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3.男

 黒髪の女性。彼女が端末の操作に夢中になっている隙に、ルカはノートパソコンとUSBメモリをリュックサックに押し込み、後ろ側の窓から飛び出したのだ。


 突如として自宅に押し掛けてきたのは、政府直轄特殊部隊イージス。奴らが自分を狙う理由は幾つもあるが、ばれるはずのない居場所が何故か筒抜けになり、彼らは突入してきた。


 そして、それに続くように現れ、イージスに敵対して牙をむいたのは、おそらく反政府組織サイファーの部隊員だ。どうしてこの二つの組織が自分の元に現れたのか。ルカは頭を巡らせたが、焦りの中では何も思いつかない。


 それよりも不可解なのは、マンションの6階にある自分の部屋に、どうやって彼女が窓から突入してきたのかということだ。ルカが逃げるために用意していた退路は、ルカ自身しか知らないはずだ。謎は尽きないが、今はそれを考える暇はない。逃げることに集中しよう。


 街はいつもの夜中の静けさとは反対に、銃声や怒号でひしめき合っており、ところどころ、崩壊しているところや火事になっている部分もある。

 ルカは自身が狙われていることと、この惨状の関係性を考えたが、頭を振って今は考えないようにした。


 しかし、ゆく当てもなく走っているが、どこに逃げればいいのだろうか。取り敢えずはこの区画から離れるべきだろうが、一人で細々と生きるにはそんな力も筋もない。そもそも、自分の素性が完全にばれているかどうかも曖昧だ。もしも、まだ家の情報しか掴まれていないのならば、再起できる可能性もある。それに、一応学校もあるしな……。


 そんなことを考えながら走っているうちに、いつの間にか大通りに出ていた。

 イージスの奴らに見つからないようにしないと。


 そう考えて走り続けていると、目の前から突然悲鳴が聞こえてきた。幼い声だ。

 ルカはその声のする方へ駆けつけると、道路の真ん中で膝を崩して座り込んでいる幼い少女を見つけた。


 「大丈夫か――」


 走って近づくと、先ほどまでは建物に隠れて見えなかったものが視界に入って言葉が詰まった。

 少女の前に立ちはだかるのは、その少女の十数倍も大きな巨影。全高は建物の四階相当で重鈍そうな見た目でありつつも、機敏に動くのは無機質な鋼鉄の機械。両足はローラーに支えられ、両腕に当たる部分は強固な装甲と鋭利なブレードを備えた白の怪物。長細い顔に、白い塗装で包まれた体躯はところどころ煤で黒く汚れている。


 「ぜ、ゼノン……!」


 ゼノン――自律重攻型兵器。イージスと共に行動し、作戦を遂行する特殊兵器だ。

 ルカは驚愕した。資料でしか見たことがなかったそれが、目の前で幼き少女を消し炭にしようとしているのだから。

 助けたいけど、無理だ。俺は戦いにおいては、何の力もない。無力だ。助けに行ってもきっと無駄死にする。それなら今あの娘が襲われている内に逃げたほうがいい――


 ルカは少女を見捨てることしかできない自分に無力感を感じつつ、心を捨てて、横道に入ろうとした。その時、横目でゼノンがブレードを振り上げるのが見えた。そのブレードが少女を叩き潰そうと振り下ろされたその時――


 「おらあああ!!!」


 反射的に飛び出し、ルカは少女を抱きかかえてその場を飛び退いた。直後、轟音と地響きが背後でとどろく。振り下ろされたブレードが地面を削り、そこに大きな陥没を生じさせていた。

 抱えた少女に外傷は見られない。恐怖のあまり気絶しているが、命に別状はないようだ。ルカが振り返ると、ゼノンの赤く光る一つ目と目が合った。


 「ひっ――」


 冷や汗が流れるのを感じる。ルカは途轍もない恐怖に襲われた。

 少女を助けたのは自責の念からだ。きっとこんな事態になっているのは自分のせいだから。でも、ここからどうすればいいんだろう。目の前で再びその強靭なブレードを振り下ろそうとするゼノンを前に、ついにルカは何もできなかった。


 いやだ――いやだ、いやだ、いやだ、いやだ。


 躊躇なく振り下ろされるブレードを前に恐怖したが、せめて死ぬその最後までこの少女を守ろうと、その少女の身を寄せて庇うように抱きしめた。そして――




 「……」


 未だ降りかかることのない死を不思議に思い、恐る恐る目を開けた。


 「……!」


 その光景は今日二度目になる鮮烈な光景。そこで繰り広げられていたのは、壮絶な攻防。人の身の十数倍もある巨体からの斬撃を、素手で防ぐのは一人の男。その男はふっと笑いながらこう言った。


 「おい、少年。おめえさん、男、じゃねえか。超、かっこよかったぜ――」

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