卒業式の青い猫
短編連作の『青いネコとお姉さん』シリーズのお話となります。
先に『桜並木の青い猫』などの旧作品をお読みいただいた方がよりお楽しみいただけるかも。
(旧作品はこの上の『青いネコとお姉さん』をクリックすると表示されます)
武 頼庵(藤谷 K介)さま主催の『イラストで物語書いちゃおう!!』企画の参加作品です。
下のイラストをテーマにした小説です。
空は雲一つなく晴れ渡っている。
広がる青空の下、卒業証書を持った僕たちは校庭を歩いていた。
さっきみんなで小学校の先生たちにあいさつをすませたところだ。
「これで小学校も終わりだね。中学でもよろしく。浩二くん」
ビーチボールバレーのチームで一緒だったハヤトくんが僕に言った。
「うん、こっちこそよろしくね。ハヤトくん」
ハヤトくんの隣にいるシノブちゃんが僕に笑いかけた。
「浩二くん。中学でクラブはどこに入るか決めてるの? まだだったら、あたし達といっしょにビーチボールバレーのクラブに入ろうよ」
「え? うん、まだ決めてないけど、どうしよっかな……」
ビーチボールバレーは、4人制のバレーボールに似た球技だ。
バレーボールよりネットが低いバドミントンのコートを使う。
柔らかくて軽いビーチボールを使うのが特徴だ。
ハヤトくんは背は低いけど、ジャンプ力がすごい。
僕がトスを上げて、ハヤトくんのアタックで得点することも多かった。
中学でのクラブはビーチボールバレーでもいいかな……と思ったけど、少し迷ってる。
僕が考えてると、ハヤトくんが「それとも……」と言った。
「実佳ちゃんと同じ美術部に入るの?」
「え? ハヤトくんも実佳姉ちゃんのこと知っているの?」
実佳姉ちゃんは、僕の家の近所にすんでて、今度中学三年生になる。
わからないことがあると、よく相談に乗ってもらってるんだ。
いつも助けてくれるスーパーお姉さんなんだ。
もしも実佳姉ちゃんが中学でビーチボールバレーのクラブに入ってたら、僕もそれにしたかも。
さっきの質問に、ハヤトくんは笑顔で答えてくれた。
「僕のお姉ちゃんが実佳ちゃんと仲良しなんだ。実佳ちゃんも昔はこの小学校のビーチバレーのクラブに入ってて、僕もいっしょに練習してたよ。浩二くんも、ビーチバレーを実佳ちゃんに教わったんだよね。試合の時にも猫だましサーブとか猫招きアタックとかをやってたし」
あの必殺サーブってそんな名前だっけ?
シノブちゃんが人差し指をあごに当てて小首をかしげた。
「そうそう。それに浩二くんって、ちょくちょく公園で実佳ちゃんとトス練習やってるでしょ。邪魔しちゃ悪いから声をかけなかったけどね」
「え? 見てたの? いや、邪魔じゃないからシノブちゃんもいっしょにやればよかったのに。みんなでやれば楽しいと思う」
「またまたー。今更なに言ってんの。実佳ちゃんと浩二くん、お付き合いしてるんじゃないの?」
「いや、僕と実佳姉ちゃんはそういう関係じゃあ……」
言いかけた僕に、他の女の子が声をかけてきた。
「浮気はだめだよ。浩二くんって、きれいなお姉さんと河辺とか公園でよく写生してるよね。実佳ちゃんって、その人でしょ」
と、眼鏡をかけた女の子、同じクラスだったマドカちゃんが言った。
一緒にいた委員長のカナメちゃんも続ける。
「前に合同授業で作ったボトルシップも、その先輩に教わったんでしょ。浩二くん。その後の夏休みの宿題でも本物のボトルシップを作ってたよね」
えー。なんでわかるんだろ。
前に実佳姉ちゃんが展示してたのを、みんなも覚えてたのかな。
と、その時、僕の肩をポンポンと叩かれた。
振り返ると、長身のミナミちゃんがいた。
その両隣には小柄なナナカちゃんとサユリちゃんもいる。
ミナミさんは真面目そうな顔で言った。
「浩二くん。実佳さんって、百人一首の大会の時に応援に来てくれた綺麗な人ですよね。私も札の取り方を教わって助かりました」
続いてサユリちゃんも口を開く。
「実佳お姉さんは、給食メニューの案の写真にうつってた人でしょ。優しそうな人だったよね」
さらにサユリちゃんも言った。
「お誕生日会で浩二くんがくれた子ネコのぬいぐるみ。今でも大事にしているよ。あれも実佳ちゃんに習ったんでしょ?」
女子達が僕を取り囲むようにしていった。
「「浮気はだめだよ」」
いつの間にそういうことになってるんだろう?
っていうか、クラスの女の子たちはそう思っているの?
実佳姉ちゃんと僕が……そういう関係?
誤解を解かないといけないな。
「実佳姉ちゃんと僕が……。よくわからないや……」
僕のつぶやきが聞こえたのか、ハヤトくんが言った。
「ちょっと想像してみなよ。実佳ちゃんはきれいだから、他にカレシがいてもおかしくないよね。実佳ちゃんが他の人にとられちゃっていいの?」
「え? それはヤダなぁ……」
僕が答えると、ハヤトくんは校門の方を指さした。
「じゃあ、ちゃんとお付き合いするように言った方がいいよ。ちょうど実佳ちゃんも迎えにきてるしね。ほら、行ってきな」
「え?」
校門にいる父兄の人たちの中に、お母さんとなぜか実佳姉ちゃんもいた。
「浩二くん、卒業おめでとう」
「あ……」
なぜか僕は顔が熱くなって、うまく声がでなかった。
そんな僕を見て、実佳姉ちゃんはクスッと笑った。
「1年間だけど、これからいっしょの中学に通えるね、中学でもよろしくね」
「う、うん。そうだね。中学でもよろしく」
お母さんは他の父兄や先生に用事があるそうで、僕と実佳姉ちゃんが先に帰ることにした。
歩きながら僕は実佳姉ちゃんに話しかけた。
「あのね。さっきクラスの女の子たちに取り囲まれてたの」
「へー……」
あれ? 実佳姉ちゃん、今ちょっと、機嫌が悪い?
実佳姉ちゃんってもしかして、僕が他の女の子のことを話すと気を悪くするのかな?
「あ、あのね。えーと、実佳姉ちゃんと僕がお付き合いを……しているんじゃないかって……」
また顔が熱くなってうまく話せない・
「あ、そうなんだ。なんてこたえたの?」
「うーん……。よくわからない。実佳姉ちゃんって好きな人いるの?」
僕が聞くと、実佳姉ちゃんはクスッと笑って僕の頭に手を置いた。
「……ないしょ。浩二くんがもう少し……あたしより大きくなったら教えてあげる。早く大きくなってね」
「えーーーー」
「あ、浩二くん。ここ、覚えてる? 以前にあたしが写生をしているときに、ここで会ったんだよね」
河川敷に桜並木が続いている。ピンク色の花が満開だ。
あのとき、実佳姉ちゃんは桜の絵を描いてたんだ。
絵の中に、なぜか青い猫もいたな。
あの日から、実佳姉ちゃんと何度も会うようになったっけ。
僕たちは手をつないで、桜のトンネルを歩いて行った。