20話
カーサリアル殿下とルルーナはおとなしく解毒薬を飲み、あまりの苦さに思わず口元を押さえた。
「うっ、苦い……」
「クッ、これは……」
けれど、何度か経験していたからか、体の奥から毒が引いていく感覚がルルーナにはわかった。カーサリアル殿下も同じようで、ひとつ息を吐いた。
「やはり、解毒薬は苦いね。……そうだ、ルルーナ嬢。口を開けて」
殿下が小さなガラス瓶を取り出しながら言う。ルルーナが従うと、その口の中に金色に光る小さな粒がそっと落とされた。舌の上でふわりと甘さが広がる。
「……甘くて、美味しいですわ」
「よかった。これは“べっこう飴”って言うらしい。あそこにいる女性が教えてくれた」
カーサリアル殿下が顎をしゃくる。その先には、魔法の氷で壁に拘束されたメイド服の女性の姿。彼女は肩を震わせながら、何度も「すみません」と呟き、泣いていた。
「謝らなくていい。君が命令を受けていたのは分かっている。真面目な君がこんなことをする理由も……察しはつく。だが、俺だけじゃなく、ルルーナ嬢まで狙ったのは――許せない」
細めていた殿下の瞳が、すっと細く開かれ、鋭くメイドを射抜く。
「ひっ……うぐっ……! は、はぁっ……カーサリアル殿下……す、すみません……っ」
苦悶の声を漏らしながら、メイドは顔を歪める。何度謝っても、殿下はその目を逸らさない。
「グウッ……殿下、どうか……」
ササが進み出て、静かに呼びかけた。
「カーサリアル殿下、お気持ちはわかります。ですが、ここにいらっしゃるのはルルーナ様です。……殿下のお姿を、見せるべきではありません」
ササの言葉に、ハッとしたように殿下は目を伏せ、ようやくメイドから視線を外した。
「……許す気はない。けれど、話はあとで聞く。――まあ、大体は察しがついてるけどね」
そう呟き、殿下はルルーナの方へ向き直る。
「ごめん、ルルーナ嬢。すべて、俺の不注意のせいだ」
「謝らないでください、殿下。私はもう、平気です。解毒薬も効きました」
けれど、殿下の表情はなおも険しいままだ。
「……本当に、大丈夫か。だけど……ルルーナ嬢が毒に耐えられるのは、なぜなのか……それも気になるが。今日は帰って。後日、手紙を送る」
帰るよう促す殿下。けれど――。
私は首を横に振った。
「……いいえ。帰りません。どうしてこの女性が、毒を飲ませようとしたのか――その理由を、聞かせてください」
もしかしたら、私の“呪い”が原因だったのでは……そう考えるだけで、胸の奥が冷たくなった。




