真実の勇者と光の力
『なあ、リカーシャ、これって……!』
俺の問いかけにリカーシャは驚愕の表情で固まっている。
目の前の絵画は今まで見てきたものとは全く異なり、まるで時間の流れを超越したかのような衝撃を与えている。
この絵画、一体何を意味しているのだろう?
「ーーはあ、はあ、待ってくださいよ~!」
その時、少し遅れてピルクとリリカが息を切らせながら駆けつけてきた。
「ヘラクレスまで突然飛び出しちゃって、どうしちゃったのさ~!?」
『すまない、リリカ。だが、この絵のことが気になって……』
リリカが困ったように頬を膨らませて怒る中、俺は急いで弁明する。
そしてその時、タマコも絵画に気づき、声を震わせて叫ぶ。
「皆さん、これ見てくださいですぅ!」
タマコの指差す先には、あまりにも異質な絵画が広がっていた。
それに気づいたピルクが、声を震わせながら驚愕の言葉をこぼす。
「これは……、さっきまでの絵画とは全然違うじゃないですか! こんなの、教会の書物には記されてませんよ!?」
「……だが、この絵画の方が古い。恐らく、これが本来の真実を描いているんだろう」
リカーシャの発言に、ピルクは驚愕していたが、そんな様子を見てリリカが首をかしげて言う。
「んー? それって、今までの少年勇者の話が間違いってことじゃないの?」
「ーーそんなことは……!」
ピルクは自分の信じてきた教えが覆されることに、激しく動揺している様子だった。
だがその矛盾に立ち向かおうとする彼の顔が、少しずつ曇っていった。
その時、突然俺の背中が熱くなる。
「うわっ、ヘラクレスの背中がちょー光ってるしぃ!」
『そうなのか!?』
「私もだ……!」
リカーシャの右手が、俺と同じように光を放ち始めた。
そして、その瞬間、俺の頭に不思議なビジョンが浮かぶ。
『こ、これは……!?』
それは、闇に包まれた世界。
絶望的な状況下で、恐ろしい悪魔が街を荒らしている。
その世界の神殿で、金髪の少女が祈りを捧げる。
その少女を照らすのは、天から降り注ぐ光。
背後には、スカラベ(フンコロガシ)が、太陽を背負って立っている。
そして、光の玉を背負ったそのスカラベが、少女を導き、彼女は白銀の鎧に身を包み、聖なる光の剣を掲げた。
「ーーヘラクレス、お~い!」
『はっ! ……今のは?』
目の前で手を振るリリカに気づき、ようやく我に返る。
「一体どーしちゃったのさ、ヘラクレス~?」
『すまない、不思議な光景が頭に浮かんでいたんだ。……まるで、この絵画の中の出来事そのものが見えたような気がして』
「ーー奇遇だな、私も全く同じ光景を見た」
『リカーシャもか!?』
どうやらリカーシャも同じ光景を見ていたようだ。
だが、この異変はそれだけでは終わらない。
「ヘラクレス、角もちょー金ピカになってるじゃん!」
「え、そうなのか!?」
リリカの言葉に慌てて頭上を見ると、俺の角が金色に輝き、まるで新たな力が宿ったように見える。
【スキル『フォトン・セイバー』を解放しました】
『……どうやら新しいスキルが開放されたようだ』
「えっ、マジで!? ヤバ~~っ!!」
リリカはまたもや興奮しているが、俺はそのスキルがどう使うべきかまだ分からない。
だが、その問いが頭をよぎった瞬間、地面が突然激しく揺れ始める。
「ひゃあっ!?」
「タマコさん!」
タマコがしゃがみこんで身を守ろうとするのを、ピルクがすかさず庇った。
「一体何事~!?」
「まさか、悪魔の封印が……!?」
リカーシャは全身を震わせながら駆け出す。
「ちょっと、待ってよリカーシャ~!」
「待ってくださ~い!」
「置いてかないでくださいですぅ~!」
慌ててリリカたちが追いかける。
もちろん、俺もリリカの背中に飛び乗って、急いでその後を追った。
進む先には黒いゼリー状の物体が床からうねりながら広がっている。
「これはっ、ダークスライムです!」
「うげっ、スライム~!?」
スライムの姿を見て、リリカは身を引いたが、俺は黙って力を込める。
『気を付けろ、来るぞ!』
ダークスライムが跳ねるようにこっちに突進してきた。
『ここは任せろ! ギガンティック・ヘラクレス!』
すぐに俺は巨大化して、ダークスライムを食い止めた。
だが、その感触は少し違う。
スライムの接触部分から、ひりひりとした痛みが走る。
まさか、俺の甲殻をも侵食する酸なのか!?
「ヘラクレスさん! ターン・ジャッジメント!」
ピルクの杖から聖なる光が放たれ、ダークスライムは瞬時に蒸発した。
「ピルクくん、さすがですぅ!」
「えへんっ、このくらいなんでもありませんよ!」
「ピルク! 後ろっ!」
得意になったピルクの後ろから飛び付こうとしたダークスライムを、リリカが矢を放って貫いた。
「油断大敵っしょ!」
「まさかあなたにそれを注意されるとは思いませんでしたよっ!」
しかしリリカの矢で貫かれたはずのダークスライムは、再生し、何度でも立ち上がる。
「そんな! コアを貫いたのに!」
「ダークスライムは聖属性と光属性でないと効果が薄いんです! はあっ!」
ピルクの技で、再度ダークスライムが蒸発した。
そして、俺は試すように新しいスキルを使ってみた。
『フォトン・セイバー!』
角が金色に輝き、その力を解き放つ。
『うおおおお!!』
その角を突き出して突進したその瞬間、ダークスライムは――光の力によって消し飛んだ。
『思った通りだ!』
「ヘラクレスすっご~!」
「さすがだな、ヘラクレス!」
リカーシャが聖なる光で斬り裂きながら、俺たちはダークスライムを蹴散らし、先へ進むのであった。




