「お前を愛する事はない」と初夜で言われた伯爵令嬢、嫁ぎ先の大公殿下は変人と噂だったけど本当に変人だった的な話
「お前を愛する事はない!それは、何故っポ?」
私はカーチャ、18歳、ビスチャー伯爵家の令嬢だった。
新婚初夜、セクシーなナイトドレスで夫婦共同の寝室に訪れた。
旦那様はマンフレート・ノイランド、この国の大公殿下、御年は48歳、
なのに、堂々たる体躯で軍服を着て、ベッドの上に仁王立ち。
あれは髭?違う。鼻毛が飛び出ている。
・・・詰んだか?問いかけている。答えなければ?
私は金髪にアイスブルーの瞳、自分で言うのも何だが、量産型美人だ。
垂れ目が特徴だ。だから、優しそうだからと、ただそれだけの理由で、伯爵家なのに王子に選ばれた。
母上、この子、優しそう
フリッツがそう言うのなら
まるでオモチャを選ぶように指名された。
王子の婚約者選定が目的のお茶会で当て馬にすらならない家門の私が選ばれた結果に、両親は驚愕した。
「旦那様・・・私がお気に召さないのですか?」
「否!断じて否!あえて言おう!それは・・・それは、我には愛する人がいるッピ!!」
「左様でございますか・・・」
「うむ。自分の寝室で寝るが良いポ!!」
・・・・・・・・・・・
翌日、大公殿下の息子夫婦に慰められた。
「義母上、ウゥ、クス」
「フリ、笑ってはダメよ!」
「フリードリヒ様とアルテシア様、ご挨拶をします。私ビスチャー伯爵家出身カーチャでございます」
「様はいいのよ。貴女は私の・・・クス、ごめんなさい。お義母様なのだから」
大公殿下のご子息とその奥様は、共に22歳、私よりも年上だ。
「そうだね。まずは・・・どうしようか?」
「そうですわね。貴族学園卒業したばかりだから・・・まずは、私達について回って勉強してね」
「お願いします」
助かる。いきなり、お屋敷の事をやれと言われたら無理だろう。
旦那様と言うと、領地経営を部下に任せている。
しかし、
「あ~、僕が分かるように説明してッピ!」
「はい、旦那様・・・・」
報告をさせて、チェックしている。
「ちょっと、お姉さんのいる店に行ってくるから、今夜は遅いピ!」
「はい、父上」
「旦那様・・」
最低だ。私は一応妻だ。妻の前でそんなことを言う何て・・・
旦那様の特徴は、語尾が変わる。
「~~だな」「ポ」「ピ」
一人称も、「我」「私」「僕」
また、自分の名を言って「マンフリートさんはこう考えているのだな!」
と様々だ。
疲れる・・・が、害はない・・・のか?
比喩も貴族の爵位を使う。
「これは、ポッと出の男爵かな」
「はい、ポッと出の男爵ですね」
だいたい、旦那様語が分かって来た。成り上がりの男爵、つまり、熟成、熟考が必要。もっと、案を煮詰めろということらしい。
数ヶ月がたち。
王宮からお呼びがかかった。
夫婦共に出席しろとの事だ。
「一緒に行くポ!」
「はい、旦那様」
☆☆☆王宮
気が進まない。私のお披露目パーティという名目だけど、晒しあげるのが目的だ。
王はニヤニヤして、大公殿下に問いかける。
「弟よ。息災か?新妻をもらって、さぞかし、疲れるだろう」
「「「クスクスクス」」」
と声が漏れ聞こえる。
嫌な感じだ。
私は・・・婚約破棄をされた瑕疵のある令嬢だ。
卒業式の日に断罪をされ、婚約破棄をされた。
☆回想
「カーチャ、婚約破棄をする!僕の婚約者なのに全然、後ろ盾になっていないし、第一、王妃教育散々って母上が言っていたよ!だから、侯爵令嬢と婚約を結び直す事にした!」
それは、我が家門は、普通の伯爵家、王妃になれる家門ではない。
それでも、お金を出していたのに・・・
王妃教育って言っても、この国の家門の名前、諸候ごとの産物に地形、他国でも分かる内容だ。それは覚えた。
しかし、王妃の教育の方が散々だった。元男爵令嬢、
散々間違ったマナーや。どうとでも取れるような質問を投げかける。
『民は愛すべきと思いますか?』
『愛すべきです』
『まあ、甘やかしてはいけないわ』
この王妃、王都では散々炊き出しや、時には貧民にお金を配っている・・・のに。それもビスチャー家が出したお金で。
かくして、こんな王妃教育でも、秘密を知っているから、王族としか婚姻できないと、大公殿下にあてがわれたのだ。
・・・・・・・・・・・・・
旦那様は王の問いかけにどう答えるかしら。兄弟とは言え。陛下だ。さすがにふざけた回答はしないだろう。と思っていたが、やっぱり旦那様だ。ふざけた。かなりふざけた返答をした。
「兄上!疲れてないポ!僕は、不能だから、おチンチンたたないポ!初夜はカーチャとお人形さんで遊んだッピ!」
「「「・・・・・・」」」
シーンと王宮は静まった。
何かすごく気まずい雰囲気に包まれる。
「そうか・・・ゆるりと過ごされよ」
この発言で、私に同情される声も漏れ出た。
「やり過ぎじゃない・・いくら何でもあんな大公に・・」
「元々、田舎の伯爵令嬢に王妃は無理だったのよ」
「伯父上!」
「大公殿下」
あ、元婚約者の王子がやって来たわ。
「どうです。僕のお古は?彼女、虫が嫌いで、お仕置きで芋虫を顔に近づけました。参考にして下さい」
ああ、奴は、気に入らない事があると、侍従に命じて、芋虫を顔に近づけられたわね。
すると、旦那様は、意味不明な行動に出た。
「ケツにキスをするポ!」
「え、何を・・・」
旦那様はフリッツの喉元を掴んで持ち上げた。あの体躯、それだけの力はある。
「ウグググゥ、苦しい!」
「お仕置きのルールはまず自分が試して加減をしる事っポ!婚約者ッピッピの不手際は自分の不手際だポ!だからケツにキスをさせるピ!」
「伯父上、意味分かりません!」
「「「「フリッツ殿下!」」」
旦那様はズボンを脱いで、フリッツの顔にお尻を近づけた。
「ウギャーーー!」
「ヒィ、そんな!」
「大公殿下を取り押さえろ!」
「僕に触れたら、不敬罪だピ!」
私は手で顔を覆い隠し。旦那様の下半身は見なかった。いや、妻なら見ていいのか?
いや、見たくない。
この騒動でパーティは終わり。
結局、これは戯れで終わった。
「さあ、旦那様、帰りましょう・・・」
「ンポ!寄るところがあるッポ!」
旦那様は、王宮の奥に行く。ここは空き部屋が多い。
ここは、王妃教育でも入るなと言われた所だ。
突き当たりの部屋のドアをトントンとノックをして。
「王宮に蝶は舞うのッピ?」
旦那様はまた意味不明な事を言う。
すると、返答が来た。
「王宮に舞うのは蝶に似た蛾ばかり、早急に・・駆除が必要です」
「まだ、害虫駆除業者は育ってないポ!」
何かの合い言葉のようだ。ドアが開き。出てきたのは・・・第二王子だ。御年14歳・・・だと聞いた。
フリッツが、母親と同じオレンジ色の髪の毛なのに、この方は輝く小麦のような金髪に涼んだ青の瞳だ。
王族の色だ。
確か、男爵令嬢があんまりなので、侯爵家の第六女を側妃を迎えたのよね。
側妃は、男子を産むと、役目は終わったと男爵令嬢が仕切る王宮を嫌って、家に帰ったと聞いたわ。
先王がなくなり。待遇が悪くなったとか。
「紹介するッピ。ビスチャ伯爵家の令嬢ッポ!」
「初めまして、カーチャと申します」
妻とは紹介しないのね。
「はい、マデルアと申します・・・第二王子です。一応・・・」
自信なさげに自己紹介するわ。この方、王宮でも王子として扱われてないのかしら。
「手形だポ!これで貴族学園通うッポ」
「はい、伯父上・・・いつも有難うございます。実は、どうしても一人では限界があって、勉強が進んでいません」
「分かったッポ!」
何が分かったのかしら。
その後、旦那様は大公家の当主の座を息子夫婦に譲った。
「お前達なら出来るッポ!」
「父上はどうされるのですか?隠居用の屋敷を用意しましょうか?」
「違うッポ!王宮で老害になるッポ!」
「・・また、分かっていますよ。義母上は?」
「連れて行くッポ!」
王宮に無理矢理役職を得た。
旦那様は剣術指南役だ。
この男、強い。何故なら、若い頃に軍功を立てて、大公家を立てる事を許されるぐらいだ。
一時期、弟の方を王位に継がせようとする動きがあったと聞く。
しかし、投石兵の投げた石により頭を強打して、それから、少し、残念な言動になり、その話は無くなったと聞いたわ。
それも遠い昔だ。
「フリッツ!腰がなっていないッポ!ケツにキスさせるッポ!」
「ヒィ!今日は具合が悪いから休みます」
結果、マデルア殿下と、騎士爵の子息達だけが来るようになった。
旦那様は軍部には絶大な信頼があるらしい。
旦那様は丁寧に教える。
「剣を抜いて、構えるまでの動作を練習するポ!」
「「「はい!」」」
「始めはゆっくりだポ!」
ゆっくり、ゆっくりと剣を抜き。構える動作から教える。
剣の事は分からないが、それを何時間もやってから攻撃、守りを教えているわ。
それが、終わったら、私は、マデルア殿下の家庭教師になる。
私は実家から本を取り寄せ復習をした。教える立場になる。
教える。これは完全に理解していないと無理だ。私も勉強する。
さすがに、部屋で人妻と二人だけにするわけにはいかないから、旦那様か大公家から来たメイド、従者と一緒だ。
「殿下、ここが、間違っています」
「どれ・・・あ」
「キャ、失礼しました」
「いえ」
ノートを指さしたら、殿下の手と触れた。
まるで、付き合い始めた男女の仲のようだ。
旦那様はジィとみている。
ある日、殿下の部屋に行ったら、旦那様はいなかった。メイドと従者だけだ。
「カーチャ様、お館様は後から来るそうです・・少し、お待ち下さい」
「はい、分かりました」
「あ、そう言えば、私達、用事がございました。失礼!」
「えっ」
二人きりになった。気まずい。
私も外に出ようとしたら、旦那様が入れ替わりで入って来た。
「ウウ、グスン、グスン!ウワーーーーン、カーチャが浮気したポ!信じられないッポ!」
「ええ、そんな・・・」
「伯父上、違います。私の命を賭けて!」
「グスン、グスン、すぐに陛下に所に行くッポ!婚姻関係を破棄するッピ!」
どこからか。さっきのメイドと従者がやってきて、連行される。
すぐに、王宮の謁見の間に連れて行かれた。
王子と婚約者と王女たちもいる。
あれほど、泣き叫んでいたのに、旦那様は穏やかになった。
対して、陛下と王妃、王族たちは苦虫を噛み潰したような嫌な顔を隠さない。
旦那様は三人称の話し方になったわ。
これは相手を諭す時に使う話し方だわ。
「マンフレートさんはこう考えるんだな。カーチャとは結婚関係を破棄なんだな。
カーチャは爵位で考えると、元王子の婚約者で大公家の妻、だから侯爵家の令嬢と同じなんだな。
王妃教育を受けたから、王族との結婚しか許されないんだな。
だから、マデルアと婚約させるポ!」
「・・・分かった。好きにするが良い」
え、そんな。でも・・・
マデルア殿下は顔を伏している。真っ赤だ。
「アデルア殿下を大公家に、連れて行くッポ!」
「まあ、良かろう・・・」
その後、私達は大公家に丁寧に連れて行かれた。
何故か、皆、ニコニコだ。
旦那様は言う。
「離縁したッポ!だから賠償金として領地を渡すッポ!」
書類を見た。大公家の領地の10分の1か?それでも伯爵家クラスだ。しかも商業都市が一つある。
「え、こんなに・・・宜しいのですか?」
と息子のフリードリヒ様に聞く。現当主だからだ。
「フフフ、家門で考えれば、預けただけになりますよ。これはその後、生きてきます。殿下は、貴族学園で学ばれて卒業したら・・・分かりますよ」
意味深に言われた。
私は領地をもらい。とりあえず。別に屋敷をもらった。
離縁された身で、大公家のお屋敷に住むことは出来ず。
殿下は、大公家で暮らしている。
それからしばらくして、アデルア殿下を誘い。
元旦那様になった大公殿下がよく行く所だと噂の場所に行った。
前の奥様の墓所だ。
大公殿下は座り熱心に手を組み冥福を祈っている。
終わるまで待つ。
「・・・カーチャとアデルア様、来ていたのか?」
「私を拒んだのは、亡き奥様に操を立てたのですね。愛する人は奥様の事だった・・」
だいたい分かった。いや、今、やっと確信した。
この方、馬鹿なふりをしていたのだ。
「・・・お前たちに何が分かる!」
素で怒ったようだ。
☆☆☆大公視点
我は、20代前半で、隣国との戦争で手柄を立てた。
そうだ。あの噂は本当だ。石が頭に当たって、おかしくなった。
だが、石を投げた相手が噂と違う。敵国の投石兵ではなく自国民の子供達だ。
あれは、戦功パレードの時。
コトン!
兜に石が当たった。
パレードの群衆に紛れて、誰かが石を投げたのだ。
「捕らえよ!」
「不届きな奴、斬り捨ててやる!」
「まあ、待て、殺す前に理由くらい聞いてやらんとな。敵国のスパイかもしれない」
「「御意!」」
連れてこられたのは、子供だ。幼い姉弟だ。
「お父ちゃんの仇!」
「ウワ~~ン、お父さんを返せ!」
あれは激しい戦いだった。
だが、王国の興亡これにありの戦ではない。
領地争いだ。
我は、敵軍を撃退した。それから、国境を深く越え突っ込んで、敵軍を大いに打ち破り。手を出させないようにしたのだが・・・・・半数の兵士が亡くなった。
軍略を試して、我は笑みすら浮かべた。
我に取っては一兵士、しかし、家族に取ってはかけがえないない肉親だったのだ。
「許して・・・やれ、我の勘違いだ・・」
「でも、確かに見ました!王族に対する不敬罪です!」
【我が勘違いと言ったら勘違いなのだ!その子たちはおかしいのだ!】
いや、我がおかしかったのだ。
それから、我は戦いが怖くなった。
凡庸な兄上なら、大きな戦いは起こらないだろうと王位の誘いを断った。
我はおかしくなったのだ。
そんな我を愛妻、カトリシアは離縁などせずに分かってくれた理解者だった。
さて、素に戻ったどうしようか?
・・・・・・・・
「ンポポポ~~~ン!ハシャーーン!怒っちゃってメンゴ!カトリシアは愛する妻だポン、お姉ちゃんの店に行ってごめんなさいしているだけだポン!」
私達は頭を下げ。
大公殿下が馬車に入るまで下げ続けた。
この国には領地持ちの諸候は801家ある。男爵家の小さな領地も含めてだ。
王宮に侍る男爵令嬢の王妃が取り立てた諸候が32家が支持基盤だ。
フリッツ王子の婚約者の実家は今は侯爵家だが、成り上がりの元子爵家。
怖い事はない。
圧倒的ではないか?
大公殿下は戦争を嫌う。
なら、私はアデルア殿下の手となり足となり。王位につけよう。
アデルア殿下が学園を卒業した日、私は22歳になっていた。
フリッツは義弟に言う。
「まあ、田舎の領地にカーチャと引っ込んでいろよ・・・」
「義兄上、そうもいかないのです。義兄上夫妻は、外国の大使との接遇が上手くいかないので私とカーチャが代わりにやっている状態ですよ」
もう、実務担当者は、フリッツの言う事を聞かない状態までになっている。
ここ4年で、私は田舎の社交界を回り。実情を得た。
想像以上に現王家に対する支持はない。
事を起しても、王都に駆けつける諸候はいないだろうと目論む。
さて、やりますか・・・無血クーデターを。
ある日を境に、王宮の実務担当者は、誰も王族の言うことを聞かなくなった。
そして、大公殿下を支持する軍部が、王族達を拘束する。
フリッツ殿下とその取り巻き達は、離宮に軟禁される事になった。
殺さない。血を流したら、血で血を洗う抗争が起きるからだ。
陛下にはきちんと条件を示して、退位をお願いした。
退位の条件は、愛妾をあてがう事だ。
その維持費は、王が死ぬまでだ。
王妃殿下は、美貌でのし上がったが、もう、50近くのマダムだ。
誰も籠絡が出来ずに、女好きの元王の側で暮らす事になる。
そして、大公殿下は。
「アピーーーン!ウボーーーーン!また、お姉さんの店に行ったポン!お金の関係だポン、愛する事はないポン!」
とおかしなフリをしているが・・・
今年、生まれた息子に影響されたらどうしようか?と考えている。
最後までお読み頂き有難うございました。