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成長と次なる冒険

 俺がヘラクレスオオカブトに転生してから早一ヶ月――異世界での生活にも、だいぶ慣れてきた。


 この日もリリカとタマコの二人と一緒に、いつもの平原で魔物の討伐をこなしていた。


「――これでカンリョーっと!」


 最後の魔物を倒し、その魔石を拾い上げてピョンピョン跳ねるリリカ。


「今回も楽勝ですぅ!」

「だねっ、タマっち! リリカたちもう最強なんじゃね?」


 笑い合う二人の顔にも、自信と充実感が宿っている。


 依頼は連戦連勝、ギルドでの評判もうなぎ登りらしい。


 ちなみに俺も、二人の使い魔としてギルドに正式登録されている。

 これは温泉旅行の後、ソフィーラさんのすすめで手続きしたものだ。


 曰く――「今のあなたなら、立派な戦力だもの」。

 ……そう言われて悪い気はしなかった。


「――ヘラクレス、お~い」


 リリカの手が目の前でヒラヒラと揺れる。


『ああ、悪い。ちょっと昔のことを思い返しててな』

「ふーん、また前世のこと~?」

『いや違う、今のことだ。俺はリリカたちと一緒にいる、この時間を大事にしたいと思ってるよ』


 俺の言葉に、リリカが角を指でつつきながら、にっこり微笑んだ。


「頼りにしてるよ、パパ」


 ドキッ。


 リリカがたまにそう呼ぶようになったのは、あの温泉旅行以降だ。

 前世の愛娘・梨香とそっくりな彼女にそう呼ばれると、なんともこそばゆいような、嬉しいような気持ちになる。


 その後、ヌイヌイタウンへ戻った俺たちは、いつものようにギルドで魔石を提出した。


「今回も依頼達成ですね。お疲れ様でした」


 受付嬢のエミリーさんが笑顔で迎えてくれる。

 今や俺たちはギルドの“常連チーム”という立ち位置らしい。


「ふふーん、リリカたちにかかればちょちょいのちょいってことで!」

「はいですぅ!」


 得意げな二人に、エミリーさんが一枚の銀色カードを差し出した。


「それと、おめでとうございます。お二人ともシルバーランクに昇格です」


「マジで!? やったぁああーっ!」

「わたしたち、シルバーランク……ですぅっ!」


 ギルドカードを受け取って、リリカとタマコはその場で飛び跳ねる。


『……シルバーランクって、どのくらいすごいんだ?』


 素朴な疑問を口にすると、リリカとタマコがわかりやすく教えてくれた。


「ビギナー、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤの順番なんだって!」

「シルバーになれば、冒険者として一人前の証ですぅ!」

『なるほどな。……二人とも、本当に頑張ったんだな』


 しみじみとそう呟くと、リリカが俺の耳元でそっとささやいた。


「ここまで来れたの、ヘラクレスがいたからだよ。ほんとにありがとね、パパ」


 そんなとき、聞き覚えのある声が響いた。


「――シルバーランク昇格、おめでとう!」


 駆け寄ってきたのは、先輩冒険者のソフィーラさんだ。


「これで一人前の仲間入りね。私も嬉しいわ」

「ソフィーラさんも最近ゴールドになったんだよね!」

「ふふ、私もようやく、ってところね」


 その場に柔らかな笑いが広がった――が。


『シルバーランク以上の冒険者の皆様、至急ギルドホールに集合してください。ギルドマスターから指令があります』


 ギルド内に響き渡る放送で、空気が一変する。


「なになに、急にどうしたの~?」

「呼ばれたってことは、わたしたちも対象なんですよね?」


 しばらくして、階段の上から一人の壮年の男が姿を現す。


 胸板の厚い、いかにも百戦錬磨の戦士といった風貌のその男を前に、ギルド内のざわめきがすっと消えた。


「よくぞ集まってくれた、シルバーランク以上の冒険者たちよ」


『なあ、リリカ。あれが……?』

「そ。あの人が、このギルドのマスター!」


 リリカの言葉を受けて、ギルドマスターが重々しく告げた。


「近郊の森にて、新たなダンジョンの入り口が発見された。今回、君たちシルバーランク以上の冒険者に調査と攻略を依頼したい」


 その一言が、俺たちに新たな冒険の幕開けを告げていた――。



 ギルドからダンジョン攻略の緊急依頼を受けた俺たちは、さっそく準備に向けて動き出していた。


「やったぁ、ダンジョン! ずっと挑戦してみたかったんだよね~!」

「わたしもですぅ! 腕が鳴るってこういう時に言うんですよね!」


 意気揚々と拳を掲げるリリカとタマコに、ソフィーラさんがぴしゃりと釘を刺す。


「ちょっと落ち着きなさい。わかってるとは思うけど、ダンジョンは命を懸ける場所よ? 一瞬の油断が命取りになるの」

「だいじょーぶだって、ソフィーラさん。リリカたち、やる時はやるからさ~!」


 ――とは言うものの、どうにもリリカの浮かれっぷりは隠せていない。


『なあリリカ。そもそもダンジョンって、どういう場所なんだ?』


 俺の素朴な疑問に、リリカは唇に指を当てて小首をかしげる。


「ん~とね……リリカのイメージだと、魔物がいっぱい湧いてくる“ヤバい巣穴”って感じ? なんか無限に出てくるみたいな話、聞いたことあるよ~」

「多分、そのへんはソフィーラさんの方が詳しいですぅ」


 俺たちの視線が揃って注がれると、ソフィーラさんは肩をすくめ、ゆっくりと語り出した。


「まあ、そうね。初めてのダンジョンなら、知っておいて損はないわ」


 そして彼女の説明によると――


 ダンジョンとは、この世界に点在する強大な魔力の集中点に、突如として出現する魔物の巣窟。

 内部は迷宮のように入り組み、数多くの魔物が潜んでいるだけでなく、そこでしか手に入らない希少な財宝や素材が眠っていることも多いという。


「放っておけば魔物が地上にあふれ出して、周囲の町や村を脅かすことになるわ。だからこそ、冒険者の力が必要なの」


 なるほど……一攫千金の夢と、地上を守る責任が並び立つ、冒険者にとっての“試練の場”ってことか。


「――ちなみに、ある説ではね。ああいうダンジョンって、冥界の神プルーデスが人間に与えた試練の迷宮だって言われてるわ」


『プルーデス……地下と死の神、か』


「まさにチョーヤバだよね~! マジでテンション上がるんだけどっ‼」


 両手をブンブン振って興奮するリリカに、ソフィーラさんがジト目を向ける。


「……あのね、リリカちゃん。テンション上げるのはいいけど、気は引き締めておきなさいよ?」


「へいへいっ、心得ておりまーす!」


 元気に敬礼するリリカに、俺は内心ちょっとだけ不安になった。

 ――頼むぞ、ホントに。

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