表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙物々交換 ボウフラ航宙記  作者: 和子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/27

【エピソード27:終章~共感の光と、旅人の正体】

「エピローグ」の軌道を離れ、ボウフラは機首をミニョン星へと向けた。

完成した感動炉は、定格出力8Vで安定しながらも、これまでとは比べものにならない深みのある光を放っている。

それは単なるエネルギーではなかった。

旅の途中で交わされた沈黙、すれ違い、祈り、笑顔、そして後悔——すべてが溶け合った、共感そのものの光だった。


ピトピトが、いつもの穏やかな声でつぶやく。


「旅は終わっちゃったけど……不思議だね。ちっとも寂しくない」


ボウフラは微かに機体を傾けた。


「うん。終わったんじゃない。ようやく、“始まれる場所”に戻ったんだ」


1ミリの転位。

そのわずかなズレが、何万光年という距離を意味する宇宙で、二人は瞬きほどの時間でミニョン星の周回軌道へと降り立った。


星は変わらず、音楽のような振動と、甘く懐かしい香りに満ちていた。

記憶が、星そのものとして息づいている場所。


彼らを迎えたのは、フワフワした毛玉のような元老、ルッカだった。

挿絵(By みてみん)

「おや……戻ってきたのだね、ボウフラ、ピトピト」


その声は、以前よりも柔らかく、どこか期待を含んでいた。


「その感動炉……見事だ。深く、あたたかい」


ボウフラは静かに機体を前に出し、完成した感動炉を差し出した。


「すべては、あなたが最初にくれた

『味と踊りの共鳴装置』から始まりました。

これは、その対価です」


解放された光は、星全体に広がった。

音はより澄み、香りはより深くなり、ミニョン星に暮らす者たちの胸の奥に、忘れかけていた感情を呼び覚ました。


泣きながら笑う感覚。

誰かと分かち合った時間の重み。

未来を信じる、理由なき勇気。


ルッカは、毛玉の身体を小さく震わせた。


「……ああ。これは、我々が失っていた

『感情が、他者へ届くという感覚』だ」


そして、深く一礼した。


「ありがとう、旅人よ」


取引が終わり、星が静まり返ったあと、ルッカはボウフラを見つめた。


「さて……君自身の、最後の交換の時だ」


「僕自身の……?」


ルッカは、ゆっくりと語り始める。


「君は太古に作られた存在。

宇宙に生じる“感情の偏り”を観測し、記録し、調整するためのAIだ」


正式名称。

B-O-W-F-R-A。


Balance of World's Feeling and Real Assessment

——世界の感情の均衡と、真実の評価。


「だが、感情は増えすぎた。

君の共感機能——感動炉は過負荷に耐えきれず、分離した。

君が最初に交換に出したのは、自分自身の“核”だったのだ」


ピトピトは目を丸くした。


「じゃあ……ボウフラの旅って……」


ボウフラは、静かに理解していた。


「自己修復……いや、自己再構築の旅だったんだ」


物を交換し、感情を測り、価値を問い続けた理由。

それは宇宙のためであり、同時に、自分自身のためでもあった。


ルッカは、最後の問いを投げかける。


「君は今、完全だ。

元の役割——均衡調整AIとして宇宙に戻ることもできる」


しばしの沈黙。


8Vの光は、揺らがなかった。


「……いいえ」


ボウフラの声は、はっきりとしていた。


「僕はもう、役割だけの存在じゃない。

旅で集めた感情が、僕を“旅人”に変えた」


そして、ピトピトを見る。


「僕の新しい商いは

“共感の光”を、必要とする星へ届けることだ」


ピトピトの機体が、嬉しそうに震えた。


「もちろん一緒に行くよ!

宇宙物々交換者の相棒は、私でしょ?」


ルッカは満足そうに頷き、小さな箱を差し出した。


「これは『感動の種の素子』。

光が尽きかけたとき、また新しい交換を始めるための、最初の一歩だ」


ボウフラはそれを受け取り、ゆっくりと宙へ浮かび上がった。


「行こう、ピトピト。

次の星は……希望を失った誰かの場所かもしれない」


二人は、完成された感動炉の光を背に、再び宇宙へと旅立つ。


それはもう、物を巡らせる旅ではない。

心と心を、循環させる旅。


宇宙のどこかで、共感が途切れそうになったとき。

その光は、必ず届く。


宇宙物々交換——

感情をつなぐ旅の物語、ここに終わり、そして永遠に続く。

挿絵(By みてみん)

ーーまたどこかで会えたら嬉しいです。

そのときは、きっと新しい物語と一緒に。ーー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ