白きホーリーシティー
この日も俺たちは、焼けつくような砂漠の道を進んでいた。
すると突如、砂を割って三体のサンドワームが現れ、地を震わせながら襲いかかってきた。
「ブルルウウウルルル‼」
鋭い歯をむき出しにした巨体が、咆哮と共に突進してくる。
「それじゃあ、行っけぇ!」
リリカが弓を引いて矢を放つも、サンドワームの厚い外皮に弾かれてしまう。
「あーもう、まただしぃ!」
「リリカちゃん! サンドワームの弱点は口の中よ!」
「サンキュー、アズモンさん!」
アズモンさんの助言にうなずいたリリカが、馬車から飛び下りてサンドワームを挑発する。
「ほらほら、こっちだよ~!」
リリカの挑発に乗った一体が大きく口を開いた瞬間、矢がその喉奥へと突き刺さった。
「それぇっ!」
「ブルルル~!?」
鋭い悲鳴と共に、サンドワームは崩れ落ちる。
「やった~! 一体撃破~!」
「わたしも行くですぅ! 石鉄砲!」
タマコが錫杖から鋭い石の礫を放ち、二体目のサンドワームの口内を撃ち抜く。
『俺も負けてられないな! ハリケーンスラッシュ!』
風の刃が俺の角から飛び、三体目のサンドワームの口を両断した。
「今回は余裕だったね!」
「はいですぅ!」
リリカとタマコがハイタッチを交わす中、アズモンさんが優しく微笑みながら拍手を送る。
「お見事だったわ、三人とも!」
「アズモンさんが弱点教えてくれたからだよ~!」
「でも、それを活かせるのが実力なのよ。リリカちゃん、あなたは立派な冒険者ね」
「あはは~、褒められると照れるし!」
そんなやり取りの中、タマコが首をかしげた。
「でも今回のサンドワーム、ちょっと小さかったですぅ」
「あっ、言われてみれば!」
『あの悪魔を倒した影響で、魔力による巨大化が解除されたのかもしれんな』
「そーいえば言ってたっけ~、“俺の魔力で育てた”って」
しっかし魔力で身体のサイズが伸び縮みするとは、魔物も謎だらけだ。
「……それ、巨大化できるヘラクレスが言う~?」 『うっ、耳が痛い』
冗談混じりの会話に笑いが弾む中、アズモンさんの声がかかる。
「ーーさ、そろそろ出発するわよ~」
「はーい!」
再び馬車に乗り込んだ俺たちは、砂漠の果てを目指す旅を続けた。
---
そして二日後の朝――。
「見えてきたわよ、ホーリーシティーが!」
その声に顔を上げた瞬間、俺の目に飛び込んできたのは一面の白。
太陽の光を眩く反射する、純白の街並み。
遠目にも分かる幾何学的で整然とした白い建造物が連なり、どこか神聖で厳かな空気を醸し出していた。
青い屋根の家々が連なる光景は、まるで地上に浮かんだ雲の街のようで、どこか現実味さえ希薄に思えるほどだった。
『……ここが、ホーリーシティー……』
白銀の甲冑を身にまとった門番たちに身分証を見せ、俺たちは無事に中へ入る。
街の中もまた、静謐そのものだった。
行き交う人々は白いマントや外套で肌を覆い、まるで清められた巡礼者のよう。
賑やかなヌイヌイタウンとは異なる、どこか異界じみた空気が漂っていた。
「ここに……勇者、いるのかなあ?」
『どうだろうな』
「それよりもまずは依頼の達成報告ですぅ!」 「そだね! アズモンさん、またね~!」
やがて俺たちはギルドの象徴である【レオ・ガルド】の紋章を見つけ、中へ足を踏み入れる。
内装は街の雰囲気に合わせた真っ白な造りで、ハローワークのような受付カウンターが整然と並んでいた。
「中も真っ白~!」
目を輝かせるリリカと共に、俺たちは依頼の達成を報告する。
受付嬢は白布で髪や身体を包み、これまたホーリーシティーらしい清潔感に満ちていた。
「いらっしゃいませ、こちら『レオ・ガルド』ホーリーシティー支部になります。本日はどのようなご用件でいらっしゃいますか?」
「依頼達成の報告をしに来ました~!」
事前にアズモンさんからもらった証明書をリリカが提出すると、受付嬢は営業スマイルで応じる。
「はい、確かに依頼達成の証明ですね。報酬はこちらになります」
「サンキューっ」
「ありがとうございますぅ」
だが――異変はその直後に訪れた。
「わっ、ヘラクレスの背中が光ってるし!?」
『なんだと!?』
再び、俺の背中に神紋が浮かび上がっているらしい。
今度は何が起きるんだ……?
それと同時に、ギルドの入口が開き、二人の人物が入ってくる。
それと同時にギルド内がざわつき出した。
「あっ……!」
「ま、まさか……ですぅ!?」
一人はまだ幼さを残した、聖職者風の少年。
そしてもう一人――白銀の髪に白い軍装をまとい、冷たい瞳を持つ少女。
間違いない、夢に出てきた少女と同じだ!
彼女の手の甲にも、確かに淡い光が灯っていた。
『……!』
俺の身体が、勝手に動く。
「ヘラクレスっ!?」
リリカの呼びかけも背に、俺は翅を震わせて少女のもとへと舞い上がった。
そう――この出会いが、ガイヤ様の言っていた“運命”の始まりなのだと、直感していた。