白髪王女の誤算
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「……駄目、こんなの駄目よ」
――こんな未来は、許されない。
「ああ、ああ」
わたくしに出来ることを、精一杯やらなければ。
「お願い。どうかわたくしに力を。皆を、王女として守れる力を」
◇◇◇
お父様やお母様、お姉様にお兄様、わたくしの髪を櫛で丁寧にといてくれたメイド、それから沢山の人が綺麗綺麗と褒めてくれたわたくしの髪が、真白に染まった。
いや、正しくは色抜けした。
鮮やかな色が宿った髪は魔力量の多さの象徴。それがなくなったというのはわたくしに魔力がなくなったことに他ならない。
人々は白髪になったわたくしを『白髪王女』と揶揄した。
お母様は塞ぎ込むようになってしまった。
わたくしは婚約者に「もう魔力なしだから」と婚約破棄され、そのことでお父様は怒りわたくしに離宮で暮らすよう命令した。
「その……ユシリーズ……」
「なに? お姉様」
「……いえ」
お姉様はわたくしを悪しきように扱ったりはしなかった。
だけどもう、わたくしを抱きしめてくれなくなった。『白髪』は人の魔力を触れた所から奪うという言い伝えがあるから。落としたハンカチを拾って渡そうとしたら、お姉様は小さな声を漏らしてからわたくしの手をハンカチ越しに振り払った。
わたくしの心まで振り払われた気がした。
お兄様は……わからない。話しかけても返事をしてくれなくなった。昔はどんなに些細なことでも歩みを止めわたくしの話を聞いてくれたのに、今はなにも見えてなく聞こえてすらないように行ってしまう。
ただ一人、わたくしを幼い頃から見守ってくれているメイドだけはいつも通りだった。
「……ねえ」
「どうしたのでしょう、姫様」
「ごめんなさい」
「なにを謝ることがあるのですか? 私の大好きな姫様」
色が抜けた白髪を丁寧に櫛でとかれる度に、何度も泣きそうになった。
そして、わたくしに求婚してくれた人が現れた。
隣国の王太子であるエドアルド様。わたくしの前に跪き、わたくしを潤んだ瞳で見つめる。
「貴女の婚約者の座が空いたと聞き、居ても立っても居られずこうして馳せ参じた次第です。どうか、僕の手を取っていただけませんか?」
わたくしは一も二もなく彼の手に自らのを乗せた。
そして今日は、エドアルド様との結婚式。わたくしはこの日を、ずっと待ち続けていた。ずっと、ずっと。
――結婚式。
エドアルド様が用意してくださった美しいウエディングドレスに身を包みながら、わたくしは彼の隣にいた。
お父様たちからの乾いた視線を受けながらも、式は滞りなく進んでいく。
あと、もう少し。
緊張で喉が渇く。じっとりと手に汗が滲んだ。
そしてその時はやって来た。ガシャン、と大きな音が響き渡る。
現れたのは、伝説上の『厄災』。毛むくじゃらでおどろおどろしい魔物が教会のステンドグラスを割り飛来してくる。
エドアルド様に肩に手を置かれながら、わたくしは手を伸ばした。
わたくしの髪が白くなった意味。それはこの厄災を払う為だ。ここは一度時間を巻き戻した世界。巻き戻す前、皆がこの結婚式の日に殺された。無残に体を引き裂かれた。
わたくしを庇った婚約者もお姉様に覆い被さったお兄様も悲鳴を上げたお母様もこの場にいる者を避難させようとしたお父様も息絶えたお兄様を呆然と抱きしめていたお姉様も――そしてわたくしも。
痛みで意識が途切れる最中、わたくしは願った。そして髪に宿った魔力を対価に応えてくれた。
わたくしの手中から、青い炎で作られた薔薇が生まれる。美しく咲き誇った時、その薔薇は飛来する厄災を捕らえた。
一瞬で、なんの音もなく厄災が飲み込まれていく。逃げ惑っていた人々は動きを止めその光景をただ見つめていた。
薔薇の花弁が落ちるように炎が消えていく。跡にはもう、なにも残っていない。
わたくしはやりきれたのだと、ホッと息をついた。
エドアルド様がわたくしの体を支えてくれる。
厄災が一瞬で消え、人々は拍子抜けするように固まっていた。息を飲む音さえ聞こえそうなのに、そんな音すら聞こえないような沈黙がこの場を支配している。
「……厄災が、消えた、のか?」
最初に言葉を漏らしたのはお父様。誰よりも心配性で、伝説上のモノにすら恐怖し様々な書を読み漁っていたお父様。
「……ユシリーズが、やったの?」
お父様の言葉を引き継ぐように、涙が流れた跡が分かるお姉様が、わたくしを眉尻を下げた顔で見た。
それは恐怖でも憐憫でもなく、妹に向ける眼差しだった。
最後に、皆の心の内を代弁するようにお兄様が唇を歪ませながら言った。
「――……その白髪は、俺たちを守ろうとしてくれたから、なのか? ユシリーズは厄災が来ることを、知っていたのか?」
「はい」
短く頷く。
だって、皆が大好きだったから。綺麗な綺麗な髪の毛よりも、強い魔力よりも大切だったから。
だからわたくしは迷うことなく、あの日悪魔に助けを乞うた。皆を助けたい、と。
「ふふっ」
乾いた、されど軽やかな声が教会に反響した。皆が無言だった。
エドアルド様がわたくしを一層強く抱きしめてくれて、その熱に甘えるように涙が零れる。
「皆なら白髪のわたくしも愛してくれると、そう思っていたから」
しん、とさっきよりも強い沈黙が落ちた。わたくしはふと、雪が降る夜を思った。こんな風に静かで冷たい雪を思った。
「……ユシリーズ」
後悔に濡れたお母様の顔が、なんだかおかしく思える。
その隣にいるお姉様の手がわたくしに伸ばされた。
「ごめ、ごめんなさいユシリーズ。どんなに謝っても足りないことは分かってるわ。だけどどうしても謝りたいの。 ごめんなさい……っ」
謝ったこともなさそうなお姉様が、必死に謝罪の言葉を重ねる。
だけどどんな貴女にも、あの日わたくしを振り払った貴女が重なって、どうにも心は動かされない。
「――行こうか、ユシリーズ」
エドアルド様がわたくしに告げた。コクリと小さく頷く。
真っ白なウエディングドレスの裾から金の鱗粉が舞い上がる。
「真白の髪には金も似合うね。新しい髪飾りは金にしようか」
舞い上がる鱗粉に包まれたわたくしを見て、同じく鱗粉に包まれているエドアルド様はとろりと頬を緩めた。
自分の髪をつまんでみればたしかに白髪に乗った金の鱗粉が綺麗で、わたくしにも笑みが零れる。
「エドアルド様が選んでくださいますか?」
「勿論。君が身に着けるモノは、僕が全部選びたいんだ」
そのまま、わたくしたちの体は消えていく。
いくつもの言葉がわたくしたちに手を伸ばした。
「行かないでくれ、ユシリーズ!」
「お願い、もう一度話をさせて!」
「ユシリーズ!」
言葉を懸命に紡ぐ彼らの、愛しいと思っていた人たちの、必死な姿をわたくしは滑稽だと鼻で笑う。
ああでもわたくしも馬鹿だ。彼らが白髪になったわたくしも愛してくれるということを勘定に入れていたのだから。
それが大きな誤算だったのだ。
わたくしは厄災が来ることを隠す気はなかった。でも、厄災のことを話す前に皆がわたくしを拒絶した。どんな言葉も、聞こうとしてくれなかった。
そんな人たちの言葉を丁寧に聞いてあげる程、わたくしはもう優しくない。
義理は果たした。民は守った。後のことなどわたくしは興味ない。
さようなら。
わたくしの目に映らない、耳に届かない所でなら、どうかお元気でいてください。
◇◇◇
ステンドグラスが飛散した教会には、重々しい空気が立ち込めていた。
王太子が、顔を白くさせながら自分の姉である王女に問う。
「……僕たちは、ユシリーズになにをした?」
それは疑問ではなく、事実の確認であった。
「罵り、離宮に閉じ込め、化け物みたいに扱ったわ」
泣く資格なんてない、そう己を律しながらも王太子の瞳から涙がせり上がる。
妹は、髪が真白になった妹はなにをしていた? 自分に声をかけ、なにを言おうとしていた?
分からない。だって一度も立ち止まらなかったから。
「ユシリーズの話を、聞こうとしていれば……!」
そうしたら今妹は、怖かったと涙目になりながらも笑い、自分たちの腕の中にいたかもしれない。
王女は美しいと賛美された顔を能面のようにのっぺりとさせ、ユシリーズとエドアルドが立っていた場所を見つめる。
ボンヤリ呟いた。
「王太子殿下は、ユシリーズに触れていたわ。だけどなにも起こっていなかった」
白髪に触れると魔力を持っていかれるというのは、デマでしかなかった。
「一度でも、勇気を出せていたら……いいえいいえ、大切な妹なら、たとえ奪われようとも抱きしめるべきだったのに!」
「あ、謝れば良いのです、もう一度!」
王妃が声を張り上げた。
「きっと、エドアルド殿下と一緒に隣国へ行ったのでしょう。それならば会いに行け……」
「その隣国とは、どこなのだ」
「え?」
王妃が隣にいる王に目を向ければ、王は恐怖に染まった目を見開いていた。
「隣国は隣国で……」
「その国の正式名称は?」
畳み掛けられた王妃はあたふたとしながらも思考を働かせる。
そしてヒュッと息を不器用に吸った。
「思い出せないわ。というよりも、元から記憶にない……?」
ぽたりと一滴の汗が王から流れ床を打った。
「そもそも、エドアルドなんて名前の王子がいたか……?」
その後城に戻った王たちは総出で探したが、どこの国にもエドアルドという王太子はおろか王子すらいないことが判明した。
「私たちがあんなことをしたから、きっと天使様がユシリーズを連れて行ったのよ」
やつれてしまいかつての輝かしい容貌は見る影もない王女の言葉に、皆は静かに頷いた。
そして民には「ユシリーズは厄災を払う代わりに死んだ」と報じ、あの結婚式の場にいた貴族には箝口令が敷かれた。
唯一結婚式の場にはいなかったが真実を知らされた侯爵家の令息は、決まりかけていた婚約をも自ら破棄し部屋に閉じこもるようになったという。
それから少し経って。王妃が離宮に足を運び、ユシリーズの遺品をメイドたちに箱にしまってもらう。せめてこれらを形見として残しておこうと思ったのだ。
その最中、ふと王妃がひとりごちた。
「あら、誰か足りなくないかしら?」
あくせく働くメイドを見て、なにか強い違和感に襲われる。
だがメイドの顔など一人ひとり覚えているわけでもないので、王妃はユシリーズの遺品をどこの部屋に飾ろうかということにまた意識を傾けた。
◇◇◇
わたくしはあの日、自分の全ての力を込めて祈った。
そして、髪が真白へと変化した後に、彼は現れた。
「こんにちは。僕は悪魔エドアルド。君の魔力を対価として、召喚に応じた。なんでも願い事を聞いてあげるよ」
脇腹から血を流しながら、わたくしは彼の凪いだ目を見つめた。
「皆を、皆を、助けたい、の……」
お願い、その言葉が出る前にわたくしは巻き戻った。白髪に変わった髪だけは巻き戻る前の世界を忘れさせないように残ったままで。
そして、悪魔が隣国の王太子などという設定をぶら下げてわたくしの前にもう一度現れた時にはびっくりした。皆疑問すら持っていないようだったから、魔法を使っているのだろう。
「……それで、どうしてまたわたくしの前に? それも婚約者だなんて」
「君の目的はあの『厄災』を倒すことでしょ?」
「まあ、はい」
「その厄災を倒す手立てはあるの?」
「っ、それは」
家族に何度も話そうと思った。だけど皆に聞いてもらえなくて、わたくしにはもう魔力はないし困っていた。
「た、助けてくれるんですか?」
「うん、いいよ。せっかく巻き戻したのに同じような末路を辿られたら寝覚めが悪いしね」
「ありがとうございます……」
胸の前で手を握りしめる。安心からか涙で景色が滲んだ。
ゴシゴシと目元をこする。それから目を開けると、いつの間にか隣にエドアルド様が座っていた。
わたくしの白髪をついとつまむ。
「それに、君のこの髪、結構気に入ってるし」
「……白髪ですよ?」
「……? うん分かってるよ」
目を見開けば、もっと不思議そうな顔をされた。体に血が巡るのを感じた。
それから、わたくしたちは計画を進めていった。
結婚式の日に、厄災が現れたらエドアルド様から魔力を譲渡してもらい厄災を倒す。こうすれば周りからはわたくしの髪が白髪になったのは厄災を倒す為だったという強い示しになるからだ。
「……厄災を倒したら、わたくしどこに行きましょう」
離宮に遊びに来たエドアルド様にポツリと弱音を零せば、「僕の国に来る?」と軽く返された。
「魔界もほぼ君たちの住む国と変わらないし、なかなかに良い所だよ」
「そうなのですね。お誘いありがとうございます。その、わたくしが行っても良いのですか?」
「ユシリーズは良いんだよ」
じわりと頬に熱が集まる。
返事をしようとして、だけど扉がすごい勢いで開かれわたくしは口を閉じた。
扉を開けたのは、離宮にもついてきてくれたわたくしのメイドであるライラ。
「姫様、どうか私も連れて行ってくださいませんか」
瞠目するわたくしに代わって、エドアルド様が返答する。
「僕は良いけど、魔界に行ったら二度と帰れないよ。それにもめ事が起こっても面倒だから、君がこの国で生きていたという証拠は消し、皆の記憶からも消える。それでも良いなら良いけど」
「勿論です。そのような覚悟、とうの昔に決めております」
ライラがわたくしの前で腰を折り、わたくしの手を握りしめる。
「姫様、どうか貴女の髪をとく権利を、私だけに」
わたくしの髪が真白になろうとも、ずっと変わらないライラ。
「ええ、ありがとうライラ」
小さな頃からわたくしを見守ってきてくれた貴女が、今日も変わらず大好きよ。
◇◇◇
そして魔界で暮らすようになってから半年が経とうとしていた。
「姫様、いいえもう奥様でしたね。今日はどのような髪型にいたしましょう」
「この金の髪飾りに似合うようにしてちょうだい」
一週間前に、改めてエドアルド様とわたくしは結婚式を挙げた。
沢山の悪魔たちがわたくしたちをお祝いしてくれた嬉しさは、今も鮮明に思い出せる。
悪魔は怖いモノだと思っていたけれど、話してみると彼らは案外普通の人だった。
「今日は旦那様とのお出かけですからね。腕によりをかけますよ」
「それは頼もしいわ」
わたくしのふわふわで引っかかりやすい髪を、ライラが丁寧にといてくれる。
わたくしはこの瞬間が好き。
のんびり目を閉じていると、ライラが唐突に声を上げた。
「どうしたの?」
「ひ、姫様っ、これ、これは……!」
動揺故かまた姫様呼びになっている。彼女をなにがそんなにも驚かせたのかと首を傾げていると、ライラがつまんだ数本の髪が、鏡越しに見えた。
その髪は、真白ではなかった。
「色が……」
そうか。わたくしはたしかにエドアルド様に魔力を捧げたが、枯渇したわけではない。だとしたら、また髪が色を取り戻すのもなんら不思議ではない。
こうなることは仮説の域を出なかったが考えていて、だからこそスルリと状況を飲み込めた。
「…………」
「これなら元の髪色に戻る日も近そうですね」僅かに残念そうな表情を滲ませながら髪を結わえてくれるライラを横目に、わたくしの胸中には黒いインクがとぷりと広がった。
夜。
仕事を部下に押し付けた、もとい終わらせてきたと言い張るエドアルド様が帰ってきた。その足で二人で馬車に向かう。
周りは暗いし、白髪に数本混じった髪の毛に気づくわけないと自分を慰めながらわたくしはエドアルド様の隣を歩いていた。
だが挙動不審だったのか、エドアルド様が眉をひそめる。
「ユシリーズ、体調が優れないの?」
「い、いえ! そんなことは……」
訝しげな顔をしたエドアルド様がわたくしの頭に目を向けた。
「髪飾り、気に入らなかった?」
「いいえ! とっても大好きなデザインです」
「良かった」
そう笑って彼がわたくしの髪を一房手に取った。
どき、と心臓が嫌な音を立てる。
わたくしの髪に口づけを落とすのが好きなエドアルド様。彼が緩めていた赤い目を、一点に集中させてから見開く様が、スローモーションのようにしっかりと見えてしまった。
「あ、あの、この髪は……!」
「――そうか。ユシリーズの髪は本当は水色なんだね。夏の湖みたいで、とても綺麗だ」
またすぐに瞳を柔らかくさせるエドアルド様を見つめる。じわりじわり、心に彼の言葉が染み入った。
「これからどんどん、増えていくのかな?」
「は、はい。多分もう少ししたら完全に元に戻ると思います」
「じゃあ水色の髪に似合う新しいドレスも仕立てないとね」
水色の髪に、愛おしげな口づけが降る。
ライラがせっかく施してくれた化粧が崩れてしまいそうになった。
わたくしはずっと恐れていた。白髪がある日水色の髪に戻ることを。
白髪だからとわたくしを拒絶した彼らが、また水色髪になったわたくしになにを言うのかと想像しては怯えてた。もし元に戻ったからと優しくされたら、わたくし死んでしまうとさえ思った。
だからエドアルド様に優しくされる度に、好きになっていく度に願った。ずっと真白のままがいいですと。
だって、どんなに大切にされていても、ふとした拍子に裏切られるかもしれないのだから。
――ああ、だけど。だけど!
わたくしは既に知っていたではないか。
どんなことがあっても、自分の味方でいてくれる人がいることを。
そしてきっと、エドアルド様もわたくしを裏切らないことを。
貴方が隣国の王太子として、わたくしの婚約者になる為に来た日。貴方はわたくしの悲しみの吐露を少しだけ申し訳なさそうにしながらもずっと聞いてくれてた。それが、とてつもなく嬉しかった。
その他にも沢山沢山。だからわたくしは、エドアルド様を――
「……言ってませんでしたけど、ずっと前から、貴方のことがとても好きでした」
「僕も好きだよ、ユシリーズ。君とお茶を飲む時間が、気づけば一番の楽しみになっていた」
わたくしたちは馬車に乗り込む。
わたくしの髪が全部水色に戻ったら、エドアルド様はどんな言葉をくれるのだろう。
彼はきっと、空に浮かぶ星を花にしたような、眩く柔らかい言葉をくれる。そう確信めいたモノがわたくしに芽生えた。
馬車の窓から外を見る。
王国にいた頃と変わらない満天の星々を見上げ、僅かに寂しさが込み上げた。
昔お姉様と一緒に、窓硝子越しに星を見た。一緒の毛布に包まりココアを飲みながら、お姉様に星の名を尋ねたことを覚えてる。
降り出しそうな星々と共に、様々な思い出がチカチカ蘇った。
わたくしやっぱり、皆のことが好きだった。でもあの日々には戻れないし、戻る気もない。
精一杯、わたくしはここで生きていく。
そして髪が水色なことが当たり前になった未来で、わたくしはようやく『許し』を知るのだろう。だから今は、許さなくて大丈夫。
だって許すという感情を知る必要がない人たちが、わたくしの側にいてくれるから。
この幸せな日々は、わたくしにとって一番の誤算だった。家族に裏切られた日に、わたくしはもうどこにも行けないと絶望したから。
一筋の涙が流れる。頬から滑り落ちた涙は、静かに真白の髪に染み込んでいった。
ちなみにエドアルドはユシリーズが初恋で一目惚れです。
自らも大怪我を負っているのに、自分の命よりも大切な人たちを守りたいと願うユシリーズの意志の強さにエドアルドは(無自覚ですが)キュンキュンしっぱなしでした。
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