草も手に入らないかもしれない。
(この考えは安直すぎるのはわかってる。けど……)
そうだ。
巻き戻る前にメイドが淹れてくた、リラックス効果のある、スワーロンの花茶なら私でも手に入るかも。
⭐︎
翌日、屋敷の書庫へ向かい、植物図鑑を開き載っているスワーロンの白い花の特徴に、私は驚きを隠せない。
なぜなら、今朝お母様が朝食の時に「庭の花が綺麗に咲いた」と話していた花にそっくりだったのだ。
「だめ!」
お母様が、その花を花茶にして飲んでいたら……大変なことになってしまう。
そう直感した私は、図鑑を抱えて急いで花が咲く庭へ向かった。
(スワーロンの花はどこ? あ、あの白い花……)
バラの花が咲く近くで、白いスワーロンの花を見つけて、ドレスの汚れも気にせずその花の前に座り、持ってきた図鑑を開く。
「おや? ルルーナお嬢様ではありませんか。土の上に座っては、綺麗なスカートが汚れますぞ」
いきなり庭にやって来て、地面に直接座った私を見て、声をかけてきたのは長年庭師として働くジロウおじい。
「あ、ジロウおじぃ! ちょうどよかった、この図鑑の文字を読める? 私にはまだ難しくて……」
「図鑑の文字ですか? わかりました。少々お待ちください」
ジロウじいは老眼鏡をかけ、図鑑をじっと見つめる。この屋敷の庭に植えられたスワーロンの花は、おそらくお母様を喜ばせようとお父様が植えたものだろう。
しかし図鑑を見た、ジロウじいの表情が徐々に青ざめていく。
「な、なんと、これは……! ルルーナお嬢様、いますぐこの花から離れてください。その花には毒があります!」
そう言いながら私を花から引き離すと、庭師小屋へ向かい自分の古い図鑑を取り出し、さらに調べ始めた。
しばらくして眉をひそめ、私に部屋へ戻るよう伝え、そのままお父様の元へ走って行った。
(よかった、ジロウじいが気づいてくれて……。これで、この花が毒だと、分かってもらえる)
部屋に戻り窓から庭を見ていると、ジロウじいがお父様の元から戻り、花の調査を始めているのが見えた。
翌日、屋敷は早朝から使用人たちが騒然としている。
庭に植えられていた白い花は、スワーロンの花ではなく、毒花スノーフレだったと判明したのだ。
――え、スワーロンの花じゃなくて、スノーフレの花?
ルーラお父様はこの事態を重く見て、急ぎ早馬で王宮に報告した。
報告を受けた陛下は緊急に王城や貴族の庭園を調査させたが、どこにもスノーフレの花はなく、スワーロンの白い花だけだった。
なぜか、うちの屋敷だけ毒花スノーフレが咲いていたのだ。
(スワーロンの花に似た、スノーフレという花があるとわかってよかったけど……なぜ、うちの庭だけスノーフレが植えられていたんだろう? 長年庭師を務める、ジロウじいが植え間違いなんてありえない)
――いったい誰が、公爵家の庭に毒花を植えたのだろう。




