対決、巨大リオック!
巨体で飛びかかってくるリオックに対し、リリカたちは馬車から跳び降りて即座に布陣を取った。
だが、リオックはその勢いのまま馬車に覆い被さり、馬をトゲだらけの脚で押さえ込む。
「ヒィイィン!!」
甲高い嘶きが響き、馬は悲鳴とともにその巨体に呑まれていく。
咀嚼音、骨の砕ける音――地獄のような光景が広がった。
「うっ……マジで、キツい……」
「お馬さん……食べられちゃったですぅ……」
凄惨な現実に、言葉を失うリリカとタマコ。
「くっ……油断したわ」
リオックは既に次の標的としてこちらを視認している。
無機質な複眼が、冷酷にこちらを見据えていた。
「完全に獲物扱い……ってことよね……」
「だったらこっちもやるしかないっしょ!」
三人がそれぞれ武器を構え、戦闘体勢を取った瞬間――リオックが六脚で地を裂き突進する。
「バラけて!」
ソフィーラさんの号令で、リリカとタマコが左右へと飛び退く。
リオックは空振りに終わるが、引きずるような脚音が地鳴りを起こす。
「目標は一体、集中砲火を! 私は正面を引きつける!」
そう叫んだソフィーラさんは、黒い魔力から長槍を召喚。その身に紅い魔力をまとわせた。
「――イグニッション・フェイズ!」
長髪が紫から紅へと染まり、ソフィーラさんの魔力が一気に沸騰する。
「うっわ、なにそのオーラ……ヤッバ!」
「ソフィーラさん、変身してるですぅ!」
魔装した彼女が疾風のごとくリオックの顔面へ突撃し、火焔を纏わせた槍で一突き!
――だが。
キィイイィン!
硬質な音と共に、槍が弾かれた。
「くっ……予想以上の甲殻ね……!」
リオックの反撃はすぐだった。鋭い前肢が振り下ろされるが、ソフィーラさんは咄嗟に飛び退いてかわす。
「援護、お願い!」
「任されたぁ!」
リリカが側面に回り、矢を連射。だがリオックの後脚が鉄のように硬く、全て弾かれる。
「ぬぅああっ、通んないし!」
「唐草結び!」
続けてタマコの呪文が発動し、地面から無数の蔦が這い上がる。
リオックの脚を絡め取るが、大あごで力任せに咬み千切られてしまった。
「な、なんて力……!」
「時間稼ぎ、感謝! ――ヒート・インフェルノ!」
ソフィーラさんが叫ぶと同時に、横一閃の火焔がリオックを包む。
だが――リオックは炎に包まれながらも、赤く灼けた甲殻のまま突進!
「きゃあっ!」
衝撃で吹き飛ばされたソフィーラさんが木の幹に叩きつけられ、うめき声を上げる。
「「ソフィーラさん‼」」
絶叫するリリカとタマコをよそに、うめくソフィーラさんにリオックがゆっくりと迫る。
「二人とも逃げて……、今ならあなたたちだけでも逃げられるはずよ……!」
「そんなのできるわけないじゃん! リリカまだ戦えるし‼」
「そうですぅ! ソフィーラさんを見捨てるなんて、できないですぅ!」
二人の言う通りだ、ソフィーラさん。
あなたを見捨てて俺たちだけ逃げるなんて、できる訳がない!
「うああああっ!」
激昂したリリカが弓を引き、放った矢がリオックの背に突き刺さる。
「大地の怒りぃ‼」
タマコもまた激情に任せて錫杖を振り下ろし、いくつもの岩柱でリオックを突き上げた。
だけどリオックには大して効いてないのか、逆にその怒りの矛先がリリカたちに向けられる。
「二人とも……駄目……っ!」
ソフィーラさんの切なる言葉をよそに、リオックが跳躍してリリカに突っ込んだ。
「きゃあああああ‼」
「リリカちゃん‼」
リリカに巨体で覆い被さるリオックが、ガチガチと大あごを打ち鳴らして迫る。
「イヤ……イヤああああああ‼」
迫る死の恐怖に絶叫するリリカ。
『させるかああッ! ノビ~ルホーン!!』
角が一気に伸び、リオックの口内を貫いた!
「ギギギギッ……!?」
だがリオックの巨体がそのまま前脚で俺を押し潰すように踏みつける。
「ヘラクレス~~‼」
リリカの絶叫がこだまする中、俺の意識は、徐々に闇に沈んでいった――。
――ああ、リリカの声が、遠くなっていく。
押し潰された俺の視界は薄れていき、世界は闇に沈もうとしていた。
その瞬間、脳裏に浮かんだのは、前世で別れた娘・梨香の笑顔だった。
守りきれなかった、あの小さな手。
でも、今の俺には――この世界にも、守りたいものがある。
それがリリカなんだ。
こんなところで終われるか……!
このままじゃ、リリカが、タマコが、喰われてしまう……!
『俺はもう失いたくない……家族の笑顔も、居場所も――絶対に、だぁぁぁぁッ‼』
【スキル『ライジング・ヘラクレス』を獲得しました】
雷鳴のような咆哮とともに、俺の身体が金色の輝きに包まれる。
無力だった俺の殻が、今破れる――!
「ヘラクレス……!?」
驚愕と希望の入り混じる声を漏らすリリカに、俺は一声だけ返す。
『見てろよ、俺の全力……!』
――ライジング・ヘラクレス!
金色に発光する俺の角が、異常なまでに伸びる。
狙うはただ一つ、リオックの喉元!
『ノビ~ルホーン・ライジング‼』
鋼鉄をも穿つ閃光が、リオックの咽喉を貫いた。
「ギィイイイッ……!」
リオックが悶え、のたうち回る。
「す、すご……!」
リリカが目を見開く中、リオックはなおも俺の角にかじりつき、抵抗を続ける。
『ならばこっちだ! ストームフラップ・ライジング‼』
背中の翅が猛スピードで唸りを上げ、爆風のような金色の突風がリオックを吹き飛ばす!
「う、うわっ……!」
押し戻され、木々をなぎ倒しながら激突するリオック。
そして――
『トドメだ、ハリケーンスラッシュ・ライジング‼』
全身の力を一点に集中させ、煌めく角を振り下ろす。
放たれた斬風が、空を切り裂きながらリオックを真っ二つに両断した。
「……やった、倒した……!」
リリカの声が、どこか遠くに聞こえた。
全身の力が抜け、金色の輝きも次第に薄れていく。
――ああ、やっと、守れたんだな。
その安堵とともに、俺の意識は闇へと溶けていった。