21話
「君が口を割らなくても、俺にはなんとなくわかっている。ただ――ルルーナにも、いずれは知ってもらったほうがいいかもしれない。……いや、どうするべきか」
私に聞かせたくない話なのだろう。カーサリアル殿下は、慎重に言葉を選びながら、思考の沼に沈み込むように口をつぐんだ。
側近のササも、同じように険しい面持ちで沈黙している。
――私、殿下を困らせている?
「……すみません。私の我儘でしたわ。無理に聞き出すつもりはありません。シャロン、私たちは帰りましょう」
毒を盛られたのが“もしかして呪いでは?”という、確証もない私の疑念。それで、この場をかき乱してしまった気がして、私は静かにソファから立ち上がった。
そのとき――
カーサリアル殿下が、私の手をそっと掴んだ。
「ルルーナ、話せないわけじゃない。……ただ、君を俺の事情に巻き込みたくないだけなんだ。あいつらは、君にまで手を伸ばした」
「あいつら……? 私を、狙ったのですか」
思わず息を呑んだ。今日の一件は、私自身の呪いなどではなかったのだ。それは殿下を標的とする者たちの犯行。
つまり――カーサリアル殿下は、誰かに命を狙われている。
そして、その“誰か”を、カーサリアル殿下は知っている。
――その事実を知ったとき、殿下はどれほど傷ついたのだろう。私だって、一度目の人生でカサロに裏切られたとき、希望も愛も踏みにじられて、絶望の底で死んだ。
だから、気持ちがわかる。
わかってしまう。
「ルルーナ? ……どうした? どこか、具合でも悪いのか」
気づけば、頬を一すじ、涙が伝っていた。
「……あ、大丈夫です。ただ……殿下のことを考えていて。殿下は、きっと――毒を盛った犯人をご存じなのですね」
その問いに、カーサリアル殿下の瞳が揺れる。
そして、しばしの沈黙ののち、まっすぐに私の目を見て、静かに頷いた。
「そうだよ。……ルルーナは賢いね。名前までは言えないが、犯人は――城の人間だ」
「王城の……? それは、なぜ?」
「俺の膨大な魔力に、怯えているからだと思う」
膨大な魔力。
――そう、カーサリアル殿下は王国随一の魔力保持者。
その力を抑えるために、日頃から魔導具を腕にはめている。
「俺が権力を奪うんじゃないかって、疑っている。そんなつもりは毛頭ないのに。何度、口にしても……理解してもらえなかった」
悔しさが混じるように、殿下の手がテーブルを打った。
瞬間、空気が一瞬だけ凍りつく。魔力が、抑えきれずに溢れかけていた。
「でも、俺は――この膨大な魔力のおかげで……」
言いかけた言葉を切って、カーサリアル殿下は私を見つめた。




