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宇宙物々交換 ボウフラ航宙記  作者: 和子


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12/27

【エピソード12:スリップ転位と、1ミリの決意】

──舞台:転位宙域。

あらゆる星の重力が「等価に遠い」空間。

光も、音も、思考も、わずかに滞る無音の海。


ピトピト:

「……ここ、好きじゃないな。

 何も掴めない。上も下も、時間の流れさえない気がする。」


ボウフラ:

「“転位宙域”は、宇宙の縫い目のような場所だ。

 ここでなら、どんな方向へも、わずか1ミリのズレで跳べる。」

挿絵(By みてみん)

ピトピト:

「1ミリで、何万光年……。

 でも、あんたの“1ミリ”って、いつも重たいんだよね。」


(ピトピトは、機体の外壁に指先を当てる。

 そこにはミニョン星でもらった“音と香りの記録素子”が埋め込まれていた。)


ピトピト:

「まだ震えてる。あの星の匂いが、少しだけ残ってる。」


ボウフラ:

(静かにうなずき)

「……次の行き先を示している。」


ピトピト:

「どんな場所?」


ボウフラ:

「“音が存在しない星”だ。

 感動炉も、たぶん……ここでは灯らない。」


(短い沈黙。ピトピトが羽音をひとつ震わせる。)


ピトピト:

「音がないって……どうやって話すの?

 どうやって“交換”するの?」


ボウフラ:

「わからない。

 けれど、“感じる”ことは消えないはずだ。」


ピトピト:

「……あんた、またそうやって行くんでしょ?

 こわいのに、止まらないんだもんね。」


ボウフラ:

「1ミリだけ、動いてみるよ。」


(ボウフラの機体がわずかに振動する。

 ナノアクチュエーターが作動し、空間が“きしむ”。

 宇宙の糸が一瞬だけ、たわむ。)


ピトピト:

「待って! ……ほんとに行くの? この静けさの奥に?」


ボウフラ:

「“沈黙との交換”が、待っている気がする。」


(ボウフラは、そっと“1ミリ”だけ位相をずらす。)


──宇宙が跳ねた。


星々の重力の網がほどけ、

銀河の流れが反転し、

二人は“音”そのものが存在しない世界へ滑り落ちる。


〈目的地:静寂星マリナーテ〉


──そこでは、言葉は存在しない。

ただ、記憶の残像だけが、やわらかく漂っている。


ピトピト:

「……ここ、静かすぎる。

 ねえ、ボウフラ。いるの?」


(返事はない。けれど、ボウフラの存在が“記憶”として胸に響く。)


ピトピト(小さく):

「これが、“沈黙との交換”なんだね……。」


(光が波紋のように広がり、二人の輪郭が記憶の海へと溶けていく。)

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