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宇宙物々交換 ボウフラ航宙記  作者: 和子


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17/27

【エピソード17:ギラソリスク市長と、溶ける思い出】

ギラソリスク市の中心部には火柱を上げる溶鉱炉がある。


青銅色のマントが、風を裂いた。

市長ガルデスは、手に取った古びたアルバムを一瞥し、ためらいもなく溶鉱炉へと投げ入れた。

挿絵(By みてみん)

炎が一瞬、淡い金色に変わり、次いで橙の渦となって踊る。


炉の前には列ができていた。

市民たちは「思い出の品」を抱え、それぞれの順番を静かに待っている。

ぬいぐるみ、写真、指輪、古い手紙。

そのどれもが、彼らの「通貨」であり、「命の一部」でもあった。


ピトピトは絶句した。

挿絵(By みてみん)

「ちょ、ちょっと……なんで!? 大切なものばかりじゃないか!」


横にいたボウフラも、じっと炎を見つめていた。

彼の感動炉が、わずかに震えている。

この星——ギラソリスクでは、“記憶”が通貨だった。

それを燃やすなど、経済そのものを破壊する行為のように思えた。


だが、市長ガルデスは振り返り、静かに言った。


「君たち、異星から来たな?……よかろう。説明しよう。」


その声は、まるで古い詩を朗読するように、低く、柔らかだった。


「我々は、“記憶の過剰”に苦しんでいる。

この都市では、思い出が価値だ。

ゆえに、人々は記憶を蓄えすぎた。」


ピトピトは首をかしげた。

「蓄えすぎた? でも、それって……豊かってことじゃ?」


ガルデスは、ゆっくりと首を振った。


「いや——腐るのだよ、過去に浸りすぎると。

過去の栄光や、痛みや、未練が人々の行動を鈍らせていく。

“今”を捨ててまで“思い出”にしがみつく都市になってしまった。」


炎の奥で、金属がゆっくりと溶け落ちる音がした。

それはまるで、誰かの心が静かに形を変えていくようだった。


「だから我々は、“記憶の焼却”という儀式を取り入れた。

不要な記憶を選び、手放し、炉にくべる。

記憶は燃え、エネルギーとなり、街を照らす。」


ボウフラの感動炉が、共鳴した。

「燃やす」とは、捨てることではない。

——昇華すること。


ピトピトは小さくつぶやいた。

「この人、ちょっと……狂ってるけど、筋が通ってるかも……。」


ガルデスは、遠くを見つめながら言葉を続けた。

「ただし、一つだけ条件がある。

“手放した記憶と、ちゃんと向き合う”こと。

逃げで燃やす者には、溶鉱炉は応じない。」


その時、列の最後尾にいた小さな少年が前に進み出た。

手に抱いているのは、ボロボロのくまのぬいぐるみ。

片方の目が取れかけ、縫い糸もほどけかけていた。


少年は震える声で言った。

「さよなら……おかあさん。

でも、ぼく、元気で生きるから。」


ぬいぐるみが炉に落ちた瞬間、

炎が低く、柔らかくうなりを上げた。

赤い光が、一瞬だけ優しい金色に変わった。


ボウフラの感動炉が微かに発電した。

出力、0.009ミリワット。


その数値は、小さな祈りのように淡く灯る。


——記憶は、失うものではない。

——手放し、そして、灯すもの。


夜のギラソリスクは、静かに輝いていた。

それは燃え尽きる光ではなく、

生きている者の中に残る、

あたたかな“記憶の灯”だった。

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