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プロローグ(???)
大雨の中、男は傘もささず、ひとつの墓の前にただ立ち尽くしていた。その男性の手には、水色に淡く光る球体が握られている。
「俺に少しでも、勇気があれば……。いや、たとえ、君が俺を好きじゃなくて、誰か他の人のものであっても……よかったんだ」
男は静かに語りかけるように、空に視線を上げた。
「愛する、君がこの世界にいてくれるだけで、俺には十分だった。……君のいない世界なんて、想像もできないよ」
男は視線を下げ、手の中の球を見つめる。
「でも、これを使えば――もう一度、君に会えるかもしれない」
そう呟いた瞬間、男は球を強く握りしめ、砕いた。
粉々に砕けた球の光が足元に広がり、時計のような魔法陣を描き出す。
淡く輝く光が、地面を、空を、街を、そこにいた人々さえも飲み込み、静かに消し去っていく。
「帰ってきてくれ、この世界に。……今度こそ、俺が君を守るから」
最後の光が男を包み込むその直前、大粒の雨に混じって、大粒の涙が男の頬を伝う。そして、消える間際に、誰にも届かぬような小さな声で呟いた。
「俺は……君だけを愛してる」