ヘラクレスは仏になりたい
「へへ~ん、ラクショーラクショー! いえーい!」
「いえーい、ですぅ!」
ゴブリンたちを一掃したリリカが、タマコと明るくハイタッチを交わす。
その様子にリカーシャはやや呆れたように眉をひそめた。
「……お気楽すぎる。これからが本番だというのに」
「ホントですよ。この先にゴブリンなんかよりも、もっとヤバい魔物が潜んでるかもなのに……!」
勇者一行の忠告はもっともだ。
『リリカ、しっかり気を引き締めてくれよな』
「オッケーオッケー! リリカ、今から本気出すよっ!」
目元にピースを添えてにっこり笑うリリカに、思わずため息が漏れる。
本当に分かっているのか、これは……?
それから俺たちは谷を奥へと進んでいく。
行く手に飛び出してくるゴブリンたちを撃退しながら、連戦に次ぐ連戦。
「はー、もうクタクタ……しかも身体ベタベタで気持ち悪ぃ~!」
「確かにここまで休みなしでしたもんねぇ」
タマコがそっとスタミナポーションを差し出すと、リリカが大げさにゴクゴクと飲み干す。
その横で、リカーシャが静かに口を開いた。
「この先に泉がある。少し休んで、身体を清めるといい」
「それマジ⁉ ありがとリカーシャ、マジ女神~!」
飛び跳ねて喜ぶリリカに、リカーシャは肩をすくめたが、どこか微笑ましげな様子も見せた。
やがて、幻想的な霧に包まれた泉が姿を現す。
水面は乳白色に濁り、陽の光を柔らかく反射していた。
「わーお、キレーじゃん! マジ助かる~!」
駆け寄ったリリカが、俺を胸元から地面に降ろす。
「ねえヘラクレス、おっきくなってよ。服、かけときたいから!」
『あ、ああ。──ギガンティック・ヘラクレス』
三メートルの巨体へと変身すると、ピルクが目を丸くする。
「おおおっ⁉ デカ……!?」
だが、リリカはお構いなしだ。
ぴらりと裾をめくって、軽やかに服を脱いでいく。
「わわっ、ちょっと!?」
これにはピルクも慌てて後ろを向いた。
思春期の少年に年頃の女の子の裸は刺激が強そうだからな……。
すらりと伸びた手脚に、引き締まった褐色の素肌。
霧の光に包まれたその姿は、健康的で、それでいてどこか艶っぽい。
投げかけられた衣服が俺の角にふわりとかかる。もはやこの役割も慣れたものだ。
「よっしゃー、すっぽんぽんのリリカ、飛び込みまーすっ!」
裸のリリカが勢いよく泉へとダイブし、ぱしゃぱしゃと水音が響き渡る。
「冷たっ……でも超気持ちい~!」
それに続くように、タマコが控えめに服を脱ぎ、俺の角に畳んだ服をかけてくる。
「ヘラクレスさん、すみませんですぅ……」
恥じらうように目を伏せながら泉へと歩いていくその姿は、控えめながらも柔らかな魅力を放っていた。
その隣で、リカーシャが小さく息を吐く。
「……本当に、いやらしい目で見ないのだな?」
『ああ。俺はただのヘラクレスオオカブトだ』
「……ならば、信じる」
白い軍服を脱ぐリカーシャの動きは慎重で、まるで鎧を脱ぐ騎士のようだった。
その下に覗いた淡いピンクのブラが、思わず目を奪う。
「ちょっと~、リカーシャ、意外と可愛い下着つけてんじゃ~ん!」
リリカの無邪気な茶化しに、リカーシャが慌てて胸元を隠した。
「そ、そんなこと言うな……!」
「じゃあ、いっそ脱いじゃえっ!」
「なっ、ちょ、リリカ!?」
突然リリカが後ろから手を伸ばし、リカーシャの下着をスルッと外した。
「きゃっ……!? や、やめ――!」
露わになった白肌とふくよかな胸が、霧の中で柔らかく揺れる。
霧の向こうで、二人の裸身が絡む。
白い肌が赤みを帯びて触れ合い、水面が艶やかにきらめいた。
「きゃっ、やめろ! 胸を揉むなっ……っ!」
「いいじゃん、リカーシャめっちゃスタイルいいんだし! マジ、リリカの負け~!」
「このっ、もう許さんっ!」
じゃれ合う二人の姿を、俺は黙って見守る。
……いや、ほんとは仏になりたかった。
でも、俺の中の“虫じゃない何か”がざわめいて仕方がない。
俺の角にかかった下着の重みが、妙に実感を伴っていた。
「……ふふっ、仲良しさんですねぇ」
タマコが一人で水に肩まで浸かりながら、穏やかな笑みで二人を見ていた。
まるで、三人の乙女たちの柔らかい春の戯れ――そんな言葉が浮かんでしまう光景だった。




