表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙物々交換 ボウフラ航宙記  作者: 和子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/27

【エピソード16 :取引拒否されしフリル人形】

トランキロスの中央広場。

青いガス灯がゆらめく黄昏時、ノモリア競売場の入り口付近で、

人だかりができていた。


ざわつく空気の中心にあったのは——

テラ織りのピンクフリルに包まれ、

星屑を模したリボンをまとった小さな人形。

完璧な造形、非の打ちどころのない手仕事。


だが、取引人の顔は険しい。


「——思い出のないモノは、買えないんだッ!」

しわがれた声が、静かな広場に響く。

「ここは“記憶価値”でしか流通しない星だぞ!」


買い取りを拒否されたのは、青いフードの青年だった。

影を落とした瞳で、彼は困ったように言った。

挿絵(By みてみん)

「……拾ったんです。貨物漂流船の残骸から。

 でも…誰のものだったのか、わからなくて…」


人々がざわめく。

“記憶なき品”を持ち込むことは、この星では無礼に等しい。


そのとき、群衆の後方から、

小さな声がボウフラの耳元に届いた。

挿絵(By みてみん)

「ボウフラ、感動炉で読み取れない?」

ピトピトの声は囁きのように優しい。

「この人形に込められた“微量の記憶残滓”とか。」


ボウフラは腕を組んで少し考え、

静かに頷いた。


「……やってみる。」


感動炉が淡い光を放ちながら起動する。

“定格8V・100mA”

微細な信号が流れ、静電気のような温度が空気を震わせた。


人形の胸部に埋め込まれた結晶素子から、

かすかな波形が立ち上がる。


「……記録強度:0.04ノスタルク。

 記憶源:名もなき航海士。

 内容:『任務の孤独な夜に、ただ静かに、視界の隅で見守ってくれていた。』」


ボウフラの声が、広場全体にやわらかく響いた。

その瞬間、取引人の頬に一筋の光が宿る。


「……“名前のない記憶”か。」

彼はふっと笑った。

「だが、それはそれで、価値がある。」


彼は人形を両手で包み込み、

棚の上に静かに置いた。

そしてカードにこう記す。


―――


【静かなる見守り人形】

記憶価値:0.04ノスタルク

価格:観賞1分間=0.1ノスタルク

※共感に応じて変動します


―――


しんと静まった広場に、

小さな温もりが広がっていく。


ピトピトがぽつりと呟いた。

「なんか……この星、しんみりしてるのに、やさしい。」


ボウフラは静かに頷く。

記憶の価値は“重さ”ではない。

“誰かに届いた”という、その一点で光るものなのだ。


青年は小さく涙を拭い、

取引人に深く頭を下げた。


「ありがとう。名前のない記憶に……居場所をくれて。」


そのとき、ボウフラの胸の感動炉が、

ほんのりとオレンジ色に灯った。

小さく、確かに——

0.007ミリワットの温もりを発電していた。


それは、この星のどこよりも静かで、

優しい“記憶のエネルギー”だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ