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19話

 紅茶を飲み血を吐いたルルーナにカーサリアルは近付き、悲痛な声をあげて抱きしめた。


 だが、肝心のルルーナは。


 ――これは舌がビリビリと痺れ、胃痛がズキズキして即効性の毒。致死量には至らないけど、今までに体験したことがない新しい毒だと、口元が緩みそうになり唇を噛んだ。


 それが毒に苦しむ姿に見えたのだろう、カーサリアルは自分も毒を飲んで辛いはずなのに、ルルーナを見て、いまにも泣きそうな表情を浮かべていた。


 ――カーサリアル殿下、私は大丈夫ですわ。


「シャロン! オミナル草とスロン草の粉末、薬包紙が欲しいわ」


「ササ、俺の薬棚十四番と二十五番の薬草瓶をここへ持ってきて、あと薬包紙もだ」


 二人同時に声をあげた。


 ルルーナの毒に対して的確なメイドへの指示に、カーサリアルの細い瞳が開く。それは自分が今、ササに伝えた薬草と同じ薬草をメイドに伝えている。


 そして慌てず、自身も背もたれに置いた自分のポーチを開け、変わった道具を取り出した。


 ――なぜ? ルルーナ嬢は毒で苦しまない。


 普通の令嬢ならば、毒でやられた驚きと胃痛で苦しむはず。しかし腕の中のルルーナは冷や汗は流すものの、平然としている。このルルーナの行動を見たカーサリアルの驚きは魔力が漏れ、部屋の温度を下げるほどに大きかった。


「カーサリアル殿下、腕輪で魔力を制御していますが、魔力が漏れています。ここを凍らせたくなければ、気持ちを落ち着かせてください」


「……あ、ああ、すまない」


 フウッと息を吐き、カーサリアルは自分を落ち着かせたが。目の前でメイドから薬草を受け取り、淡々と薬草を調合するルルーナに驚きと面白さで、カーサリアルは喉の奥でクッククと笑った。


(俺の初恋の子は可愛くて、俺を驚かせるほどに面白い。あの婚約者から早く奪いたい。そしてズッと、俺のそばにいて欲しい)


 カーサリアルは黙々と解毒薬を作る、ルルーナを見つめた。



 +

 


 ルルーナの知識は独自のもので、基本的なものではなかった。

 

「ルルーナ嬢一つだけ言ってもいい?」

「はい、なんでしょうか?」


「スロン草を、あとひと匙入れるともっと効くよ」


「スロン草をあとひと匙ですか? あ、舌にピリリと感じる毒だからですか?」


 いいことに気付いたと、カーサリアルは頷く。


「そう、それのほかにスロン草は浄化草とも言われていて、毒を体の外に出してくれる。空気のよどみ、気分がすぐれないとき、紅茶に淹れて飲むといいよ」


 そう教えてくれたカーサリアル様を、ルルーナはキラキラとした尊敬の瞳で見つめた。


「まあ、スロン草にそんな効能があったのですね、知りませんでした。本の量、屋敷前の畑、カーサリアル殿下は薬草に付いてお詳しいのですね」


「ああ、詳しいよ……」


 カーサリアルはその後の言葉が出なかった……命を常に第一王子と王妃に命を狙われていて……嫌でも、カーサリアルは毒について詳しくならなくてはならなかった。


(知識をすべて叩き込んでくれた、薬師のジジィのお陰だけどな)


「殿下は魔法も使えて、薬草にも詳しいなんて……素敵。私は魔法も、薬草も、まだ趣味でしかありません」


 解毒薬を作り終え、しゅんと肩を下ろすルルーナだが、カーサリアルはルルーナが言った「素敵」の言葉に眉をピクッとさせた。


  

 表情は変わらないが、眉を動かしたカーサリアル殿下を見た、側近のササは慌てた。まずい、このままでは魔力を抑えられず、部屋全体を凍らせてしまう。


 ――それは、ここにいる者の命の危険です。

 

「早く、カーサリアル殿下、解毒薬をお飲みください」

 

「そうです。ルルーナお嬢様も、手に持ったままの解毒薬をお飲みください。」


 二人は平気で話してはいるが毒を飲んでいる。

 そして、二人の顔色が徐々に悪くなっていた。


「「ゴフッ!」」


「「は、早く、お飲みになってください!」」

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