冒険者仲間
リリカからの質問責めが一段落した頃、俺たちが教会の階段を下りていくと、ちょうど若い男女の三人組が前方を歩いているのが見えた。
「あっ、ルクっちにレドやん、それからマオにゃん! おーいっ!」
リリカがぱっと手を振ると、先頭を歩いていた細身の優男がにこやかに手を振り返す。
「リリカちゃんにタマコちゃん! キミたちも教会に来てたんだね!」
「ってことは、ルクっちたちも願掛けに来たんだ~!? マジで偶然じゃん!」
満面の笑顔で駆け寄り、気さくに肩を組み合うリリカとその少年ルクっち。
「お久しぶりですぅ!」
「タマちゃんも元気そうニャア~!」
「……久しぶりだな」
タマコも、猫耳の少女と、赤鬼のように厳つい青年とにこやかに言葉を交わす。
『ずいぶん親しげだな。彼らはどういう関係なんだ?』
「あー、ルクっちたちは冒険者仲間! リリカたちがビギナーだった頃からの付き合いなんだ~!」
なるほど、同期のようなものか。
するとルクスの視線が俺に注がれる。
「ねえリリカちゃん、その虫に話しかけてたけど……ペットかな?」
「あー、この子はヘラクレス! リリカの大事な心の友なの!」
「ほう、珍しい……というか、すごく立派な角だね」
じっと俺を見つめるルクスの目に、ちょっと得意な気持ちになる。
ふふん、男子なら誰しも一度は憧れる存在――それがカブトムシだろう?
この角、しっかり目に焼きつけておくんだな。
「ぷっ、なにそのドヤ顔! ヘラクレスってば、自分をイケ虫だとでも思ってるの~?」
『え、違うのか?』
「――っていうかさ、虫の言葉が分かるってすごいよね。リリカちゃんのスキル?」
「そそっ。ルクっち、知ってたでしょ?」
「うんうん、でもこうして話してるの見るのは初めてだから、感動しちゃったよ」
そう言ってルクスは片膝をつき、丁寧に自己紹介をしてくる。
「僕はルクス。冒険者をやってて、今はこの二人とパーティーを組んでる。――こちらはレッドと、マオ」
「……レッドだ」
一歩前に出たレッドは、肌の色がまるで夕焼けのように赤く、額からは牛のような立派な角が突き出していた。
無骨な雰囲気に反して、黙して語らぬその眼差しは妙に静かである。
「マオっていうニャア! よろしくニャア~!」
気さくに手を上げるマオは、ぴんと立った猫耳が印象的な少女だった。
細身のチュニックにぴったりとしたスキニーパンツを合わせた軽装が、言動と相まって軽快な雰囲気を際立たせている。
腰には短刀を二本、左右に提げていて――なるほど、彼女は双刀使いらしい。
「ねーねー聞いて聞いて! リリカたち、今日シルバーランクに上がったんだよ~! すごくない!?」
「本当に!? なんという偶然、僕たちもつい先週シルバーに昇格したばかりなんだ!」
「マジで!? うわ~、やっぱ運命感じちゃうんですけど~!」
……なんというか、やけに距離が近い気がするな。
「ってことは、ルクっちたちもダンジョン攻略に?」
「その通り! って、リリカちゃんたちも!?」
「もち! リリカたち、さっきそのための願掛けを済ませたところだし!」
ギャルっぽく目にピースを添えてそう告げるリリカに、ルクっち改めルクスはふっと穏やかな笑みを浮かべる。
「そっか。それじゃあ明日からまたよろしくね、リリカちゃん」
「こちらこそよろ~! それじゃあまたね、ルクっち!」
「うん、またね!」
「――ほら、タマっちも行くよ~!」
「はいですぅ」
ルクスたちと別れたところで、俺たちは拠点の宿屋に戻った。
「ふーっ、今日もいろいろあって疲れちゃったし~」
そうぼやきながらリリカの脱ぎ捨てる服に埋もれながら、俺は問いかける。
『なあリリカ。ルクスとは……その……そういう関係なのか?』
「そういう関係って?」
ポカンとした様子で聞き返され、俺は言いよどむ。
『ええと……その、恋人とか……そういう……』
途端にリリカが大爆笑する。
「キャハハ! ルクっちが恋人って!? マジあり得ないしぃ~!」
『そ、そうか……』
「ルクっちはただの友達! それ以上でも以下でもないよっ」
そう聞くと、どこかホッとしたような……でもちょっぴり寂しいような……。
――娘の梨香も、いずれこんな風に恋をするのだろうか。
そんな感傷に浸っていた俺を、リリカがひょいっと服の山からつまみ上げる。
目の前の彼女は、キャミソールと黒い短パンという、褐色の素肌が目にまぶしい寝間着姿。
「ほらほら~、また昔のこと考えてるでしょ~?」
『あ、いや……つい……』
「ダメだぞっ、今はリリカを見てなきゃ!」
そうだ。今はリリカが俺の――第二の娘なんだ。
『ああ、分かってる。これからも全力で見守るよ』
「オッケー! じゃあもう寝ちゃおっか!」
布団にダイブしたリリカは、数秒後にはスースーと寝息を立てていた。
俺も、明日に備えてしっかり休まなきゃな。
そうして俺は、彼女の胸元でそっと休息につくのだった。