15話
ルーラお父様に呼ばれて書斎へと向かい、扉を軽く叩いて開けると、中にはカーラお母様の姿もあった。私が丁寧に一礼すると、二人ともどこか険しい表情を浮かべていた。
「ルルーナに手紙が届いた」
「私に……? どこからですの?」
「第二王子、カーサリアル・ローギアス殿下からだ。ルルーナ、お前は人嫌いで有名な第二王子と、いったいどこで知り合ったのだ?」
――第二王子? ……え? あの図書館で出会った男性が、第二王子のカーサリアル殿下だったの?
「ルーラお父様、殿下とは、シャロンと王都の図書館へ行ったときにお会いしまして……ほんの少し、お話をしただけですわ」
「それだけか?」
「はい。それ以上のことは、なにも」
――まずい。
いま私が、お父様に頼み込んで裏庭に造ってもらっている温室。そこでこっそり、解毒草を育てる計画を立てていた。なのに……その図書館で、あの方に手を取られ、手の甲に口づけまでされたなんて――もしお母様に知られたら、「婚約者のいる身で軽率だ」と叱られて、この計画も取りやめになってしまうかもしれない。
――でも、変。
九度目の巻き戻り前なら、カーラお母様は真っ先に私を叱ったはずだ。「婚約者以外の男性と、軽々しく距離を詰めるものではありません」と。お父様も、もっと問い詰めてきた。
……それなのに、何も言わないなんて。
――第二王子からの手紙、だから……?
「ルルーナ。せっかくのご招待だ。第二王子に会いに行ってきなさい」
「そうよ、ルルーナ。きちんと身支度を整えて、礼を欠かぬように」
「……はい。わかりました、ルーラお父様、カーラお母様」
どこか違和感を覚えつつ、私はお父様から手紙を受け取った。
*
部屋に戻り、届いた手紙を読む。
そこには、図書館での出会いに触れた言葉。そして、彼が第二王子カーサリアル・ローギアスであることの告白。さらに、王城内にある第二王子の私邸への招待の文。そして、最後にはしっかりと「ダルタニオン公爵家の令嬢ルルーナへ」と記されていた。
(……彼は、王家の方。だから私の素性も、当然ご存知だったのね)
二日後の午後。私は殿下の屋敷へ伺うこととなった。
その日までにドレスを選び、何度も鏡の前で挨拶の練習を繰り返す。
――もう一度、あの人に会えるのは……正直、嬉しい。
けれど、私は婚約者のいる身。それでも、会いに行ってもいいのかしら?