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毒蟲の罠


 ヘラクレスオオカブトの俺も加えて七人のパーティーが、ダンジョン内を進み始めて間もなく。


 ――ゾクリとした悪寒が俺の背を這い上がった。


『……誰かに、見られている……?』


「どしたの、ヘラクレス?」


 リリカが胸元から覗き込むように尋ねてくるが、俺は努めて平静を装う。


『いや、なんでもない』

「そっか~? じゃあいいけどさ……――ねえソフィーラさん、まだ~?」


 退屈そうに腕を組み、足元でそわそわするリリカの横で、ソフィーラさんは糸を検分していた。


「そう焦らないの。今はこの糸を解析中なのよ。最短でボスに辿り着けるかもしれないんだから」

「分かってるけどさ~、リリカ、ジッとしてるの苦手なんだよね~」

「まあまあ、ここはソフィーラさんに任せましょうですぅ」


 うろうろと歩き回るリリカの足元で、俺の複眼に閃光のようなきらめきが映る。


 ――足元の糸が、一瞬、光った。


 同時に、俺の視界に警告の矢印が複数出現する。


『リリカ、危ない! 上だ!』

「へっ? ――わっ!」


 次の瞬間、頭上から猫ほどの大きさの蜘蛛が何匹も降りかかってくる!


 リリカはすんでのところで後方に飛びのき、蜘蛛たちは地面に落下しながらギシギシと脚を鳴らす。


「クシュクシュ~!」

「クシュシュ!」


 細く鋭い脚音とともに、蜘蛛たちは地を這うように突撃してくる。


「来るなら来いっての!」


 リリカが矢を連射、狙いすました一撃が蜘蛛の腹部を貫通する。


 連中は毒を含んでいそうな鋭い牙をカチカチと鳴らしながら倒れていった。


『まだいるぞ! 油断するな!』


 その言葉の直後、地面が突如として隆起――否、割れた!


 中から、数十、いや百を超える小型蜘蛛たちが、洪水のように溢れ出してくる。


「なにこれ!? 数、多すぎ~っ!」


『ストームフラップ‼』


 俺が背の翅を震わせて起こした烈風が、蜘蛛の波を一掃する。


「ナイスナイス、ヘラクレス!」


「――助太刀するよ! ソードスプラッシュ!」


 ルクスが水晶のような剣を振るうと、刃から放たれた水の斬撃が蜘蛛たちを一閃!


「ちょっとぉ~、リリカまだ余裕だったのに~」

「それでも助けに行くのがナイトってもんさ」

「む~……かっこいいこと言って~」


 白い歯を見せてニカッと笑うルクスに、リリカは不満げに口を尖らせる。


 その間にも仲間たちが次々と加勢に来た。


「大地の怒りィ!」


 錫杖を振り下ろしたタマコが放つ鋭利な岩柱が、蜘蛛をまとめて串刺しにし――


「喰らえッ!」


 レッドが金棒を唸らせ、蜘蛛ごと地面を砕く!


「ダブルエッジだニャア!」


 マオの刃が蜘蛛の急所を正確に断ち切る!


「ヒート・インフェルノ!」


 ソフィーラさんの紅蓮の魔炎が一帯を包み、蜘蛛を灰に変えた。


「みんなヤバすぎ~! もはや敵なし~!」


 リリカがハイテンションで叫ぶ中、蜘蛛の群れは残り数匹に。


「よ~し、残りはリリカが――」


 だが、矢をつがえたその時。残った蜘蛛たちは踵を返し、素早く逃げていった!


「待てコラァーー‼」


「えええ~、待ってくださいですぅ~!」


 タマコも後を追うが――


『待てリリカ、罠の可能性がある! 追うな‼』


「おっそ~い!」


 忠告も空しく、リリカはそのまま蜘蛛を追って奥へと走り抜け――


「――きゃあっ!」


 唐突に足元が崩れ、彼女の身体が何かに絡め取られながら地面に引きずられていく!


『リリカ!』


 追いつこうと飛び立つ俺の視界に、うねる黒い影が現れた。


 ――それは全長三メートルはあろうかという巨大なムカデ。


「グシャララララアア‼」


「ひゃいっ!? む、ムカデだったですかぁ~!?」


 追い付いたタマコの叫びとともに、その場に大ムカデが何体も姿を現す!


『囲まれた――!』


 俺たちをぐるりと取り囲むように、大ムカデたちがジリジリと距離を詰めてくる。


 脚音はザザザと葉をかき分けるような、何とも言えない不快な音だ。


「来るなら来いっての!」


 リリカが矢を番えて射る。だが――


 ズブッ。

 矢が一体のムカデに深々と突き刺さっても、まるで意に介さず蠢き続ける。


「うへぇっ、全然効いてないんですけど~!?」

「わ、わたしが……! ――《大地の怒りっ‼》」


 タマコが錫杖を振り下ろし、鋭利な岩柱が地面から突き出す。


 だがムカデの身体は水のように柔らかくうねり、その隙間をスルリと抜けていく。


「そ、そんなぁ……! 全然当たらないですぅ……!」


 焦りに満ちたタマコの声。そのとき――


「う、うっ……!」


 リリカが苦しげにうめき、膝をついた。


「リリカちゃん!?」

『リリカ、どうしたっ!?』

「な、なんか……脚が、ちょー痛い……っ!」


 見ると、リリカの足首が赤黒く腫れ上がり、ぶつぶつと湿疹のようなものまで浮いている。


『ムカデの毒……! 厄介だ!』


 ムカデの毒にはセロトニンやヒスタミンが含まれる。

 放っておけば全身に回り、激痛で動けなくなる!


「大変ですぅ! リリカちゃん、今すぐこれを――!」


 タマコが懐から取り出した紫色の小瓶――だがその手を、背後から伸びた一体の大ムカデがバチン!と跳ね上がった身体で弾き飛ばす!


「ひゃああああっ!?」


 タマコの身体にムカデが巻き付き、無数の節足がその体に絡みつく!


 毒消しの小瓶は地面に落ちて転がり、遠くへ――


「い、いやですぅ! やめてぇ~~~!」


 タマコの悲鳴。細身の身体が締め上げられ、もがくほどにムカデの脚が食い込んでいく!


「タマっちを……いじめるなぁッ!」


 リリカがふらつきながら立ち上がろうとするが、足に力が入らない。


「くっ……う、動けない……っ!」


 その瞬間、彼女の左右からも別のムカデが迫り、長い身体でぐるぐると巻き取ろうとする――


『ノビ~ルホーン‼』


 俺が咄嗟に角を伸ばす。だが――


 スカッ。


 角はムカデのくねる身体を捉えられず、空を切る。


「うえぇっ、もぉ~、マジで気色悪いんですけど~~っ‼」


 リリカもじたばたと抗うが、毒の影響で力が出ず、じわじわと体を締めつけられていく。


 左右で悲鳴を上げるタマコとリリカ。

 俺の目の前で、仲間がひとり、またひとりと追い詰められていく……!


『クソッ……どうすれば――!?』

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