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真なる勇者の覚醒

 証拠の日記と魔道具が晒され、広場の民衆は怒号と混乱に包まれていた。


 そのざわめきを切り裂くように、甲高い金属音が響き渡る。


 ――ギィン!


 教会の大扉が開き、白銀の甲冑に身を包んだ巨体が現れた。

 教会騎士団長、メイデ。

 先日の戦いで倒れたはずのその男が、今まさに群衆の前に姿を現した。


「……メ、メイデ団長!?」

「生きていたのか……!」

「やはり女神は我らを見捨ててはおられぬ!」


 民衆のざわめきが一転し、信仰に縋る声が広がる。

 メイデは無表情に群衆を見渡し、やがて壇上の梨香(リカーシャ)たちへと剣を向けた。


「愚か者ども。勇者を騙り、虚偽を広め、民を惑わすとは……この私が裁く!」


 その声音は響雷のように広場を揺らす。

 甲冑の隙間からは禍々しい瘴気が滲み出し、かつての聖騎士の面影はそこにはなかった。


「……悪魔の力を宿している!?」


 ソフィーラさんが息を呑む。

 メイデの背からは黒き靄が噴き出し、剣身には赤黒い紋様が浮かび上がっていた。


「見よ、これぞ救済の証が示す力! 女神は私を選ばれたのだ!」

「嘘をつくなっ!」


 梨香(リカーシャ)が声を張る。


「それは民を犠牲にした穢れの力! 本物の勇者はそんなものに頼らない!」


 群衆の間に再び迷いが走る。


「どちらが本当なんだ……」

「勇者は……誰なんだ!?」


 メイデは嘲笑を浮かべ、剣を振りかざした。


「ならば力で証明するまで! 偽りの勇者を屠り、真実を示す!」


 轟音とともに、メイデが大地を踏み砕いて突進してくる。


 梨香(リカーシャ)が剣を構え、俺は角を振り上げる。

 仲間たちが一斉に武器を抜いた。


 ――こうして、広場での暴露は一転、民衆が見守る中での決戦へと変わった。


『リリカ! 周囲の防衛は任せた!』

「オッケー、任せてよヘラクレス! ――みんな、リカねぇとヘラクレスを守るよ!」


 リリカの声が広場に響き、仲間たちが一斉に騎士団へと立ち向かった。


 剣戟と叫び声が飛び交う中、広場の中心では――梨香(リカーシャ)とメイデの剣が激突し、烈風が吹き荒れた。


「フハハハハ、見たか偽りの勇者! これぞ真なる正義の力だ!」

「馬鹿を言うな! 民を犠牲にして何が正義だ!」


 つばぜり合いを繰り広げる梨香(リカーシャ)へ、俺も加勢して突撃する。

 しかし角は鋼の盾に阻まれ、押し返されてしまった。


「その動きは見切った!」

『ぐっ……なんて力だ!』


 メイデの押し込みに俺はよろめき、梨香(リカーシャ)も弾かれる。


「パパ! ――くっ!?」


 梨香(リカーシャ)が吹き飛ばされそうになるのを見て、俺は必死に支えようと足を踏ん張った。

 だが、メイデの剛力はそれすら凌駕する。


『なんて奴だ……前よりも格段に強くなっている!』

「それでも、負けない!」


 目を合わせた瞬間、俺と梨香(リカーシャ)の間に光が走った。角に魔力をまとわせ――


『フォトン・セイバー! 一気に決めるぞ、梨香!』

「セイクリッド・スラストぉ!」


 光の刺突が盾を貫き、メイデは大きく後退する。

 だが――。


「甘いな!」


 奴の背中から漆黒の翼が生え、頭には山羊の角が伸びた。

 禍々しい姿は、もはや騎士ではなく悪魔そのものだった。


「フハハハハ! これぞ悪魔融合! 正義の名のもと、悪魔すら従えるのだ!」


 民衆がざわめく。


「悪魔融合……!?」

「教会は本当に悪魔と手を組んでいたのか!」


 俺の心臓が凍る。

 しかしリリカとタマコが群衆の前で叫んだ。


「みんな、落ち着いて!」

「わたしたちがいる限り、誰一人死なせないですぅ!」


 その声に応えるように、仲間たちが結界を張り、観衆を守り抜こうとする。


「なぁに、貴様らを倒せば正義は我らの物だ。――カオス・サンダー!」


 メイデの剣先から雷撃が放たれた。

 咄嗟に俺は梨香(リカーシャ)を庇い、その雷を受け止める。


『ぐあああああああ!!』

「パパ!」

『大丈夫だ……! ノビ~ルホーン!!』


 伸びた角がメイデの翼を貫き、奴は地へ叩き落とされた。


「ぐっ!?」


 俺は続けざまに突進し、上下の角で挟み込む。


 メイデの口から黒い血が溢れる――だが。


「甘い!」


 雷撃が俺の体内を焼き、苦痛に思わず角を緩めた。


『ぐおおおおお……!』

「パパ!」


 俺は立ち上がる。

 六本の脚が震えても、まだ倒れるわけにはいかない。


「これで終わりだああ!」


 空へ舞い上がったメイデが、両手に膨大な魔力を収束させる。

 その禍々しい輝きに、広場全体が絶望に染まる。


「やめて……!」

「メイデ様、正気に戻ってください!」

「助けてくれ……!」


 民衆の悲鳴がこだまする。俺は決意した。


 このままでは広場が消し飛ぶ……もう封印しておく理由はない!


『……これ以上、犠牲は出させない! ――ライジング・ヘラクレス!』


 封じていた奥の手を解放した瞬間、俺の体が黄金の輝きに包まれた。


「パパ、その姿は……!?」

『奥の手だ! 梨香、乗れ!』

「うん!」


 梨香(リカーシャ)が俺の胸に立ち上がる。黄金の鞘翅を広げ、俺は重低音の羽音を立てて空へと舞った。


「飛んだ……!」

「本物の勇者だ……!」


 民衆の絶望が、希望へと変わっていく。


『「メイデえええええええ!!」』


 角と剣を同時に掲げ、声を合わせる。


『「ブレイブ・カリバー!!」』


 黄金の刃が悪魔の翼を裂き、全身を貫いた。


「がはっ……まさか、この私が……正義が……! ぐああああああああ!!」


 メイデの身体は闇の魔力に呑まれ、爆散した。

 広場に、静寂が訪れる。

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