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5.部活動地獄めぐり

 

 その後の授業もつつがなく終わり、迎えた初めての放課後。

 長吉は可憐の帰り支度を手伝いながら、自身の教科書を鞄に詰め込んでいる。

 弥生が声を掛けてきたのは、そんな時だった。

 

 この短時間で既にお馴染みになった三つ編みの少女は、そそくさと去っていくクラスメイト達の流れから逆らうようにして、長吉達の前に立った。

 

「ねえ、吉備津さん、番場君。これから予定、ある?」

「ああ、校舎の中を見回ってくるつもりだ。ここはかなり広いしな、何処に何があるかちゃんと自分の目で確認しておかないといけねえ」


 なら、と弥生が微笑んだ。


「良ければ、私が案内するけれど、どうかな?」


 お邪魔でなければ。そう付け足す委員長に、長吉は素直に頭を下げた。


「ああ、そうしてくれると助かる……が、いいのか?」


 昼の時も散々に迷惑を掛けてしまった。この上、放課後まで付き合わせるのは、流石に気が引けた。

 しかし、長吉の遠慮に、弥生は笑って首を振る。


「いいのよ。ちゃんと目の届くところで監視――じゃなくて、クラスメイトだもの。助け合えるところがあるなら、手伝うのが当然だから」


 台詞の中に入り混じったであろう本音をあえて無視し、長吉は可憐に目を向けた。

 

「だ、そうだ。そうまで言ってくれるなら有難い。お言葉に甘えるとするか」

「ええ、ええ、そうしましょう! ありがとう、委員長さん!」


 楽しそうにはしゃぐ可憐を見て、長吉はホッと胸をなで下ろした。

 どうなるかと思った学校生活も、弥生のお蔭でマシな物になりそうだった。

  

  

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「一階は1年の教室の他に、化学準備室や工作室とかがあるの。移動教室の時は、こっちに来ることが多いかな。音楽室もここにあって――」


 弥生の説明を聞きながら、各所を順繰りに回っていく。

 彼女の案内は的確でわかりやすく、長吉たちは、ただただ、ふんふん頷きながら彼女の後を付いて歩くだけで良かった。

 

 白薔薇学園の高等部は、三階建ての校舎である本館と、渡り廊下で繋がった分館の二棟で構成されている。

 分館の方には、食堂や茶道室、華道室など本館の一階に入りきらなかった特殊な教室が並ぶ。一部の部活もここを部室として使用しているという。

 

 窓から見える体育館はちょっとしたスタジアムのような広さがあり、この時間は運動部が練習に励んでいる筈だ。

 前の学校のように、日によって使用する部が分けられてしまい、毎回その手の利用権を巡って文字通り血みどろの争いを繰り広げていた、なんて事はなさそうだ。

 

 なお、体育館は少し小ぶりの物がもう一つあり、そこを中等部の生徒たちが利用しているらしい。

 白薔薇女学園は小中高一貫の学校の為、敷地内に学び舎が分けて設けられているそうだ。

 ただし、立地の関係から小等部は少し離れた場所に建てられているらしいので、中学生と高校生の二学部が一緒の校門を潜る事になる。 

 

「大体、こんな所かな。後は、部室棟だね。文化部と運動部の二棟に分けられていて、ここだけは中等部も高等部も共同で使っているんだよ」

 

 校内を一回りし終わった所で、弥生が最後の捕捉を付け加えてくれる。

 今、長吉たちが居るのは元の教室だ。

 窓の外からは、運動部の生徒達の元気の良い掛け声が聞こえて来る。

 その様子を興味津々に眺めていた可憐が、委員長の言葉を聞いて振り向いた。


「そう、じゃあ次に行きましょうか。今度は、部活見学ね。早く、私達が入る所を決めておかなきゃ」

「え。部活、入るの?」

「ええ、そうよ。運動部は男子じゃあ入れないかもしれないけれど、一応聞いてみるのも悪くないし。文化部なら、その辺は問題ないと思うから。とにかく、色々見てから選びましょう」

「ああ、そうするか。それじゃあ、まずは陸上部辺りから見ていくとしよう。色々すまなかったな、委員長。助かったぜ」

 意見も一致した所で、長吉は可憐を連れて教室を出ていこうとする。

 


「……えっと。挑戦するのは悪くないと思うのだけど、色々難しいんじゃないかなあ」


 心配そうな委員長の声に応えるように、背中越しに親指を立てる。

 

「任せろ。お嬢の言った通り、運動部は無理かもしれんが、文化部という手がある。まさか、全滅はしない筈さ」


 学帽を深くかぶりなおしながら、廊下に出る。

 学生らしい、清く正しく楽しい生活を送る。それが、この学校に転校する上で立てた目標の一つだ。 

 それが可憐と決めた、大切な約束。


 ――さあ、部活動を満喫しようじゃないか。

 輝かしい青春の一ページに今日という日を刻むべく、長吉たちは意気揚々と歩き出した。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「……まさか、本当に全滅するとはな」

「文科系のクラブも全部駄目ってのは、流石に予想外ね!」


 青春が白紙に戻ってしまった。

 流石の長吉も、これには頭を抱えそうになる。

 

 「撃沈」の報告を受けた弥生が、ほら見たことか、という風にタメ息を吐きながら首を振った。長吉たちの戦果を見越したかのようなその態度。どうやら、それを確かめるために教室で待っていてくれたようだ。


「だから言ったのに……お昼もあれだけ悪目立ちしたら、すぐに評判が四方に飛んでっちゃうわ。この学園は広いけど、噂好きの生徒達にとってみれば、狭すぎるの。SNSやLINEであっという間に情報は拡散していくしね……」


 確かに、と長吉は頷いた。

 どこの部活も、長吉が姿を見せた途端、顔を横にぶんぶん振りたくって拒絶の意志を示してきた。

 

「文化部も、部室に入れた所はまだマシだったぜ。後半なんか、鍵が閉められ、貼り紙がされ、しまいには魔除けの札や十字架が掛けられていたからな」

「中からお経が聞こえてきたときは、びっくりしたわ。この学校の生徒達は、信心深いのね」

「うん、まあ……神や仏にもすがりたい、という気持ちなんでしょうね……きっと」


 弥生の言葉には説得力がある。納得しかない。

 しかし、これでは参った。恐らく、というか間違いなく、バッドエンドの原因は長吉にある。

 

 保健室送りの伝説に加え、白薔薇勲章の生徒絡みで問題を起こしたとなれば、敬遠されるのも当然だろう。

 加えて、この格好だ。ただでさえ男に免疫の無い乙女たちに、昭和のバンカラ制服は刺激が強すぎたのだ。

 

(――しかし、折角お嬢がコーディネイトしてくれた格好だ。着てこないわけにはいかん)


 嬉しそうに衣装合わせをしていた可憐の姿が思い浮かぶ。

 あの姿を見たら、意見なんぞ出来る筈もないし、そもそも、彼女の提案を断る事など考えられない。考えては、いけないのだ。

 

 何せ――長吉は、彼女のモノ、なのだから。

 

「どうするか。お嬢一人なら部活に入れなくもないだろうが……」

「それは駄目。バンチョーと一緒じゃないと、私は嫌なのよ」


 まあ、そう言うだろうとは思っていたし、長吉も同意見ではあった。

 日を改めて、徐々に外堀を崩していくしかないか。

 そう考えていると、おずおず、と手があがった。


「どうした、委員長? ああ、そうか。すまん、結局最後まで付き合わせてしまったからな。もう、ここまでで十分だ。有難う、助かった」

「ううん、そうじゃなくてね。何というか、あの……」


 歯切れの悪そうに言いよどむ。

 どうしたのだろうか。長吉は不安になる。

 何か、自分たちが彼女に不都合な事でもしてしまっただろうか……いや、思い当たる節は幾らでもあったが。

 しかし、弥生が次に言い出した言葉は、長吉の予想を超えたものだった。

 

「あのね、二人が入れそう……というか、確実に入れる部活があるの。少なくとも、見学は出来る所が……」

「なに!? 本当か!」

 

 思わず、弥生の両肩を掴んだ。それが本当なら、有難い事この上ない。

 何と頼れる女なのだ。もしや神か、女神の化身か何かか。長吉の心に希望と信仰心が満ちる。

 

「あ、ちょ、いたい……」

「っと、すまん!」


 彼女が痛みに顔をしかめたのを見て、慌てて手を離す。焦りやすいのが、長吉の悪い癖なのだ。


「もう、バンチョーったら。女の子は乱暴に扱っちゃ駄目よ。ごめんね、委員長さん」

「ううん、いいの。私もいきなり言い出しちゃったし……そりゃあビックリするよね」

「本当にすまなかった。それで、委員長? 俺達でも入れる部活があるって本当なのか?」

「ええ、本当よ。二人が気に入ってくれるかは別だけど……」


 何故か弥生は恐縮した様子を見せるが、それは要らぬ心配というものだ。

 今は、どんな部活であれ、見学できるだけでも御の字というものだ。

 しかし、それは何処なのだろうか。今までで、全ての部活は見て回ったと思うのだが。

「それって、何をする部活なの?」

 可憐も当然、同じ疑問を抱いたのだろう。腕組しながら、首を捻っていた。


「うん、その部活の名前は、ね――」


( ヤ∀ ス)明日は朝に一回、夕方二回。計三回投稿ッス!


( ヤ∀ ス)ちなみに番長は、前の学校では帰宅部だったっス

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