第六話:福沢さん一枚と樋口君が五分の三枚位
と言っても、これは今までにかかったお金だ。
バスを乗り継ぎ巻くって野口君が五枚と、食費と間食用と飲み物用でかなり消費してしまった。
ああ、あんまりお金使わないようにしなきゃいけないよねと思いながらもついつい買ってしまう始末。どうしたらいいのかな?
と言って、バスに結局乗っているのはどうかと思うのは私だけではないと思う。うん。私だけではない。
バスに乗っているのは大人って感じの女性だった。髪の毛がさらさらでとても大和撫子みたいな後姿だった。
うわあ……凄い綺麗だなと思った。
私の腕を誰かが突付いた。
「おねーちゃんどこ行くのー?」
隣にいつの間にか座っていた少女、茶色に光る髪の毛が染めてないと言う証拠。普通日の光に当たると赤色になるのだが地毛の場合茶色は亜麻色みたいに綺麗な髪になる。
ちなみにこの少女は日の光に当たっていて亜麻色。
「んー? ちょっとした旅ですよ」
「たび?」
うん旅だよって言うと、たびたびと連打するようになった。どこの可愛い子なのかなと周りを見ると誰もこの子を叱って連れて行くような人がいない。
「一人で乗っているの?」
「ううん。お母さんと乗ってるの」
そのお母さんはどこに居るんだよとつい突っ込みたくなった.
しかし相手は私より年下。ぐっと抑えた。
「ねえ、どうして乗っているの?」
「お母さん、お父さんとケンカして出てきちゃったの私はお母さんについてきたの」
「……なんていうヘビーな」
そのお母さんについては何も聞かない事にしたい。
まあ、そんな事するとバスが終点に着いた。私はお金を払って、次のバス停を探す。
大体終点はバスターミナルで、どこ方面に行くバスが転々と止まっていた。
本当は新幹線とか電車に乗りたかったが、そんな公共の物をバンバン使うとお金何ざさっさと消えて行く。
財布の中身が少しだけ痩せてきたなあと思い私は近くにある銀行でお金を引き落とした。
今度はこの方面で行こうと思いながらそのバス停に並んだ。
「あ、あのおねーちゃんだ!」
幸か不幸かあの少女がいた。
その少女は私を手招きしてこっちに来いと言う。私は静々と遠慮がちにその子に近づいた。うう、周りの目が痛い。
「どうしてここにいるの?」
「おかーさんがこっちにジッカがあるって言うからこっちにしたの」
ジッカ? ああ、実家の事か。発音と言うかイントネーションが少しだけ違いますよ?
少女の左に繋がれている手をみた。その手を伝って見ると。
「あ、こんにちは」
「こちらこそ」
手を繋げていたのはあの大和撫子みたいな後姿の人だった。しかも顔が綺麗。胸も……言わない絶対言わない。
「この子の面倒をみてもらってありがとうございます」
「い、いいえ! こちらこそ暇つぶしに相手してもらったので良かったですよ」
「ねえおかーさん喉渇いたー」
一名空気を読めて無い子がいました。
しかしそのお母さんは百二十円をその子に渡す。亜麻色の髪の子はわいわいと騒ぎながら自動販売機に向かって行った。
「あの子から聞いたようですね。私がケンカして実家に向かってるって」
「まあ、私が強要したわけじゃないですけど」
「まあ、ケンカはいつもだから仕方ないわよ」
少女を見るお母さんは、とても綺麗だった。
「あの子ね今の夫の子じゃないのよ」
「え?」
「シングルマザーだったんだけど、あの子の父親が蒸発して私とおなかに子供を置いて行ったのよ」
「……それは大変でしたね」
「ええ、でも今の夫とケンカしてるけどそんなに仲が悪いわけじゃないのよ? ただよく喧嘩して共に冗談が言えたりとか、それをちゃんと相手も分かってくれているのよ」
「そうなんですか」
「まあ大恋愛の末の結婚だったしね?」
そうですかとしか言えなかった。そして少女はペットボトルを持って帰ってきている。そのペットボトルは明らかに百五十円の筈なのにどうして買ってこれたのかは定かではない。
「……恋ねえ……」
そう思うとあの海での少年を思い出した。
隣に居ても全然気にすること無く一緒に時間を過ごせる。そしてなんか妙に馬鹿っぽい喋り方と、飄々としたと言うか、なにか不思議な雰囲気を醸し出している少年。
あの子は今どうしているのだろうかと思うと、心が痛かった。
最後の方で見たあの紙がハッキリと覚えている。
彼は生きているのだろうか?
癌については良く分からないが、もし彼が生きていたら、短い間だけど一緒にいたいと思った。
そして私に新しい出会いを与えてくれるバスが来た。
注)樋口一葉は女です。多分。
ダイナマイト横須賀とかどうでしょう? 意外とファンキーな名前だと思うんですが……。