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決闘の行方

 ――先に動いたのは梨香(リカーシャ)だった。


「最初から全力でいかせてもらう! ――セイクリッド・スラッシュ!!」


 聖剣が眩く光を放ち、空気を裂いて一気に間合いを詰める。

 閃光の一撃――しかしカルラは、薙刀の長い柄でそれを寸分違わず受け止めた。


「なっ!?」


 驚愕する梨香(リカーシャ)

 カルラは受け止めたまま余裕の笑みを浮かべる。


「なかなかの太刀筋だ。並の騎士共なら瞬殺されていたであろう。だが――」


 カルラが薙刀をひねり、梨香(リカーシャ)の剣を押し退ける。

 同時に、足運びが変わる。


「わらわには通用せん! ――舞踏刃!」


 薙刀が円を描く。

 舞うように軽やかで、鋭く、風を裂く連撃。

 梨香(リカーシャ)は防ぐのがやっとだった。


「くっ……!」


「リカねぇ!」

「さすがカルラお姉ちゃんです、まるで隙がないですぅ……!」


 タマコの解説通り、カルラの動きはまるで舞踏。

 一見大振りなのに、踏み込みも体重移動も一分の隙もない。


「ほらほらぁ! そなたの力はこの程度か、勇者殿よ!」

「まさか! ――ルミナス・カウンター!!」


 梨香(リカーシャ)の聖剣が爆光を放ち、カルラの薙刀を弾き飛ばす。

 その反撃の鋭さに、カルラの足が一歩下がった。


「出ました! あれはリカーシャさんが最近編み出した新技です!」


『なにっ!? そんなスキルまで!? さすが俺の娘、進化が止まらん! パパは誇らしいぞ!』

「あーっ、ヘラクレスが泣いてる~。でも分かる気もする~!」


 リリカの茶化しに、緊迫した空気の中でも笑いが漏れる。

 だが戦場では、二人の剣士が再び激突していた。


「はああああああああっ!!」

「それでこそ勇者だ! そなたのような者と戦えるとは愉快愉快!」


 刃と刃が幾度もぶつかり、閃光と火花が舞う。

 互いの武器が奏でる金属音は、もはや音楽のようだ。


 ――しかしカルラは、まだ笑っていた。


「どうやら太刀筋では互角のようだな。ならば次は――妖術といこうか!」


「妖術、だと!?」


 カルラが翼を広げ、天へと舞い上がる。

 風が渦を巻き、雷鳴が轟く。


「食らえ、雷鳴!」


 空からの薙刀の一閃とともに、稲妻が地を貫いた。

 梨香(リカーシャ)は一瞬反応が遅れ、雷撃をまともに受ける。


「ぐっ……!」

「リカーシャさん!!」


 焦げた空気と閃光の中、梨香(リカーシャ)が膝を着く。

 カルラが息をつき、呟いた。


「少々力加減を誤ったか……興ざめじゃな」


「――まだ、だ!」


 梨香(リカーシャ)は震える膝を叩き、再び立ち上がった。

 その剣が光を集め、放たれた一閃がカルラの頬をかすめる。


「ほう……!」


 血を拭うカルラの口元に、愉悦の笑み。

 梨香(リカーシャ)の瞳には、未だに燃える闘志が宿っていた。


「私は決して挫けない! この手で勝利を掴むまで!!」


 その瞬間、梨香(リカーシャ)の右手に女神アテナルヴァの紋様が浮かび、背中には黄金の翼の幻影が広がった。


「え、なにあれ!? 背中に翼!? ちょー神々しいんだけど!」

「リカーシャさんの潜在力がついに解放されたんですぅ! 感動ですぅ~!」


 リリカが感嘆し、タマコが涙ぐむ。

 俺も思わず角を震わせた。


『これが……勇者の覚醒! リカーシャ、お前は本当に――!』


「ようやく本気を見せてくれたか、勇者殿。ならば、わらわも応えねばなるまい!」


 カルラが再び翼を広げ、風と雷の魔力を纏う。

 空から急降下し、薙刀を構えた。


「我が奥義――風雷落とし!!」

「来い、カルラ殿ッ!」


 二人の刃が正面からぶつかる。

 光と雷が混ざり合い、轟音が世界を震わせた。


「う、ううっ……!」

「とてつもない力ですぅ~!」

「まるで神話の戦い……!」


 ピルクたちが後ずさるほどの衝撃波。

 そして光が晴れた時――


 お互い、地に大の字で倒れていた。


「くっ、もう……立てぬか……!」

「奇遇だな……わらわもだ……」


 ――勝敗なし。

 しかしそこにあったのは、互いの力を認め合う笑みだった。


「リカーシャさん! 今すぐ手当てします――《ヒール》!」


 駆け寄ったピルクが両手をかざすと、やわらかな光が梨香(リカーシャ)を包み込む。

 焦げた衣の端が修復され、血のにじんでいた頬も瞬く間に癒えた。


「助かった、ピルク」

「このくらいお安いご用ですっ!」


 ピルクは満面の笑みで胸を張る。

 梨香(リカーシャ)を支えながら、その顔はどこか誇らしげだった。


 そんな梨香(リカーシャ)の胸元に、俺も翅を震わせて飛びつく。


『よくやったな、梨香。お前……見違えたぞ』

「えへへ。パパが見ててくれたから、がんばれたんだよ」


 いつものように照れ笑いを浮かべるリカーシャ。

 戦いの緊張が解けたその表情を見ただけで、俺の心は温かく満たされた。


 ――と思ったら、リリカが勢いよく抱きついてきた。


「リカねぇ! 今の何!? ちょーすごかったんだけど!!」

「ふふ、これも日々の鍛錬の成果さ」


「リカーシャさん最高ですぅ~!」


 そこへタマコまで駆け込んで、狐の尻尾をばっさばっさ振りながら抱きついてくる。


 ……おいおい、胸の谷間で押し潰されてる俺の立場は!?


『ぐぬぬ……! 喜ばしいけど……息ができんっ!』

「ははは、ヘラクレスがぺちゃんこになってる~」

「むーっ、でもヘラクレスさん幸せそうですぅ!」


 賑やかな笑いの中、ひときわ落ち着いた声が響いた。


「見事だった、勇者殿。王家がそなたに目を留めるのも納得だ」


 振り向けば、そこにカルラの姿。

 戦いを終えた今もなお、凛とした気迫をまとっている。


「あなたも……すごかった。あの雷と風の一撃、忘れない」

「ほう、そう言われると照れるな。だが、そなたの光の剣も見事だった。――その輝き、王家の守護にふさわしい」


 カルラが口元をほころばせ、梨香(リカーシャ)に右手を差し出す。

 梨香(リカーシャ)は一瞬ためらいながらも、その手をしっかりと握り返した。


「これから共に歩むとしよう、勇者殿。王家の使者として、そして一人の武人としてな」


「……ああ。こちらこそ、よろしく頼む!」


 握られた二人の手が、午後の陽光に照らされて輝く。

 ――新たな仲間との誓いの瞬間だった。

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― 新着の感想 ―
新キャラクター、カルラさんの魅力が凄いですね! ナイスバディでクワガタを従えているお姉さま! リリカちゃんやリカーシャさんと似通っている部分があれど同時に明確に違う事もありますね。 今度はさらに増…
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