14話
図書館で出会った切れ長な瞳の男性――カサリアからの招待状が来る日を心待ちにしていた。だが、手紙が届く気配は一向になかった。
「やはり社交辞令だったのね……」
そう呟き、胸の中でわずかな希望を押し殺す。
気を取り直して日課をこなすことで、心の動揺を紛らわせる。
(焦っても仕方がない……まずは私ができることをやらないと)
私は風魔法を使って、毒草や解毒草を乾燥させる作業を始めた。鮮やかな緑色をしたルチ草を手に取り、書物に記されている通り、紅茶にひと振り加える。
(舌が痺れる感覚、と書かれていたけど、実際はどんな感じなのかしら……)
恐る恐る紅茶を口に含むと、確かに舌先からじわじわと痺れが広がる感覚がした。その苦味と不快感を堪えつつ、解毒草である、パイナの葉を噛み砕いて飲み込む。
(……苦い! でも効いているみたい)
解毒草が効果を発揮し、痺れが引いていく感覚にほっとする。だが、書物だけを頼りにしたこの実験は、常に危険と隣り合わせだと分かっていた。
(本当なら薬師の家庭教師について、もっと体系的に学びたいのに……)
家庭教師を探しても見つからず、薬師見習いの資格取得の勉強も進まない。焦る気持ちだけが膨らみ、手が止まる。
(何も進んでいないみたいで……嫌になる)
そんな思いを抱えたまま、私が小さくため息をついたそのとき――。
部屋の扉が、コンコンコンと軽やかにノックされた。
入室を許可すると、専属メイドのシャロンが現れる。
「お嬢様、あなた宛に手紙が届きました」
「私に手紙?」
予想外の知らせに、私の胸が小さく高鳴る。
「はい。ただ……旦那様から、その手紙について直接お話があるとのことです」
「お父様から話が?」
シャロンの言葉に、私の心は一層ざわつく。
――もしかして、図書館で出会った彼からの手紙なのでは?
「分かったわ。すぐに向かうとお伝えして」
「かしこまりました」
シャロンが退出した後、私はそっと自分の胸に手を置く。期待と不安が入り混じる心のざわめきを抑えながら、父の待つ書斎へと向かう準備を始めた。
(もし、本当に彼からの招待状だったら……どうすればいいの?)
心の奥で芽生えた小さな期待が、どうか裏切られませんようにと祈るような気持ちで、私はそっと書斎の扉を開けた。