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二人の覚醒


「ヘラクレス~!!」


 毒に倒れたヘラクレスの元に駆け寄るリリカたち。

 だが彼の目からは光が失われ、身体もぴくりとも動かない。


「うそ、ヘラクレス死んじゃったの……!?」

「いえ、まだ……微かに息はあります! ホーリー・リザレクション!」


 ピルクが慌てて杖を向けて回復の呪文を放つも、その顔は曇っていた。


「これは……相当に強力な毒です。それも、邪悪な魔力に深く染まった……!」


「じゃ、じゃあ助からないってこと!?」

「わたしも……癒しの力を……緑の癒し!」


 タマコが手をかざし、優しい緑の光をヘラクレスに注ぐ。


 その時だった。砂煙の向こうに、不穏な影が立ち上がる。


「うわっ……なんか、さっきと姿が変わってる!?」


 リリカが声を上げる通り、そこに現れたパズズは翼が四枚に増え、頭からは異様な長角が伸び、まるで獣と魔神が融合したような異形へと進化していた。


「……我が真の姿を拝ませてやろうとはな。栄誉に思え……勇者の成り損ないどもよ」


 パズズが両手を広げ、闇の奔流を放つ。


 暴風のごとき闇の衝撃に、リリカたちは次々と吹き飛ばされ、床に叩きつけられる。


「きゃあっ!?」

「ううっ……!」

「みんな、無事ですかぁ……!?」


 地に伏せる仲間たちを見下ろし、パズズがせせら笑う。


「ふん、貴様ら如きが我を止められると思ったか?」


 ……だがその中で、ひとり立ち上がる影があった。


「パズズ……貴様の好きにはさせない……!」


 剣を杖にしてゆらりと立ち上がったのは、リカーシャだった。


「ほう……まだ立つか。ならば、その根性だけは褒めてやろう」


 パズズが再び闇の力を集束させる――その時だった。


 リカーシャの脳裏に、鮮やかな“記憶”が突如として流れ込んでくる。



 ーー闇に覆われた神殿、倒れた人々。

 その中心で、震える金髪の少女が祈るように立ち尽くす。


 そこに降り立つ、神々しい光を背負った黄金の甲虫。


 その背には、六つの放射を持つ神紋が浮かんでいる。


「お願い……もう、私には無理だよ……! 勇者なんて、私には……っ!」


 涙を流す少女に、甲虫が神の声を宿して語る。


『そなたは“勇者”ではない。“勇者の魂”を継ぐ選ばれし者だ。勇者の魂は輪廻を巡り、時を超えて再び目覚めるーー導きの時が来れば、な』


 その瞬間、甲虫の背から光が放たれ、少女の身体を包み込む。


 少女は白銀の鎧を纏い、最後に言い放つ。


「ありがとう。私は、立ち向かう。この命が尽きても、誰かが継いでくれるって……信じてるから!」


 ーー記憶の光景が消え、リカーシャは目を見開いた。


「今のは……記憶……? まさか、あの少女は……私!?」


 彼女の右手に浮かび上がるのは、かつての少女と同じ神の紋様。

 金色の光が、まるで宿命を示すように脈動していた。


 そしてーー


『……う、ううっ』


 聞き慣れた声に振り返ると、ヘラクレスが再び立ち上がろうとしていた。

 その背にも、同じ神の紋様が金色に輝いている。


 光と光が共鳴し、神殿全体が淡く震える。


「ヘラクレス……! 生きてるのか……!」

『ああ。リカーシャ……俺にも分かる。君は、前の時代の“あの少女”の魂を継いでいる』

「……そうか。じゃあ、あなたは……!」

『きっと、俺はーーあの時の甲虫の役目を継いでいるんだ』


 二人の目が合い、迷いは消えた。


 魂の絆が今ここに結ばれたのだ。


「パズズ! この光が見えるか!?」


 リカーシャが白銀の剣を振りかざし、ヘラクレスもまた角を輝かせる。


『これは勇者の光。そして導きの甲虫の意志!』

「……ふざけるな……! なぜ、また貴様らが……!!」

『過去を超えてきたんだ、パズズ! お前を、終わらせるためにな!』


 二人の光が交錯し、神殿の瘴気すら霧散させていく。


「行くぞ、ヘラクレス!!」

『ああ!』


 二人は共に走り出す。


 それはかつて神話となった“少女と甲虫”の再来ーーその新たな章の始まりだった。




 リカーシャと魂の絆を結んだ俺は、彼女と共に再びパズズに挑む。


「小癪なぁッ!!」


 パズズが収束させた闇の魔力が、禍々しい球体となって唸りを上げる。


 だが、それを俺は、金色に輝く角で軽く弾き返した。


 弾き飛ばされた魔弾は天井に激突し、爆音と共に破片を撒き散らす。


「なにっ……!?」

「お前の攻撃は、もう通じない!」


 その隙を突き、リカーシャが一気に間合いを詰める。


「せやあっ!」


 聖なる光を纏った剣が、パズズの脚部を切り裂いた。


「ぐおおぉぉ!?」


 赤黒く噴き出した血は、リカーシャの聖なる魔力によって瞬く間に透明な蒸気へと変わる。


『ハリケーンスラッシュ!』


 俺が角を振り下ろすと、そこから生まれた風の刃が渦を巻き、パズズの胸元を斜めに裂いた。


「バカな……! これが勇者と導きの甲虫の真の力というのか……!? ーー認めんぞぉぉぉぉぉ!!」


 叫びと共に、パズズは四枚の漆黒の翼を広げて宙へ舞い上がる。


『リカーシャ、俺の角につかまれ!』

「了解!」


 俺は背中の翅を展開し、風を裂いて飛翔する。


 リカーシャは角をしっかりと掴み、空中で体勢を整えた。


 重低音を響かせるほど強化されたこの翅なら、巨体ごとでも自在に飛べる!


『いくぞおおおおおお!!』

「こしゃくなッ!!」


 パズズが闇の魔弾を雨のように放つ。


 だが、俺の硬質な甲殻はその一発一発をことごとく弾き返す!


『ノビィィィィルホーン!!』


 叫ぶと同時に俺の胸角が伸び、鋭く閃いた一撃がパズズの胸を貫く。


 そのまま神殿の天井へと串刺しにし、奴の動きを封じ込めた。


「なっ、ぬぅ……! ぐうっ!」


『今だ、リカーシャ!』

「任せろっ! ーーセイクリッド・カリバアアアアアアアアア!!」


 角から跳躍したリカーシャの剣が、眩い光を帯びてパズズへと振り下ろされる。


 斬撃の軌道が、神殿の瘴気を祓うかのように輝く。


「おのれええええええええええ!! 我は……我は、まだ滅びんぞぉぉぉぉ!!」


 断末魔の叫びと共に、パズズの巨体が真っ二つに裂け、霧のように崩れ去った。


 その場に残されたのは、どす黒い光を放つ魔石のみ。


 沈黙が訪れる。


「やった……のか?」

『ああ。俺たちの……勝利だ!』

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