12話
「楽しそうだな……。ところで、どんな本を読んで笑っていたの? え? 薬師の本?」
突然の質問に私は驚き、読んでいた本を慌てて閉じた。
「見ないでください! わ、私がどんな本を読んで、笑ったっていいじゃありませんか!」
未だに握られたままの手。その感触は熱を持ち、彼女の頬まで火照らせる。それも当然だった――手を繋ぐなんて、エスコート以外の経験がない。
(カサロ、お父様とと全然違う手……私よりも、ずっと大きくて、ゴツゴツしている……って、わ、私、何を考えてるの⁉︎)
私は羞恥心から顔を伏せた。その仕草を見逃さなかった男性が、面白そうに声をかける。
「今度は俯いてどうした?」
「なんでもありません。私のことなど、お気になさらず」
「そう?……でも、君の頬がこんなに真っ赤だけど」
「⁉︎」
私は驚き、勢いよく顔を上げて男を睨んだ。
「こうなったのは、あなたのせいです!」
「俺のせい? ただ君の手を握っているだけなのに」
男はクスリと笑うと、繋いだ手の甲にそっと唇を落とした。その柔らかな感触に、私は「ピャッ」と小さな悲鳴を上げる。
(こ、こんなこと……婚約者のカサロだって、したことがないのに……!)
慣れない行動に心臓がドキドキと高鳴り、私はますます顔を赤くした。
「おや、また赤くなったね。君が読んでいる本は難しいものばかりなのに、反応がこんなに可愛らしいとは」
「私が読んでいる本と、この頬の色は無関係ですわ。こんなこと……慣れておりませんの!」
不意に男の細い目がわずかに開かれ、青い瞳が覗いた。その澄んだ青の美しさに、私は思わず彼の顔を見つめてしまう。
「な、なに? そんなに俺を見つめて」
「あ、ごめんなさい……。あなたの瞳が綺麗で、つい……」
気まずそうに目を逸らすが、内心では彼の青い瞳に魅了されていた。
(どうして、こんなに綺麗なの? なんだか目が離せない……)
私の言葉に、男性は小さく微笑んだ。
「俺の瞳が綺麗か……そう言ってくれたのは、これで二度目だね」
「え? ……二度目?」
その言葉に疑問を抱き、彼を見つめ返した。再び目が合った瞬間、男の手がそっと彼女の頬に触れる。驚きに固まる私を、男の青い瞳がやさしく見つめていた。
(どうしてこんな……優しい瞳なの?)
胸は高鳴り、思考が乱される。
(今日初めて会ったばかりなのに……この人の瞳に引き込まれてしまう。私は、これからどうなってしまうの……?)
繋いだ手から伝わる熱と、彼の優しい眼差し。それらすべてに、私の心は翻弄され続けていた。