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国王と勇者の対面

 その一言で、場の空気が瞬時に張り詰めた。


 広間に並ぶ貴族や廷臣たちが、息を潜める。


 無数の視線が、まるで刃のように俺たちへと突き刺さっていた。


 完全に――俺たちは国王の掌の上だ。


 生かすも、退けるも、すべては玉座の男の一存。


「余はアレキサンダー。オリンス王国を統べる王なり」


 静かだが、逆らうことを許さぬ声だった。


 そんな張り詰めた緊張の中で、俺の身体も思わず強張ってしまう。

 普段なら空気などお構いなしのリリカでさえ、今は黙ったままだ。


 タマコの尻尾もぴたりと動きを止めている。


 そして――玉座の男の視線が、ゆっくりと俺たちをなぞった。


 リリカ。

 タマコ。

 ピルク。

 カルラとムサシ。

 そして最後に、梨香。


「勇者よ」


 その声は決して大きくない。

 だが広間の隅々まで、はっきりと届いた。


「貴様は、何のために剣を振るう」


 尋問じみた問い。

 梨香の喉が、ごくりと鳴るのが分かった。

 リリカの胸元に抱かれている俺の触角にも、その震えが伝わる。


 ――大丈夫だ、梨香。勇者のお前ならきっと答えられる。パパは信じてるぞ。


 そんな俺の想いが届いたのか。


 梨香は一歩前へ出て、玉座を真っ直ぐに見据えた。


「私は――守るべき大切なもののために剣を振るいます」


 静かな声だったが、はっきりと響いた。


「それは家族であり、友であり、そして――」


 一瞬だけ、梨香の視線がこちらへ向く。


「この私を受け入れてくれる居場所です」


 広間に、わずかなざわめきが広がった。


「……ほう」


 アレキサンダー陛下は微動だにしない。

 ただ、指先で玉座の肘掛けを――トン、と軽く叩く。

 その鋭い目が、もう一度梨香を見据えた。


「家族、友、居場所……か。ずいぶんと、勇者らしからぬ答えだな」


 玉座の上で、アレキサンダー陛下はわずかに口元を歪めた。


 広間の貴族たちの間に、小さなどよめきが走る。

 だが王はそのざわめきを意にも介さず、肘掛けに頬杖をついた。


「勇者とは本来、世界を救う者だと余は聞いておる」


 静かな声だった。

 だがその言葉には、明らかな試しが含まれている。


「だが貴様の答えは違う」


 王の鋭い目が、梨香を射抜いた。


「家族、友、居場所……か」


 玉座の男は、しばし考えるように沈黙する。

 そして、ぽつりと続けた。


「――よかろう」


 広間に、わずかな空気の緩みが生まれた。


「大義を掲げる者など、世には掃いて捨てるほどいる。だが己の守るべきものを知る者は、案外少ない」


 王はそう言うと、指先で肘掛けを軽く叩く。


「では次に問おう」


 その視線が、今度は一行全体へと向けられた。


「そなたら――大聖堂と事を構えたそうだな」


 その瞬間。

 広間の空気が、再び張り詰めた。

 貴族たちの間から、押し殺したざわめきが広がる。


「勇者が教会と衝突した」


 王は淡々と続ける。


「これは王国にとって、些か厄介な話でな」


 その言葉は、責めているようにも聞こえるし、ただ事実を述べているだけにも聞こえる。

 まさに老獪な王の言い回しだ。


「さて、勇者よ」


 アレキサンダー陛下はゆっくりと身を起こす。


「余は教会とも、王国とも、無用な争いは望まぬ」


 王の鋭い視線が、再び梨香を捉えた。


「――貴様らは、教会と敵対するつもりか?」


 アレキサンダー陛下の向ける視線に臆することなく、梨香は再び答える。


「敵対するつもりではございません。ただ真実を知ってしまっただけです」

「……ほう」

「しかし、それによって大切なものが危ぶまれるようであれば……私は迷いません」

「そうか」


 梨香の答えに、アレキサンダー陛下はふっと軽く息を吐いた。


 その目はわずかに細められ、まるで獲物の値打ちを見極める狩人のようだった。


「……それと」


 王の視線が、ふとリリカの胸元へ落ちた。


「……へ? もしかして王様、リリカのおっぱいが気になる的な? 王様もえっちじゃん~」


 何かを勘違いして胸元を寄せるリリカの軽口で、周囲の空気が絶対零度のように冷え込む。


「ちょっ、リリカさん!? さすがにそれは不敬が過ぎますって!!」

「そうですよリリカちゃん!!」

「え~? でも王様、確かにリリカのおっぱい見てたし~」


 慌てふためくピルクとタマコにも、リリカはあくまで思ったことをそのまま口にする。


 気のせいか、カルラが肩を震わせて笑いをこらえているように見える。


 リリカ、お前な……。


 そんな彼女に、アレキサンダー陛下は突然大きく笑い出した。


「あっはっは! 面白いことをほざくエルフの娘だ!」


 広間の空気が一気に緩む。


「……だが国王の名誉として言っておくが、余の注目はそなたではない」


 王の視線が再びリリカの胸元へ。


「その珍しい虫だ」


「ヘラクレスのこと?」


 キョトンとするリリカをよそに、アレキサンダー陛下の鋭い目線が俺へ向けられた。


 そうか、まさかこの俺ヘラクレスオオカブトの魅力に国王陛下も見初められたわけか。ふふふ……。


「ちょいちょーい。ヘラクレスぅ、戻ってこーい」

『おっと、失礼』


 リリカの呆れた呼び掛けに俺が角を上げて反応すると、アレキサンダー陛下が低く笑った。


「人の言葉に反応するとは、ますます面白い虫だ」


 王の目に、ほんのわずかだが興味の光が宿る。


「……孫が放っておかないかもな」


 ん? 国王陛下のお孫さん?


 その言葉に俺が引っ掛かっていると、梨香が静かに口を開いた。


「パパ……いえ、ヘラクレスは私の父とも呼ぶべき存在です」


 広間の視線が一斉にこちらへ向く。


「私は彼から、数えきれないほど多くの大切なことを教わりました」

『梨香、お前……』


 澄み渡るように純粋な瞳でそう告げる梨香に、俺は胸の奥がじんと熱くなる。


「ははは、それは面白い」


 アレキサンダー陛下は愉快そうに笑った。


「つまり、その虫こそが勇者の原点とも言える存在なのだな」

「その通りです、陛下」


 梨香の言葉に、王はしばし沈黙する。


 広間の空気が再び張り詰めた。


 そして――


「――良かろう」


 低い声が、広間に響いた。


「王家に刃を向けぬ限り、そなたらの行動は黙認しよう」


 貴族たちの間に小さなどよめきが走る。


「勇者が何を成すか……余も見てみたくなったのでな」

「ありがたきお幸せ」


 梨香が深く頭を垂れる。


 その一方で、またしてもリリカが余計なことを言い出した。


「それって王様に認められたってことじゃん! リリカたちちょービップって感じ~!?」

『こら、リリカ! まだ謁見は終わってないぞ!』

「いい加減言葉は慎んでください、リリカさん!!」


 俺とピルクがリリカを咎めるのをよそに、カルラはついに堪えきれなくなって笑い出した。


「――カハハハ! やはりそなたは面白いのう、リリカ」

『あれはただの愚か者だ』


 ああ、ムサシよ。今ばかりは君に同意せざるを得ないよ。


 こうして――どうにか無事、俺たちは国王陛下との謁見を乗り切ったのであった。

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まさかのリリカちゃんの底なしの明るさのおかげで危機を乗り越えられる事態になるとは! 王様、風貌が風貌なので、リリカちゃんや梨香ちゃんにあ~れ~な事を考えている展開なのではないかと期待……いえ、警戒し…
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