ソフィーラさんとの再会
ウェーブがかった紫の長髪に、カモシカのような角。
砂漠だからマントを羽織っているが、間違いなくソフィーラさんだった。
「あら、リリカちゃんたちじゃない! こんなところでどうしたのーーふぐっ!?」
「ふえええん……!! ソフィーラさぁぁぁんっ……!!」
俺たちに気付いたソフィーラさんが声をかけるなり、リリカが彼女に飛び付く。
「ちょっと、いきなりどうしたのよ!?」
「聞いてよソフィーラさ~~ん! うえ~~~ん!!」
胸元で泣きじゃくるリリカにソフィーラさんは少し呆れつつも、今度は梨香とピルクに顔を向けた。
「あら、あなたたちは? 私はソフィーラ、冒険者やってるの」
「……リカーシャ、だ」
「ピルクです」
戸惑いながら自己紹介する梨香とピルクに、タマコが補足する。
「リカーシャさんは勇者なんですぅ! ピルクくんはその従者ですねっ」
「勇者、あなたが……」
「今は追われてる身だがな」
深刻そうに告げた梨香の言葉に、ソフィーラさんが引っ掛かった感じに疑問を示した。
「ちょっと待って、それどういう意味かしら?」
「実はな……」
それから梨香はこれまでの経緯を話す。
サバ神殿で勇者伝説の真実を知ってしまったこと。
それにより教会から追われていること。
それからリカーシャが俺の実の娘だったということ……。
「ちょっと……思った以上に深刻なことになってるじゃないの……!」
「済まない、あなたを巻き込むつもりはないんだ。ほら、リリカ。もう行くぞ」
「えぇ~っ!? せっかくの感動の再会なのに、もう行っちゃうのぉ……?」
ソフィーラさんにベッタリなリリカに、梨香は重いため息をつく。
『梨香の言う通りだ。無関係なソフィーラさんを巻き込むわけにはいかない』
「ヘラクレス……。それは……そうだけど」
渋々リリカがソフィーラさんから離れたところで、俺たちはこの場を後にしようとした。
「済まなかったな。私たちのことは忘れてくれ」
「え~っ、そんなのあんまりじゃん!?」
「何言ってるんですかリリカさん! ボクたちは追われてる身なんですよ!?」
「うう……っ」
「ーー待ちなさい」
そんな俺たちをソフィーラさんが呼び止める。
「事情は分かったわ。でもあなたたちでこの砂漠を抜けるなんて無茶よ、私も協力するから」
「え、いいの!?」
「ええ。だってリリカちゃんたちは仲間だもの、困っていたら放っておけないわ」
「ソフィーラさん……マジ感謝~~~!!」
「全くもう、リリカちゃんも甘えん坊なんだから……」
またしてもリリカに抱きつかれて、ソフィーラさんもちょっと困りつつ微笑んだ。
「とりあえず今日はもう休みなさい。逃避行は明日からよ」
「は~い!」
「本当に感謝ですぅ!」
指を立てたソフィーラさんに言われて、リリカとタマコは休息に入る。
それと入れ替わるように、梨香がソフィーラさんに声をかけた。
「……本当にすまない。あなたを巻き込むなんて、そんなつもりじゃ……」
「気にしないの、勇者様っ。だってあなたたちもリリカちゃんの仲間なんでしょ? それなら私の仲間でもあるわ」
『……済まない』
そう告げるソフィーラさんの懐の広さに、俺は梨香と共に胸が救われる思いになる。
済まないな、ソフィーラさん。今回も世話になるようだ。
安心した梨香は平らなところで横になったので、俺もそのそばで休むことに。
『今日はいろんなことがあったな』
「ああ……。気休め程度ではあるが、私の胸を貸そう」
『ありがとう、梨香』
「……礼には及ばない。だって……その、パパなんだから……」
『そっか』
優しく微笑む梨香の胸に抱かれて、俺もつかの間の休息を取ることにした。
翌朝、俺たちはソフィーラさんの馬車に乗せてもらうことに。
「ふーっ、馬車に乗れてよかった~!」
「ヌイヌイタウンまではかなりの距離があるですもんねっ」
腕を伸ばしてくつろぐリリカと、フサフサの狐尻尾を櫛でとかすタマコ。
「そんなお気楽なこと言ってる場合じゃないですよ。ヌイヌイタウンでもきっとボクたちはお尋ね者でしょうから」
「ええっ、そんな!」
「教会を敵に回すというのは、そういうことだ」
「うう……っ、前途多難すぎる~」
そうかと思えばピルクと梨香の忠告に、リリカはゲンナリしてしまう。
『気にするな、とは言わないが。俺も全力を尽くすよ』
「ヘラクレス~!」
俺が慰めたら、リリカに角をつまみ上げられて頬擦りされてしまった。
全く、リリカもしょうがない娘である。
「人目を避けるために大きな通りは避けるわよ」
「はーいっ」
ソフィーラさんの操縦のもと、馬車は道なき道を進んでいった。
「それでリカーシャちゃん、ヘラクレスとは親子だったって本当? 詳しくお話聞かせてもらえないかしら?」
「ああ。私は女神アテナルヴァ様の手でこの世界に召喚されたのだが、それ以前はパパ……前世のヘラクレスの娘だったんだ」
立派に育った愛娘にマジマジと言われると、やはり照れる。
「そうだったの……。大変だったのね」
「ピルクがいてくれたから、今まで頑張れたんだ。それよりも信じてくれるのか?」
「ええ。だってあなたがウソをついているようには見えないもの。それに、ヘラクレスちゃんもただの虫じゃないと思ってたし」
あはは、ソフィーラさんにはお見通しだったか。
そんなこんなで梨香はソフィーラさんと落ち着いてお話しすることができたのである。
それから魔物や盗賊とも何度か遭遇したものの、ソフィーラさんが一人で全て片付けてしまった。
さすがゴールドランク冒険者のソフィーラさんだな……。
「済まない、ソフィーラ。私も力になれればよかったのだが……!」
「気にすることなんてないわ、リカーシャちゃん。あなたたちは……ちゃんと生き延びることが一番大事なの」
「済まない、ソフィーラ」
梨香はソフィーラさんの厚意に心底申し訳なさそうにしている。
『梨香、今は……ソフィーラさんを信じてみよう』
「……ああ。今は、信じるしかないな。私も、もう少し誰かに甘えてみたいと思った……」
そんな感じで砂漠に森に進むこと二日三日、俺たちはようやくヌイヌイタウン近郊にまで帰ってきた。




