プロローグ 第一章
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まるで宇宙の中にいるようだった
身体は動かず、ただ空間を漂うようにそこに在るだけ
それはほんのわずかな時間
何も見えないはずなのに、何も感じないはずなのに
手を引かれているような気がして、取り込まれるような感覚があって
数十年ぶりの「感覚」だったはずなのに、何の高揚感もなくて
ただ、底知れぬ恐ろしさだけがあった
そこでは、自分を認識することもできなかった。
プロローグ
「記憶に残ることのない記録」
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第一章 学園生活の始まり
1
丁寧に舗装された道を上品な美しさを纏う馬車が駆けている。
急ぐこともなく、ただ目的地へと向かう馬車
その馬車には一人の少年が乗っていた。
馬車はそれほど大きくはなく、こじんまりした馬車よく言えば落ち着く広さの馬車だった。
馬車に揺られ、窓から太陽の光を感じながらその少年は思考に至っていた。
…自分がこの世界にきて15年が経った。
ロス・アウスドルクス
種族・人間
性別・男
身分はついこの間まで一貴族の領主の一人息子だった
今は貴族の跡取りでもなく、貴族階級に悩まされる立場でもなくなった。
そんな立場の自分が、何故貴族の馬車に乗っているのか。
そもそも何故貴族階級がはく奪されたのか、
貴族階級がはく奪されるような出来事…領民から不当な搾取をしそれがバレてしまった…とか。
貴族の利権争いの中で濡れ衣を着せられ陥れられてしまった…とか。
この世界でもそういったことはあるのだろうか。
いや、そもそもそういった事例も元はと言えば創作作品からの受け売りか…
結局、はく奪された理由は分かりきっている。
国を失ってしまったから。領主が守るべき国も民も居なくなってしまったから。
つまりは一つの国がそのまま無くなってしまったのだ。
言葉通り、本当に国まるごと滅んでしまったのだ。
小国とはいえ一国が丸ごと滅ぶとなると相当なことだ。
一体何があったのだろう。
そうして住める国を失いなんの経済力も持たないはずの15歳の少年がこうして馬車に乗っている。
普通に考えておかしな話だ。
その理由は国の崩壊の日の出来事に繋がってくる。
一国が丸ごと滅ぶ。人類史上類を見ない未曽有の災害でも発生したのだろうか。
異世界特有の異次元現象で説明不能の事態に陥ったのか。
これはある意味正解か?こんな事地球の話であったのならお笑いものだろう。
その国は「魔族」に滅ぼされた。
なんて。
本当に、摩訶不思議な世界に来てしまったものだ。
なんでも、人の世界と魔の世界の次元が魔王によって繋げられたことで人の世界に魔族の軍勢が侵入してきたことが原因らしい。
この世界は魔物が存在する世界、つまりファンタジーの世界だった。
それがこの世界の普通だった、
自分は、従来の価値観や考え方が通用しない世界に来てしまっていた。
そして自分はこの世界の理解に浅いまま、その厄災の場を目の当たりにした。
惨劇の渦中に居たわけではないが、その惨劇の火の粉は周辺の村々を焼き尽くすほどには大きなものだった。
自分の居た領内もそれほど大きな土地ではなく、程なくしてその火の粉を浴びることになった。
人間は魔族の力に対抗することができなかったのか。
これについてはできなかったと言うほかない。
『この世界には2つ次元が存在し人の世界、魔の世界と別れている。
その2つの次元を合わせて世界には多くの種族が生きており、それぞれに種族的特徴がある。
その種族的特徴として、人間は魔力抵抗力と筋力が皆無な種族だった。
それに対して、魔族は魔力に適合し、圧倒的な身体能力や魔法耐性など種族的に優れていた。
つまり人間と魔族は人間側が魔族側に一方的に蹂躙される関係になっているということだ。
普通は超えることができない次元の壁を魔族が超え、人間をあらゆる集団で淘汰していった。
そこに何の目的があるのかは分かっていない。』
その力の差を目の当たりにして、自分は何故今生きているのか。
それは今この馬車に乗っているということが理由になる…
そう考えているうちに馬車は目的地に到着したしたようだ。
「ロス・アウスドルクス様、只今高位魔法育成学校正門前に到着いたしました」
自分は、馬車を降りて、「ありがとう」と一言挨拶をすると馬車はすぐに去っていった。
運転手の表情はとても事務的だった。まぁ、それはそうだ。
体感数分で目的地に着いた自分は、やはり思考にふける時間というものはとても有意義なものだ、と生まれて此の方何度思ったか分からない感情に耽り、歩みを進めた 。
2