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悪魔との一騎討ち

「行くぜェ! おらあああ!」


 バローロンが地を滑るように突進し、漆黒の槍を突き出してくる!


 俺はすかさず角をクロスさせて――ガキィンッ! と槍を受け止めた。


『なんのっ!』


「なっ……!?」


 初撃をあっさり止められたバローロンが驚く間もなく、俺は角を振って槍ごと弾き飛ばす!


「チッ、デカい虫のくせに生意気な……! じゃあこれならどうだ!」


 転がるように後退したバローロンが跳び上がり、宙で構える。


「――ダークボール‼」


 漆黒の魔力弾が、空中から雨あられと降り注ぐ!


「ヘラクレスぅ!」


 結界の外からリリカの声が聞こえる。でも――


『この程度……通用するかよ!』


 俺はあえて翅を閉じ、甲殻で全身を覆いながら魔力弾を正面から受け止め続ける。


 ゴゴゴゴゴッ……!


「ケケケッ、受け身一辺倒じゃジリ貧だぜ!? 潰れろぉ!」


 バローロンが弾を絶え間なく連射し続ける。

 くそっ、耐えるだけじゃ埒が明かない!


 だが、飛べば柔らかい腹部が剥き出しになる……どうする!?


 ……待て、巨大化中でもあのスキルが使えるか!?


『ノビ〜ルホーン!』


 角に意識を集中すると――ゴギュウウッ!と音を立てて角が伸び、砂煙を貫く!


「なっ……!?」


 伸びきった角がバローロンの腹を突き刺し、直撃!


『貫いた……! いける‼』


 そのまま角を振り下ろし、奴の身体を地面へ叩きつける!


「ぐへっ!?」


 鈍い音と共にバローロンが地面に激突。続けざまに俺は突進、角を左右から挟み込むように狙いを定める。


「チィッ!」


 しかし、奴はギリギリのところで身をひねって回避。すばしっこい!


『だったらこっちはこれだ――ハリケーンスラッシュ‼』


 角を振ると、風の刃が音速で奔り――バローロンの翼を切り裂いた!


「ぐっ……!」


『しめた、これでもう逃げられない!』


 間髪入れずに再度突進。角を突き出したが、バローロンが黒槍で俺の攻撃を弾く――その瞬間!


 ギィインッ!


『……ぐうっ!?』


 奴の槍が、俺の前足の関節を狙って突き刺さる!


「ヘラクレスぅ‼」


「やはりな……関節までは固くないってわけだ!」


 バローロンが槍を引き抜いて、跳び上がる。


「トドメだあぁッ‼」


 宙から落ちる勢いを利用し、槍を俺の胸と腹の継ぎ目へと突き刺してくる!


 ズグンッ‼


『があああッ……!』


 全身を焼き裂くような激痛。視界がチカチカと明滅する。


「へへへっ、真っ二つになっちまいなァ‼」


 けれど、俺は六本の脚で必死に踏ん張った。


『――なめるなよ……!』


 腹部を反らし、逆に槍を自らの胴体で挟み込む!


「ぬぅっ……!? こ、こいつ……!」


 抜こうとするも、俺の全力のホールドからは逃れられない!


 そのまま力任せに、バローロンを背中から振り落とす!


「ぐ、がはっ……!?」


 奴の身体が地面に叩きつけられたその瞬間、俺は角で挟み込み――


『とどめだ‼』


 角で奴の身体を持ち上げ、高々と掲げた後、力を込めて挟み潰す!


「この俺様が……虫けらごときに……負けるだと……!?」


 バローロンは黒い煙となり、魔石を残して消滅した。


 結界も同時に霧散し、光が射し込む。


『見事だ、勇敢なる虫けらよ。我は満足だ、ガーッハッハ!』


 アレオスが豪快に笑い、天へと翔け上っていく。


 ……結局あの神様、何がしたかったんだよ。


 そう思った刹那、全身から力が抜けていく。


『くっ……やばい、槍のダメージが……』


「ヘラクレスーッ!」

『リリカ、悪い……ちょっとだけ……』

「ダメダメ! 今すぐ回復させるから!」


「槍を抜くわ……少し痛いけど、我慢してちょうだい!」


 ソフィーラさんが槍を抜くと、ズブッ……と音がして激痛が駆け抜ける。


『ぐうう……ッ!』


「ここは任せるですぅ! ――緑の癒し!」


 タマコがかざした手から、優しい緑の光が広がる。


 たちまち傷口が塞がり、俺の呼吸が整っていく。


『ありがとう……助かったよ、タマコ……』


「間に合って良かったですぅ!」


 タマコの微笑みに、俺はそっと角を差し出す。


 その直後、リリカが俺の角に思い切り抱きついてきた。


「ヘラクレスのバカァーッ! 無茶しすぎだし!」


 ――柔らかいものが押し付けられてるけど、今は耐えよう。


『……ごめんな、リリカ』


 俺はようやく、仲間たちと共に勝利の余韻を噛みしめたのだった。



 ――時を同じくして。


 歴戦の遺跡からそれほど遠くない、砂漠の高台に一人の少女が立っていた。


「……悪魔の気配が、消えた?」


 紫がかった瞳に光を宿し、少女は遠くの空を見つめる。


 さらさらと風に流れる長い銀髪は、鳥の翼を模した髪飾りで留められ。

 端正な顔立ちは凛とした静けさを湛え、真っ白な軍服風の衣装は砂の中でも一切の乱れを見せない。

 すらりと伸びた脚は白く引き締まり、腰には細やかな意匠が彫り込まれた一振りの剣。

 その佇まいは、砂の大地にあってなお聖域のような気配を放っていた。


「どうやら……先を越されたようだな」


 ぽつりと呟いた少女は、背にひらめくマントをひるがえして踵を返す。


 そして、右手の甲――翼と盾が交差した神聖な紋様を、空へと掲げた。


「……アテナルヴァ様。導きを……我が探す“悪”は、どこへ向かう?」


 風が吹き抜ける。

 少女の瞳に、揺るがぬ覚悟と静かな決意が灯る。


 ――その名を、今はまだ誰も知らない。

 だが、彼女の歩む先に《ヘラクレス》の名が刻まれるのも、遠い話ではなかった。

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― 新着の感想 ―
中々の強敵との決戦。白熱するものがありますね! パワーアップしたヘラクレスによる猛攻。しかし相手側もこれを受けて負け字を引かず彼を危機に追い込んでいく。ピンチシーンもちゃんと描かれてるのがやっぱりい…
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