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ソフィーラの覚悟

 外に飛び出した俺たちを待ち構えていたのは、白づくめの教会兵たちと、見覚えのあるギルドの男たちだった。


「……ギルドまで教会側に!?」

「そんな……!」


 裏切りに、ソフィーラさんは歯を食いしばり、タマコは声を震わせる。


 どうやら、思っていた以上に状況は悪化していたようだ。


 そのとき、白装束の一団の中から一際豪奢な装飾をまとった男が前に出た。


「ふむ、思ったより素直に出てきましたね。……降伏するおつもりかな?」


「メイデさん……! 教会騎士団長のあなたまで……!」


 ピルクが驚愕の声をあげる。

 それに気づいた男、教会騎士団長メイデは皮肉な笑みを浮かべた。


「やあ、ピルク君。勤勉で優秀な君が、まさか異端の徒に加わるとは……残念です」

「ボクはリカーシャさんと共にあります! その信念は、どんな状況でも変わりません!!」


 ピルクの言葉に、メイデは小さくため息をつく。


「……ならば、もはや情けは不要。全員、異端として拘束する!」


 その号令とともに、白づくめの兵たちが足元に魔法陣を展開。光が渦巻き、詠唱が始まる。


「させないっ! ヒート・インフェルノ!!」


 ソフィーラさんが槍を振るい、灼熱の熱波が白づくめたちを薙ぎ払う。

 炎の壁が一気に立ち上がり、敵の動きを遮った。


「ここは私が食い止めるわ! だから、あなたたちは早く逃げて!」


「えっ……!?」

「でも、それじゃあソフィーラさんが……!」


 リリカとタマコが顔を見合わせ、戸惑いを見せる。


 そんな二人に、ソフィーラさんはにっこりと微笑みかけた。


「大丈夫。私、強いんだから。ちゃんと片付けてから追いかけるわ」


 その瞳には、冗談ではない本気の覚悟が宿っていた。


 ソフィーラさん……。

 自分を囮にして、俺たちを逃がすつもりなのか……!


『ーー行こう、リリカ』

「えっ!? でも、ソフィーラさんを置いてなんて……リリカには……!」

『それじゃあ、ソフィーラさんの覚悟を無駄にすることになる。……君も分かってるはずだろ?』


「……っ!」


 リリカは唇を噛み、拳を握る。


 その背中を、タマコが支えるように言葉をかけた。


「わたしも……! ソフィーラさんを信じるですぅ!」

「タマっち……」


 リリカはタマコにうなずき、深く息を吸い込んだ。


「ーー行こ、みんな。リリカたちは絶対、生き延びなきゃ!」

「リリカ……」

「……分かりました、信じましょう。彼女を」


 梨香(リカーシャ)とピルクも、ついに覚悟を決めた表情を見せる。


 その様子に、ソフィーラさんが声を張った。


「この炎も、長くは持たないわ! 今のうちに逃げて!」

「ソフィーラさん……! 本当に、また会えるんだよね!?」

「当然じゃないっ!」

「……約束、だからねっ!」

「ええ、必ず!」


 交わした約束を胸に、俺たちは炎の隙間を縫って走り出した。


 それが、ソフィーラさんと俺たちの――別れの時だった。



 リリカたちが倉庫を脱出した直後、ソフィーラの放った炎の壁が静かに消え、再び白づくめの一団がその姿を現す。


「余計な真似を……部外者が、調子に乗るなよ」

「部外者? 心外ね。私はあの子たちの仲間よ」


 鋭く返すソフィーラに、低く響く声が応じた。


「……たしかに、君は昔からそういう女だったな」


 現れたのは、筋骨隆々とした体躯のギルドマスターだった。


「ギルマス……あなたまで……!」


 裏切りを予感していたとはいえ、やはりショックは大きい。

 ソフィーラは悔しげに眉をひそめた。


「残念だよ、ソフィーラ。君はこのギルドに多くの貢献をしてくれた。だが――」

「結局、教会には逆らえないってわけね」

「……そういうことだ。悪く思うな。――ソフィーラを拘束しろ」


 ギルドマスターの指示で、数人の冒険者たちが一斉に飛びかかってくる。


「簡単に捕まる私だと思わないで!」


 叫んだ瞬間、ソフィーラの長い紫髪が、炎のように紅く染まる。


「イグニッション・フェイズ!」


 その身に炎をまとわせ、ソフィーラは槍を振るう。迸る熱と剛撃が敵を次々と薙ぎ払っていく。


「さすがゴールドランク冒険者……!」

「くそっ、歯が立たねぇ……!」


 シルバー以下の冒険者たちは、圧倒的な力の前に次々と地に伏していった。


 ――しかし、その優勢も束の間だった。


「そこまでです」


 教会騎士団の呪文詠唱が終わり、ソフィーラの足元に光の鎖が走る。


「くっ……!」


 手足を光の拘束具に絡め取られ、ソフィーラの動きが止まった。


「……おい、教会の連中、何勝手に!」

「黙れ、冒険者風情が。ここからは我々が指揮を執る」


 抗議した冒険者の一人が一喝され、場が凍りつく。


 さらに――鎖に流れ込んだ電流が、ソフィーラの身体を襲う。


「う、あああああっ……!」


 全身を駆け巡る痛みに、ソフィーラの手から槍が落ちた。

 硬質な音が、無情にも石畳に響く。


 それと同時に、紅に染まっていた髪も元の紫に戻ってしまう。


 その場に歩み寄ってきたのは、教会騎士団長・メイデ。


「ふむ、手間をかけさせてくれましたね。……もう終わりです。あなたには、教会まで同行していただきますよ」

「……っ」


 あごを無理やり上げられながらも、ソフィーラは必死に目をそらさず、歯を食いしばる。


(ごめんなさい……みんな……。でも、ちゃんと逃げられたわよね?)


 その胸に残るのは、悔しさと、そして微かな願い。


 こうしてソフィーラは、教会の手に堕ちたのだった。

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― 新着の感想 ―
ソフィーラさん! 捕まってしまった!! リリカちゃん達、あの壁画を見てしまった事によって本当に色んな人、というよりも世界そのもののほとんどを敵に回してしまったような感じですね。 状況はどんどん悪くな…
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