6話
「かんぱ~~~~い!!」
マゴットの父親の一声とともに、あかりたちの歓迎パーティーはスタートした。
影の国。
辿り着いたときはどのような場所なのか不安を抱いていたが。
外と変わりない生活を営めるようで、安心した。
「セトちゃん猫に戻って~!」
「猫ちゃん~!」
「え~、食事中はこっちでいさせてよ~!」
マゴットとその家族の厚意に甘えて、今日はここに泊まることにした。
明日は、リューベルクに会いに行こうと思っていたが、体調が悪くて部屋から出られないと聞いた。
だが、教団の行動は彼女の命令に背く行為であり、すぐに伝えるべきだ。
となれば、直接は会えなくとも、やはりあの城に向かってみるべきだろう。
「お姉ちゃん、楽しいね!」
そう声をかけてくるミリヤに対し、笑顔で応える。
「マゴちゃんの家族ってみんな仲良しなんだね!」
「そうですかね?」
「そうだよ! 羨ましいなぁ」
「ミリヤちゃんのご家族はどんな方なのかしら?」
マゴットの母親からの質問。
「……私思いでとっても良い両親だったの。それなのに、私は強く当たっちゃって。全部、私が悪いの」
寂しそうな笑顔を浮かべてそう答える。
それをあかりは黙って飲み物を飲みながら聞いていた。
「『だった』っていうのは?」
「──もう、死んじゃっているから」
「……ごめんなさいね」
「ううん、大丈夫。……結局、脚は治っても、元通りにはなれずじまいだったなぁ」
そう言葉を漏らすミリヤの肩に手を乗せるマゴットの父親。
ワインボトルをラッパ飲みして、顔を赤くしていた。
「ミリヤはもう俺の家族だよ! 困ったらいつでもここに戻ってきな!! 金はあんまないけどな、がはは!!」
「あはは。うん、ありがとう……」
「お父さん! 最後の一言は余計ですよ!」
「……あかり、お前さんはどうなんだ?」
「お父さん!」
「あー、私の家族かぁ」
遠慮がちに、それでいて同時に好奇心を孕んだ瞳でミリヤはこちらを見つめていた。
「あかりさん、この酔っぱらいの戯言は無視していいですからね!」
「ううん、気にしなくても大丈夫。……今も元気に生きていると思います」
それを聞いて安堵する一同。
「──でも、私のことは忘れているんです。直接会っても、他人だと思われてしまって」
「……」
「幸せに生きてくれているなら、それでいいかなってようやく最近思えるようにはなりましたけどね」
そう言って、頭をかくあかり。
その肩にもマゴットの父親は手を置いた。
「お前も『家族』だ!」
「あ、ありがとうございます……」
「はい、次はセト! お前さんはどうなんだ!?」
「えー、わたしぃ?」
全員の視線がセトに集中する。
自分のことをあまり話したがらず、過去が謎に包まれている彼女。
誰もが気になっていた。
「聞いたところで、微妙な空気になるだけだと思うよ?」
「構わん! お父さんに話してみなさい!」
「父親気取りになってます……」
「じゃあ、勿体ぶるものでもないから話すけど。まあ、────『捨てられた』んだよ、私は」
「……」
「気遣いは無用だよ。そうされて当然だと思うし、別に私も気にしてないから。今が楽しければそれでいい! あ、食べないならフライドチキンもらっちゃうよ!」
チキンを頬張るセトの肩にもやはり手を置いたマゴットの父親。
彼は涙を流しながら、頷いていた。
「お前も、『家族』だ……ッ!」
ソファーで足を広げ、いびきをかいて寝ている父親。
肩を寄せ合ってすやすやと寝息を立てている妹たち。
「ごめんなさいね、家が狭くてお客さん用の部屋がないのよ。だから、今日は私と旦那の寝室で寝てもらえる?」
「いえ、別に私たちはソファーでも大丈夫ですよ……?」
「えへへ、一緒のベッドで寝ましょうね! あかりさん!」
「マゴットもこう言っていることだし、私のお願い聞いてもらえるかしら?」
「お母さんがそこまで言うなら、私たちが断る理由はないですけど……」
「じゃあ私はこの子たちを子ども部屋に連れて行かないといけないから、後は頼んだわよ」
「どーんとお任せあれ! さあ皆さん着いてきてください!」
そう言って部屋へと先導するマゴット。
セトはうつらうつらしているミリヤの手を引いてくれている。
ドアを開けると、ベッドが2つ。
「今日のおもてなしは楽しんでもらえましたか?」
「うん。ありがとうね、マゴちゃん。とっても良い家族じゃん」
「料理も美味しかったし、文句無しだよ~」
ミリヤをベッドに寝かせ、布団を被せる。
ベッドの分け方は、あかりとマゴット。セトとミリヤとした。
「御三方はこれからどうされる予定なんでしたっけ?」
「私はリューベルクに会いに、あの城へ向かうよ。教団が人間の住む町に甚大な被害をもたらしたこと。そして、ミリヤを狙っていることを伝えて、保護してもらうんだ」
「セトさんは?」
「私はこの影の国を見て回ろうと思うよ、色々と興味深いしね。だから一旦、あかりたちとはお別れかな」
「わかりました! この国に滞在している最中で泊まる場所に困ったらいつでも来てくださいね!」
「そうだね、家族って言ってもらえちゃったし」
「私たちはファミリーです!」
「でも、そうなるとマゴちゃんの友達は0人に戻るわけだけど、それは大丈夫なの?」
「はっ!? それはそれで困ります!?」
────電気を消した部屋の中。
「あのあの、あかりさん」
「ん~?」
「せっかく一緒のベッドで寝ていることですし、『あれ』しませんか?」
「『あれ』って?」
「……ちょっとマゴちゃん、この部屋には私とミリヤもいるんだからね。喘ぎ声で眠れないのは勘弁なんだけど」
「えっちなことじゃないですよぅ!? 『がーるずとーく』です! 起きてるならセトさんも参加してくださいね!」
「がーるずとーくぅ? なにそれ、具体的には何を話すの?」
「将来の夢とか!」
「それってがーるずをつける必要ある?」
「女の子同士で話せば、それはがーるずとーくなんです!」
「じゃあ普段の会話と変わらないじゃん」
「寝る前っていうのが重要なんですよ。そういったリラックスしている状態で、女子同士で会話をする。そうすれば、普段では気恥ずかしくて言えないような自分の心の内をさらけだせて、もっと仲良くなれるんです」
「そうなの、あかり?」
「ガールズトークの内容って普通、恋愛とかじゃない?」
「れれれ、恋愛!? そんな破廉恥な!」
「というか、昨日も一緒のベッドで寝てるし」
「昨日は肉体労働で疲れてすぐに寝てしまったので! ……だめ、ですか?」
「わかったから、そわそわするのやめて! 動きがもろにこっちに伝わってくるから!」
「やった! じゃあ、私からですね! 私は商人として大成して、落ちこぼれ扱いしてきたやつらを見返してやることです!」
「それ、日本で聞いたような?」
「このがーるずとーくの目的は、主に私がお二人の夢を聞きたいだけなので!」
「え~」
「はい次、あかりさん!」
「……私の将来の夢? うーん、なんだろう。人間だったときから、これっていうものが明確にあったわけじゃないしなぁ」
「これをやってみたいとか、成し遂げてみたいっていう目標でもいいですよ!」
「……人間時代のやり残したことになっちゃうけど、せめて高校は卒業したいかな。通信制にしろ何にしろ。いろんな意味で区切りをつけたいから」
「いいじゃないですか、高校卒業! 中途半端が嫌だっていうのは、あかりさんらしくて、かっこいいです!」
「なんか照れるなぁ」
「続いてセトさん!」
「美味しいものが食べられて、平和にのんびりと過ごせて、面白いものを見られて、柔らかいベッドで寝れる日々を送ることかな」
「もうちょっとこう、自分だけの。みたいなのありませんかセトさん!?」
「……まあ、強いて言うのであれば、あかりに幸せになってもらうことかな」
「私に?」
「それはどうしてですか?」
「それじゃあ、おやすみ~」
「めっちゃ気になるんだけど」
「……ぐぅ」
「寝ちゃいました……」




