プロローグ
ガタン ガタン ガタタン ガタン
規則性のある振動が体に伝わる。
心地の良い温かさを上半身に受けながらも、微睡みの淵にいる意識は徐々に釣り上げられていく。
変な体勢で後ろに寄りかかっていたために生じたのであろうか。首への凝りは意識が覚醒していくにつれ、徐々に本来の感覚へと戻っていく。振動と凝りの不快さに背中を押されるようにして、おもむろに瞼を持ち上げる。
まばゆい光とともに視界に入り込んできたのは、横に長い緑色のソファーとやけに数の多い窓。見上げるとドーナツのように真ん中が空いた白いプラスチック製の円がいくつも垂れ下がっている。記憶を探るまでもなく、私はこの場所を知っていた。
これは電車だ。
電車の中に私はいる。
窓から差し込む陽光を視線でかき分けるようにして外を見る。真っ先に目に飛び込んできたのは、太陽の光に反射して煌めく絨毯を敷く海。そして、その海から寄せる波のなすがままになっている白い砂浜。人がいるわけでもなく、足跡が付いているわけでもない。
つまりは、レジャーとしての面影は一切なく、風景としての海がそこにはあった。電車側には青々と茂る草たちが、恵みを一身に受けようと風に揺られて太陽に手を振っている。
その景色に見惚れつつも、意識の覚醒した脳内にはこの状況について、当然の疑問が浮かぶ。
なんで電車に乗っているんだっけ。
その疑問に対する答えについて、考え始めることはなかった。なぜなら、この電車の進行先である私の座っている左側を何気なく見たとき、隣にこちらを見上げている少女が座っていることに気が付いたからだ。
「こんにちは」
二人以外乗客のいないこの電車に少女の笑顔が、咲いた。