9話
王都の図書館は、屋敷の書斎とは比べものにならないほどの膨大な書物と、多くの人々で賑わっていた。私はその壮大さに胸が高鳴るのを感じながら、本棚を見渡した。
(この図書館なら、まだ見ぬ植物や毒の知識がきっと見つかるはず)
入場料を払った際に、借りた魔導具の案内板を手に取る。この案内板には図書館内の地図が表示されており、本棚に何の書物があるのか検索もできる便利な道具だ。
(落ち着いて、ルルーナ。淑女はここではしゃがないのよ……心の中でだけ楽しみましょう)
小声で自分に言い聞かせつつ、振り返るとシャロンが周囲の書棚に圧倒されている様子だった。私は彼女にそっと耳打ちする。
「シャロン、それぞれ読みたい本を探しましょう。二時間後にここで集合でいいかしら?」
シャロンはコクコクと頷き、お茶の歴史に関する書物がある、棚を目指して歩いていった。
(さて、私は毒や植物に関する書物を探しましょう)
案内板を頼りに、植物の書物が集められた棚へ向かう。到着した棚には、私が読みたかった書物がずらりと並んでいた。
棚の中には、これまでの九回の死因となった毒について詳しく書かれた本が並んでいる。
ズカの毒の実、キロ毒キノコ、水色のヌススルの花、毒蛇ジャージャー、シロミの毒花、毒バチスローン、ザゲの花、トル草……そしてスノーフレの白い花。
(毒で死んだあの苦しみは、今も鮮明に覚えている……)
私は本を手に取り、次々と目を通していく。そのうち夢中になり、読書スペースに戻らず本棚の奥へ奥へと進んでしまった。
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「【図書館にいる皆様にお知らせします。この図書館に、ロマネスク国第二王子がいらっしゃいます。安全確保のため、二時間ほど図書館から退出し、外にあるレストランや談話室でお過ごしください。繰り返します】」
館内放送が流れたが、私は本に没頭して聞き逃していた。
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放送後、図書館の入り口に現れたのは、黒いジュストコールにローブを羽織った黒髪の髪の男性と、赤い髪で眼鏡をかけた燕尾服の男性だった。扉が魔法で施錠される音が静かに響く。
黒髪の髪の男性は両腕に魔力を遮断する、腕輪を付けられ、図書館内での魔法の使用を禁じられていた。
「……なんだよ。ただ本を読みに来ただけなのに、毎回これだ。俺が無関係の人間を、わざと凍らせるわけないだろう!」
苛立ちを隠さない水色の髪の男性に、赤い髪の側近が淡々と返す。
「カサリア様、確かにそうおっしゃいますが、前回も王城の庭園や噴水、王の間を凍らせましたよね?」
「それは奴らが、俺を苛立たせることばかり言うからだ! 俺の実力を見くびるくせに、口だけは達者な連中だ!」
カサリアと呼ばれた第二王子は、靴音を響かせながら館内を歩き回り、不機嫌そうに呟き続けている。彼は昨日、王城の書庫を凍らせて使用不能にしてしまい、修繕に数ヶ月かかる事態を招いた。そのため、王城の書庫にある複製版や特殊書物を読むために、図書館を訪れていた。
しかしそのことを知らない私は、最奥の本棚で夢中になって毒や植物に関する本を探し続けていた。
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(なんて、面白いのかしら!)
読みたかった本を次々に手に取りながら、私は足音や施錠音にも気づかず、図書館の奥深くで一人ウキウキと書物を物色していた――気づかないまま、王子と側近が図書館内を歩いていることも知らずに。