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宇宙物々交換 ボウフラ航宙記  作者: 和子


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18/27

【エピソード18:美しい星の価値、燃える記憶】

ギラソリスクの夜空は、まるで溶けかけた飴細工のようだった。

赤、金、白銀の光がゆるやかにうねり、空を渡る。

まるで、星そのものが息をしているかのように。


遠くでは、記憶溶鉱炉の明滅が脈動を繰り返していた。

それは星の鼓動であり、誰かの記憶が燃える音だった。

挿絵(By みてみん)

ボウフラは、ただ静かにその光景を見つめていた。

彼の合成皮膚に、薄く反射する炎のゆらめき。

そして、機械仕掛けの胸の奥で、微かな“感動炉”が反応した。


――0.012ミリワット。

ごくわずかな共鳴。だが、それは確かに“感情”と呼べる何かだった。


「この星は……宇宙で一番、美しい。」


誰に語るでもなく、彼は呟いた。

観測センサーではない。分析装置でもない。

この言葉は、ただ彼自身の“感じた”答えだった。


その時、煙の向こうからピトピトが現れた。

灰とススをまといながら、咳き込みつつも、目を輝かせている。


「この星、すごいよボウフラ!」

「燃やすたびにね、記憶の“香り”が立ち上るんだ。悲しみとか、愛とか……すこし焦げた安心とか!」

彼は鼻をひくひくさせて、笑った。

「お腹がすいてくる気がする!」


ボウフラは少しだけ口角を上げた。

「ええと、それは食べ物じゃないと思う。」


ピトピトはくるりと一回転し、ススを散らした。

その手には、小さな箱が握られていた。


「それ、どうしたの?」


「市長からの“お礼”だって!」

ピトピトは得意げに箱を見せる。

挿絵(By みてみん)

「この星で流通してる『記憶の結晶』。中に一つだけ“他者の記憶”が詰まってるんだって。

開けると、その記憶がうっすら伝わってくるんだよ。」


ボウフラのセンサーがかすかに震えた。

それは未燃の記憶、まだ誰にも手放されていない“時間”のかたまり。


ボウフラはそっとその箱を受け取り、胸の中にしまった。


「……記憶に価値を与えて、けれど燃やしてしまう。

この星の人々は、自分たちの“過去を手放す強さ”にこそ、美しさを見出しているんだな。」


ピトピトが小さく(うなず)いた。

「だから、こんなに光るのかな?」


ボウフラは夜空を見上げる。

うねる光はまるで、燃やされた記憶の軌跡だった。


「うん。価値を外に求めず、燃やし、灯す。

つまり、“思い出す”のではなく、“思いで照らす”んだ。」


再び、感動炉が反応した。

――0.016ミリワット。

さっきより、少しだけ強い。


そのとき、空の彼方に一つの光が点った。

案内灯。

次の座標を示す信号だ。


通信が入る。

市長ガルデスの低い声が響いた。


「旅人よ。君たちが次に向かうのは、“記憶を持てない民の惑星”——『モノアレス』。」


ピトピトが目を見開いた。

「えっ!? 記憶が……ない? どうやって生きてるの?」


ボウフラは答えず、静かに操縦席に戻る。

推進炉が唸り、船体がゆっくりと軌道に乗った。


背後で、ギラソリスクの空が最後の閃光を放つ。

燃やされた記憶が、黄金の雨となって降り注いでいた。


ピトピトが窓からそれを見つめる。

「ねえボウフラ、あれも誰かの思い出かな。」


「きっとそうだよ。」


そして船は、光を背に、宇宙の闇へと進む。

次なる「交換の旅」へ。


宇宙の(あきな)いは、感情と共に巡ってゆく。

わずかな灯りと、静かな決意を胸に——

二人は、新たな星の記憶へと向かっていった。

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