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エミネスベルンの約束  作者: 深山 観月
第二部 北の魔女編 2章 
62/77

1話

「あの後そんなことが起きていたんですか……」


配達を終えた後、トラックの中であかりは日本から飛ばされてきた経緯。

そして、これから影の国に向かおうとしていることを説明した。


「でも、まさかマゴちゃんに会えるとは思わなかったよ。実家のお手伝い中?」

「そうなんですよぅ、早く日本に戻りたいです! いえ、戻らなくちゃいけないんです! 私の夢はあの島国にあるのに、のに……」


がっくりと肩を落とし、深くため息をつくマゴット。


「圧政で経営状況が良くないんだっけ」

「うぅ、そうなんです。オーガルフェルデン家は元々名家でしたが、魔術商会の擁立によって北の魔女に祭り上げられました。それに加え、若くてまだ知識の浅いリューベルク様が北の魔女になったことで、商会はやりたい放題。法外な仲介手数料を会員に課すことで、商会の流通ルートを頼らざるをえないうちのような弱小商店の経営は苦しくなる一方なんです」


そこで、彼女はぐっと拳を握る。


「となれば、新たな流通ルートを開拓する必要があります。とりあえずはネットを駆使して、魔道具以外の商品も取り扱うことで何とかっていう感じですね!」

「なるほど。……もしかして、さっき運んだのも?」

「いえす! 魔道具ではありません!」


マゴットが苦労していたあの重い荷物を思い出す。

転んだ後も、これは私の戦いだと自分で運ぼうとしていた彼女だったが、その結果は案の定。

何度も転んでいるのをさすがに見かねて、結局3人で力を合わせて配達したのだった。

配達方法は置き配。

度重なる落下により角が潰れて丸くなってしまった外箱を見て、注文者は一体何を思うのか。

あかりたちは知らない。

いや、知りたくもない。

……せめて、中身が壊れていないことを祈ろう。


「それで、隣のその子は一体どちら様ですか?」

「ああ、この子はね──」

「もしかしてあかりさん。そういう趣味がおありで……? 具体的に言うとロr──」

「うぉい」

「ロ……なぁに?」

「ミリヤちゃんは知らなくて良いんだよ」

「全く、私という女がありながら! あの日の夜は遊びだったんですかッ!?」

「メンドクサ」

「あっ、めんどくさいって言った!? 再開を喜んでの戯れなのに! マゴちゃんの小粋なジョークなのに!!」

「あーはいはい」

「お姉ちゃん、この子と夜に遊んでいたの?」

「こっ、この子!? この子とは一体どういうことですかお嬢さん!?」


ミリヤは笑顔で首を傾げる。


「え? だって、────私よりも年下でしょ? 背もちっちゃいし」


マゴットの中で、何かが崩れる音がした。





「うぅ、ちくしょう……。ちくしょう……!」

「よしよし。マゴちゃんは偉いよね、頑張ってるよね」


あかりの足にかぶりつくようにして泣いているマゴット。

その頭を撫でながら、慰めの言葉をかけてやる。


「私なんかしちゃった……?」


マゴットの豹変ぶりにおろおろとするミリヤ。


「マゴちゃんはね、実は私よりも年上なんだよ」

「えっ、ええ!?」


そういう反応になるのも当然だ。


「ごめんね、マゴちゃん。私、そうとは知らずに……」

「ソウデスカ」

「この子はね、ミリヤちゃん。ある日突然魔女になってしまった私と似た境遇の女の子なんだよ」

「ソウデスカ」


完全にへそを曲げている彼女に2人は顔を見合わせる。


「それで彼女は今、魔術教団に狙われてて。教団は彼女の町をめちゃくちゃにした。だから、北の魔女に教団の行いを告発するのと、彼女を保護してもらおうと思っているんだ」

「……」

「でも、私たちは影の国への行き方を知らない。だから、それを知っていて、なおかつ信頼のおける魔女を探していたんだ」


マゴットの耳がぴくりと動く。


「でも、こうして会えてわかったよ。結局、最後に頼りになるのはマゴちゃんなんだよね」

「!」

「影の国に着いたらさ、リューベルクにも言っておくよ。私たちの命を救ってくれたマゴちゃんという恩人の話を」

「リューベルク様と、お知り合いなんですか……?」

「まあ、いろいろあってね。向こうも親友って言ってくれててさ」

「……!」


瞬間。

バッと起き上がるマゴット。


「やれやれ、仕方がないですね。ここは少しだけ年上としての威厳を見せてやりますか。本当にもう仕方がないですね。ああ、仕方がない」


右手を額に添え、首を振っている。

何とか軌道修正ができたことにあかりは胸を撫で下ろした。

ミリヤの表情も明るくなる。


「やったねあかりお姉ちゃん! マゴちゃんが単純で助かったね!」

「ミリヤちゃんストーーップ! それ以上いけない!!」

「たん、じゅん……!?」





「私の実家は影の国にあるので、お二人をそこへ連れて行くことに関しては全く問題はないんですけど……」

「けど?」

「この荷台に積んである荷物を捌き切らないと……」

「あ、そうだよね。仕事中に長々とごめん」

「いえいえ、あと一件ですから心配は無用です! もうしばしお待ち下さい!」

「ねえ、私たちにもお手伝いさせてくれない?」

「本当ですか!? 助かります! 次の荷物は大量の漫画で憂鬱なところだったんですよ!」


そう言いながら、彼女はトラックのエンジンをかける。


「へえ、そんなものまで売っているんだ」

「日本の漫画は、こっちでもすごく人気があるんです!」

「日本?」


ミリヤが首を傾げる。


「私が生まれた国なんだ」

「どんな国なの?」

「ん~、どんな国か。改めて聞かれると、難しい質問だなぁ」

「四季が色鮮やかではっきりしていますし、アニメや漫画とかの文化も盛んですし、料理もすごく美味しいんですよ!」


確かにこういう質問は当たり前に過ごしてきた自分よりも、マゴちゃんのように海外からの目線からの方が上手に答えられるか。


「随分と詳しいけど、マゴちゃんは日本に行ったことがあるの?」

「ふふん、何を隠そう私はその日本でつい最近まで商売をしていましたから!」


……商売をしているところを協会に見つかり、捕まっていたことは言わないでおいてあげよう。

これ以上彼女の名誉を傷つけないために。


「そんなにいい場所なら、いつか行ってみたいかも!」

「そのときは私とマゴちゃんが案内してあげるね」

「ほんと!? やったあ!」


両手を上げて喜びを表現するミリヤに2人の顔からは笑みがこぼれる。

会話が一段落ついたところで、マゴットは備え付けのタブレット端末の画面に指をすべらせた。


「次の配達先の住所は~っと」

「というかマゴちゃん運転できたんだ」

「こっちに戻ってきてから覚えたんですよ」

「そういえば、こっちでは運転免許ってどうやって取るの? 日本と似たような感じ?」

「なるほどなるほど。ここからだと車で10分程度ですか」

「……マゴちゃん?」

「さて、シートベルトはしっかりと締めましたか?」

「ねえ、マゴちゃん」

「前よし、右よし、左よし!」

「ねえマゴちゃん!? 不安なんだけど!?」

「影の国に運転免許なんてものはありません! 以上! いざ出発!!」

「いやいや、ここは影の国の外でしょ!? なら、そっちのルールに従うべきじゃ────」

「ほら、口を閉じていてください! 舌を噛みますよ!!」

「ちょ!? どんだけスピード出すつもり!?」

「──光より速く、あなたの元へ。~Faster than light, closer than ever.~」

「そんなキャッチコピーっぽく言われても!!」





言葉とは裏腹に、実際のマゴットの運転は意外と丁寧なもので安心した。


「ねえ、お姉ちゃん」


隣に座っているミリヤがちょんちょんと突いてくる。


「どうしたの?」

「次の届け先の名前……」


そう言って指を向けたのは、先ほどマゴットが操作していたタブレット端末。

カーナビアプリを開いており、車が走るにつれて現在地を示す矢印が目的地へと近付いていく。

だが、それは画面の半分。

もう半分では、配達を管理するアプリを開いていた。

そこには。

どくんと、心臓が跳ねる。


「──夢の、魔女……?」

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