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第二十話:嘘なんかじゃないけどね。

「汚いね」

 彼女の声だ。

 あんなに待ち焦がれた、彼女の声だ。

 いつもなら傷つくようなひと言も、今回は違った。

 嬉しいを通り越している。

「だね。まさかこんなにボロボロになるとは思ってもなかったよ」

「服はなかったの?」

「まあね」

 軽快な会話がひとつひとつ優しく心をくすぐる。

 僕は恥ずかしくなって目をそむけた。

「そういえば君ホスピスは?」

「抜け出したと言えばいいのかな? 君と別れてすぐに旅に出たんだよ」

「自分探しの?」

「うん。たぶん」

「どうしてそんなに曖昧なんさ」

 最後の一言に僕は言葉を失った。

 どうして曖昧なのだろう。

 自分のことなのによく分からなかった。

 言葉を必死に探すが、みつからない。

「まあ、色々あったんだよね」

「ふうん」

 明らかにいらだっている彼女を横目に、砂をけった。

 嫌な汗をかいていた。

「私ってさ小さい人間だったんだよね」

「え?」

 突然の言葉に反応しきれず、僕は間抜けな顔で佇んだ。

 海を見ていた彼女は僕の方へ振り返り、その場で体操座りをした。

 これが何を意味するのか僕には理解できず、思わず目をそらした。

「いっつも人ばっかりしかも男に付きまとっては振られてね。何してるのか分からないくらいにしていたら、ある人が私に近づいてきたんだよ」

「そうなんですか」

「うん。それが確か高校二年の秋ぐらい」

「近いね時期が」

「その人は私より先輩で、私を見てくれたの。たくさんデートしてもらったし、たくさん私の体を抱きしめてくれたりもした」

 そうだったのか……とどんな表情でいたらいいのか迷う。

 僕の表情は無意識のうちに険しくなっていると思う。

 彼女はそんな僕を見てどう思うだろうか。

 きっと嫌われているのだろう。

 尚も話は続いた。

「だけどある時私を求めるものが違ってきたんだ。お金を貢いだり、体を貪られたりして、しかもビデオまで撮られることだってあった。私は付き合うからいつの間にか【お遊び】になっていたんだ」

 返す言葉が見つからない。

 彼女は想像以上に苦しみぬいて生きていたんだ。

 僕のように変化が体に現れない分、ダメージは大きいだろう。

 ますます言葉をかけづらい。

「それはそうよね、君は病院というシェルターに阻まれてそんなことは何もなかったんだから」

 深呼吸する彼女はどこか力感が無い。

「その後私は警察に行って、彼を捕まえてもらったわ。その人はその高校から緊急退学。追放ね」

「君は……その後は?」

「もちろん人を好きになるというのには恐怖をもったわ。だけどね、昔から私はいろんな人に恋したいと思ったのよ。いつかは私をちゃんと見てくれる人がいるんだって思っていたから、信じていたから」

 僕は無意識のうちに彼女をみつめていた。

 彼女を抱きしめたいと思った。

 彼女を、温めたいと思った。

「君は多分私を追いかけていたと思うけど。その私は汚れているの」

 そんな事は無い。

 僕にとっての彼女は希望だ。

 生きるためのエネルギーだ。

 下を向いて悲しげな表情をする彼女。

 そんな彼女に、僕はいつかのあの手紙を見せた。

「これ、君のでしょ?」

「……?」

 そのしわくちゃな紙をじっと見つめる彼女。

 大切にしていたが、汗や雨がにじんでいる。

「あ……」

「これをここで見つけて、僕は君を探していたんだ。いまどきボトルレターとか摩訶不思議だったから取ったんだけどね……」

 僕は海を見ながら立ちあがった。

 思ったよりも体が重たい。

「分かった?」

 彼女に向かって手を差し伸べた。

 なんとなくだが彼女の表情には色が付いていた。

「……まあ、ちょっとだけ」

「あ、君の名前を忘れてた。君の名前は?」

「後何日しか残ってない人に言わなきゃいけないのかな?」

 そうかもしれない。

 でも僕は、彼女の名前を聞いてからではないと満足してむこうの世界へいけないような気がした。

「うーん。実は嘘だったといえばどうなる?」

「言うわ。私の名前は……」

 彼女の背後から夕焼けが顔をのぞかせた。




 







さあ、次は最終話ですね!

最後は斉藤さん、決めちゃってください!

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