強襲
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それからというもの、ソフィーラは匿っているヘラクレスたちのため、毎日のようにヌイヌイタウン内で食料の買い出しや情報収集を繰り返していた。
だが町を歩くたび、指名手配の張り紙は目に見えて増えていく。
紙が風にめくれる音がやけに大きく聞こえるほどで、今では張り紙のない建物を探す方が難しいほどだ。
さらに道行く人々も、顔を見合わせてはひそひそと声を潜めている。
中には露骨に周囲を警戒しながら歩く者もいた。
ソフィーラの胸に、じわりと焦りが広がっていく。
「……もう長くはもたないかもしれないわね」
苦い声でそう呟き、手早く買い出しを終えて旧倉庫へ戻ろうとしたそのとき。
ギルドの正面口に、白づくめの一団が無言で入っていくのが目に入った。
背に刻まれた黒い十字架の紋章を見た瞬間、ソフィーラの心臓が大きく跳ねる。
「……教会の追手が、もうこんな所まで……!」
目を合わせれば命取りになる。
ソフィーラは息を殺し、遠回りをして旧倉庫の地下へと戻った。
*
「……というわけなの。ここがバレるのも、もう時間の問題だわ」
買い出しから戻ったソフィーラさんは、深刻な表情でそう告げた。
荷を降ろす手がわずかに震えているのを、リリカは見逃さなかった。
「今夜には移動しましょう。待っていれば、捕まるだけよ」
「そ、そんな……!」
顔を青ざめさせるピルク。
タマコも口を押さえて小さく息を呑んだ。
リリカは、まだ片付けも終わらない倉庫を見回しながら不安げに言った。
「でも……ここを出たら、どこに行けばいいの……?」
「……町の外れに、古い知り合いの家があるわ。そこなら……」
いつになく弱気なソフィーラの言葉に、ピルクが口を開く。
「……本当に大丈夫なんですか? その人も、ボクたちを追手に売る可能性があるんじゃ……」
「ピルク!」
梨香が思わず声を荒らげるが、ソフィーラは首を横に振った。
「いいの、リカーシャちゃん。……ピルクくんの言うことも一理あるわね。でも、そこ以外に頼れる場所はないのよ」
「ソフィーラ……」
ソフィーラのうつむいた顔を見て、梨香はそれ以上言えなかった。
俺も、ソフィーラがこんなに弱気になるところを初めて見た。
そんな空気の中、ぽろぽろと涙をこぼし始めたのはリリカだった。
「……リリカのせいだよね。リリカがソフィーラさんまで巻き込んじゃったから……!」
『リリカ……!』
俯く彼女を、ソフィーラが強く抱きしめた。
「リリカちゃんは何も悪くないわ。……だって、これは私の意志でやってることだから」
「ソフィーラさん……?」
「だから、最後まで私を頼っていいのよ。リリカちゃんも、みんなも。私が必ず守るから……!」
「ソフィーラさん……! ありがとう……!」
リリカはその胸元で嗚咽しながらも、やがて顔を上げて拳で涙をぬぐった。
「リリカも、ソフィーラさんの役に立てるよう頑張るから!」
「わたしも……! 精一杯お力になるですぅ!」
タマコが耳をピンと立てて声を上げ、リカーシャとピルクも続く。
「私も勇者として、最後まであがく」
「リカーシャさんがそう言うなら、ボクだって!」
仲間たちの力強い声に、ソフィーラはようやく笑みを取り戻した。
「ありがとう、みんな。……ええ、みんなでこの窮地を乗り切りましょう!」
「「「「おー!!」」」」
全員が腕を振り上げる。
もちろん俺も角を掲げて、決意を示した。
「それじゃあ、夜になったらここを出るわ。それまでは少しでも休んで、備えましょう」
そのときだった。
外から武装した集団の足音が近づき、重たい怒号が響き渡る。
「異端の者どもよ! この倉庫はすでに包囲している! 大人しく出てこい!」
「……先に動かれたわね」
ソフィーラが顔を歪め、タマコが青ざめてリリカにしがみついた。
「ふえぇ……っ、怖いですぅ……!」
「タマっち、大丈夫……リリカに任せて……っ」
リリカの手も震えていた。だが彼女は仲間を守るため、恐怖を必死に抑えている。
「出てこないなら、この倉庫ごと爆破する!」
扉が激しく揺れ、外の兵が武器を構える気配がした。
ソフィーラは槍を握りしめ、全員を見渡す。
「……覚悟を決めるしかないみたいね。みんな、行ける?」
「もちろん! リリカ、行っちゃうよ!」
「わたしも……準備できてるですぅ!」
「私も問題ない。いつでも戦える」
「ボクも……!」
もちろん、俺だって戦える!
仲間たちの決意を受け、ソフィーラは静かに深呼吸をした。
「……大丈夫ね。それじゃあ――行くわよ!」
俺たちは出入り口へ駆け出し、外の包囲へと飛び込んだ――!




