2.可憐なる暴力
彼女はそう言うと、武装した集団に鋭い眼光を向けた。
「こんにちわ。いや、こんばんわ、か。今日もこぎけんなようで。イージスのお巡りさん……?」
「――ス、スプレッド……なぜここにサイファーが……!」
「いやいや、それこっちのセリフだから。しらみつぶしにやってんのか知らないけど、限度ってもんがあるでしょ普通。そろいもそろって、子供に銃向けてんじゃねえよ、俗物」
彼女は可憐な風貌を漂わせる気配から一転、険しい表情でイージスと呼ばれる集団に言葉を吐いた。
「なんだと……!!チッ。お前ら、撃――」
「撃っていいのかなぁ……?」
彼女がそういうと、彼らは何かを思い出したかのように、引きかけた指を震わせながらその場に留めた。
「まぁ、こっちは撃つけどね。」
「――な」
「少年、耳を塞げ!」
少年は状況が呑み込めないまま、言われるがままに両手で自分の耳を押さえた。
彼女はそう言うと、驚く彼らを前に、その重鈍な引き金を躊躇なく引いた――
その瞬間、部屋に響いたのは、途轍もない衝撃と破裂音。震動で建物が揺れる。閉じた目を開けると、壁が崩れたのか、そこには白い煙が舞っていた。
こんなのライフルの威力じゃない……
少年は目の前に広がる、明らかにライフル一発では起こせない光景に驚愕した。
まさかこの人、エクシード……?
「ありゃま、こりゃ、やりすぎちゃったかなぁ。あー、少年。目を閉じたほうがいいよ。この光景は青少年育成上、良くないから。」
少年は彼女の言う意味がよく分からなかった。しかし、煙が少しずつ晴れると、見えてきた光景に言葉の意味を理解した。
それは、赤い海と化した床。そして、かつて彼らだったものの一部だった。
「――」
少年は声にならない叫びを上げ、ショッキングな光景を前に後ずさりした。その拍子に後ろの机にぶつかり、ハッとして振り向く。
そこに映し出されていたのは、「コンプリート」の文字。ライフルを手にした目の前の女性は何らかの端末を操作している。それを見た少年は意を決した。
「ごめんねぇ。私達ちょっと人探ししててね。なんかこいつらも同じ人探してるみたいで、その人この近くにいるっぽいんだけど。関係ない君巻き込んじゃった。怪我はない?―― ――って少年?」
端末を操作しながら話を続ける彼女は、反応のない少年に目を向けた。しかし、そこに少年の姿はなく、空いた窓から風が吹き込み、カーテンが靡いていた。
「って、いないし。いつの間に逃げたの?怖がらなくていいのに。ていうか今逃げたら危ないから、保護した方がいい、かな?」
彼女はライフルを抱えたまま立ち上がり、後方に並ぶ明るく発光する複数の画面に目を向けた。それを見て訝しげに近づく。
「ちょいちょい、これって――」
彼女は端末を急いで操作して、耳元に近づけた。
「こちらレイカ。民間の家でイージスと交戦した。部屋には中等部くらいの少年がいたけど、多分逃げた。――うん。こっからが大事な報告。民間人だと思ってたその少年だけど――当たりだ」
黒髪の女は、眼前に広がる無数の文字列を前に、確信してそう言った。