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18.実践! お嬢さまのシナリオ・マスタリング!


午後の授業も終わり、残すはあとホームルームだけ。これでやっと憂鬱な時間も終わる。


(――――早く、先生来ないかな)


 無意識のうちにドアの方を見てしまう。そこで、久遠寺遥は眉をひそめた。

 

 自分と諍いを起こした件の生徒。泉谷菜月が、顔を青ざめてブルブルと震えているからだ。

 

 取り巻き連中とトイレに出かけ、昼休みの終わり際になってようやく戻ってきたかと思ったら、あの始末だ。

 授業中もずっとあんな調子で、教師からは早退を勧められる程だった。



(――――まあ、あたしには関係ないけど。むしろ良い気味だわ)



 昨日は妙な二人組にあれこれ探られたせいで、憂鬱な一日を過ごしてしまったのだ。

 あの、ピーチクパーチク小うるさい女が黙ってくれるなら、万々歳だ。少しは気が晴れる。

 

(――――あ、先生が来たかな?)

 

 廊下の方から、足音が聞こえてきた。

 ようやくこれで学校から解放される。思わずホッとしてしまう。しかし、遥のその安堵は、たちまち困惑に切り替わった。

 

 ドアが開いて姿を現したのは、担任の教師ではなく……一人の小柄な少女であったのだ。


「え……?」


 その小学生とも見紛う幼児体型。不気味なほどに白く透き通った髪には、見覚えがあった。

 昨日のお昼、あの大男と組んで余計なお節介を焼こうとした、あの―――


「ひいっ!?」


 菜月が突然悲鳴をあげた。

 何事かと皆の注目が集まるが、彼女はそれに応える事もせず、机の上に突っ伏してガタガタと震えるばかりだ。

 

 教室がざわめく。さざ波のように困惑が広がっていく。

 しかし、少女は混乱する生徒達の様子を気にも止めない。

 ずかずかと教壇の前へと足を進め、大きな蒼い瞳でぐるりと周囲を見渡した。


「初めまして。私は、吉備津可憐。このたび、白薔薇女学園の高等部に転校してきたの。中等部の教室に入ったのは初めてだけど、ふうん……あまり作りは変わらないのね」


 興味深そうにキョロキョロ目線を彷徨わせる少女。

 一体、ここに何をしにきたのか。はや、昨日の続きかと遥が身構えそうになったとき、彼女は予想外の言葉を口にした。


「このクラスで、イジメがあったんですって?」


 遥の体が固まる。いきなり、何を言い出すのか。

 そんな自分の困惑する様子を察知したか、可憐は小っちゃな足をヒョコヒョコ動かしながら、遥の目の前へとやってくる。


「あなたでしょ? 苛められてたっていう女の子は。そんなムスっとしたお顔をしてたら無理もないわ、情けないわ。笑っちゃうわね」

「な――――!?」

 

 いきなりの暴言に、背筋が総毛立つ。カッと怒りが込み上げてきた。

 遥が拳を震わせていると、周囲から嘲笑のささやき声が聞こえてくる。

 みな、この小さな闖入者の事を自分たちの側の存在だと認識したのだろう。あからさまな侮蔑を受けて、遥は怒りと憎しみでどうにかなってしまいそうになる。

 

(――――なんだ、こいつ。わざわざ、あたしを馬鹿にしにきたっていうの!?)


 昨日の意趣返しのつもりか。

 それならそれでいい。

 売られたケンカは、買ってやる。思い切り怒鳴りつけてやろうと遥が口を開こうとして――――


「あなた達、何を笑ってるの? 気持ち悪いわ」


 その言葉に、教室が凍り付く。可憐はあどけない笑顔を保ったまま、困惑する生徒達の顔を順繰りに見つめていく。

 

 「私のお父様ね。この学校に多大な出資をしているの。吉備津財団って聞いたことがある? その理事長をしていてね。公共事業の一環として、白薔薇学園の経営にも幾らか口を出しているのだけれど……」

 

 吉備津、財団。

 その名は、遥でも知っていた。多種多様な事業に手を伸ばし、特に医療部門においては、世界でもトップクラスの技術力を有している、と。確か、何年か前のニュースで、遺伝子治療の画期的な手法を編み出したとか再生医療がどうとか、テレビで連日連夜騒いでいたのを思い出す。

 

 その他にも、弾力性と強靭性を併せ持さった新しい合金を開発しただの、何万年も前の生物の化石からクローンを作り出すのに成功した、等々……その業績は枚挙に暇がない。

 

 しかしまさか、目の前に居る小っちゃな女の子が、その財団の理事長の娘だとは。

 流石に遥も驚きを隠せなかった。それはクラスの連中も同じようで、みな戸惑うように顔を見合わせている。

 

「だからね、困るのよ。イジメなんて低俗な行為をする人たちも、そんな事をされて暴力事件を起こすような野蛮な女の子も、ね。うちの財団の名前に傷が付いちゃうわ。そう思わない、浅川さん?」

「え!?」

 

 いきなり話を向けられて、生徒の一人が素っ頓狂な声をあげた。

 

「浅川瑞穂さん、でしょ? お父様は有名な自動車メーカーの役員さん。そこって、財団が開発した技術が貸与されているのよね。どうしましょ。イジメなんて行う女の子が身内に居るような人、信用できないわよね?」

「え、え……?」

「そして、そこに居るあなたは日下麻里さん。そっちはそのままズバリ、うちの財団の医療部門でご両親が働いているのよね。人様の命を左右する大事なお仕事なのに、それに携わる人が娘の教育を満足に出来ないようじゃ、まずいわ。 そうね、お父様に進言する必要があるわね」

「や、やめてっ! お父さんたちは、関係ないでしょう!?」


 血相を変えたそんな声にも耳を傾けず、可憐は次から次へと生徒達の家庭の事情を暴き出す。

 

 彼女が一つ名前を口にするたびに、少女たちの間から悲鳴が上がる。

 その様は、まるで地獄の裁判だ。裁判長たる可憐の胸先一つで、生徒達の未来が決まる。暗い未来へ叩き落される。

 やがて、殆ど全ての生徒達の名前が言い当てられ、審問は終わりを告げた。

 もはや、誰も口を開こうとしない。みな、青白い顔で戦々恐々としたまま、目の前の少女の裁きを待つのみだ。

 

 と、そこで。教室の扉が再び開く。ようやく、担任がやってきてくれたのか。生徒達はみな、希望に目を輝かせてそちらを向き――


  ――すぐさまその顔が絶望のそれへと染め上げられた。

 

「話は大体付いたか? 俺にも一口噛ませてくれや」


 ドアを潜って現れたのは、ケダモノのような大男。

 昨日、目の前の少女と一緒に遥を詰問した、番場長吉とかいう男子生徒だ。

 野太い指先で何か白い球体のような物を弄りまわしている。あれは、ボール……だろうか。

 

 長吉が、手に持ったボールをひょいっと床に投げる。

 球体は弾まず、そのまま重い音を立てて転がった。どうやら、相当重量があるようだ。

 見た目からして、ゴルフボールに近そうである。

 一体、何をするつもりなのか。クラスメイト達が怖々と見守る中で、大男はボールを拾いあげ――


「ひっ!?」


 ――そのまま、事もなげに握り潰した。

 

 バキバキという、世にも恐ろしい音が響き、球体が見る間に縮んでいく。

 長吉がそっと手のひらを開いたその時。ボールは見るも無残なボロクズへと成り果てていた。

 再び、生徒の誰かが悲鳴をあげた。

 

 そのまま、大男は少女の隣に並ぶ。

 その巨体と隣り合わせになると、小柄な体がより一層小さく見えた。

 そのギャップは美女と野獣どころの話ではない。まさしく邪悪な姫と魔王だ。

 

 教室はもはや、恐怖の坩堝と化した。誰一人逃げる事も出来ず、席を立つ事すら叶わない。

 

 張りつめた空気の中、長吉が歩き出す。

 一歩足を進めるごとに、地響きが唸るような錯覚さえ覚えた。

 遥が、いや教室中の生徒がその動向を見つめる中、彼は一人の女生徒の前で立ち止まった。


「え、あ、なに……? みんな、話したでしょ? 貴方が聞きたいっていうから、全部! もう、私はなにも知らないわよぅ……!」


 しどろもどろに喚くイジメの主犯――泉谷菜月を見下ろすと、長吉は机の上に掌を叩き付けた。

 少女の背筋がビクッと跳ね上がる。

 

「お前が、このクラスの委員長なんだろ? だったら、その責任を取ってもらおうか。イジメを受けた奴も、した奴も。全部ひっくるめて落とし前をつけてもらわにゃなんねえからな」


 野太い指が、菜月の顔に伸びる。先ほど、ゴルフボールをも容易く握り潰した凶器。それが、少女の頬に触れた。

 

「歯の一本で勘弁してやろうか。それなら、ケジメの証にしちゃ上等だ」


 そこで、長吉が遥の方を振り向いた。

 同意を求めるようなその視線が、無性に癇に障る。気が付いたら、遥は席を蹴って立ち上がっていた。


「なんの、つもりよ……なんなのよ、アンタ達……!」


 菜月が、目から大粒の涙を零し、助けを請うようにこちらを見る。

 日頃、あんなに高慢ちきな態度を崩さなかった少女が、今は見る影もない。それさえ何故か気に入らなかった。


「委員長……高寺弥生をダシにお前から話を聞こうとしたが、失敗したからな。だったらもう、こういう手を使うしかねえだろ?」

「ダシ……ですって? まさか、アンタ……!」


 長吉がせせら笑う。

 悪意に満ちたその顔は凶悪そのもので、足が退けそうになってしまう。それでも、遥はグッと堪えて踏みとどまった。


「あの女も、バカだよな。変なお節介ばかり焼いてよ。テメエみたいな問題児だって大切な部員だとか言ってんだぜ? 部室を毎日毎日掃除して、「遥ちゃんがいつ帰ってきてもいいように」なんてほざきやがる。現実が見えてねえんだろうな」

「……ッ!」


 弥生の笑顔が頭にちらつく。馬鹿みたいにお人よしで優しくて。

 何があっても、しょうがないなあって笑いながら、いつも誰かの手助けをしていた彼女。遥の、大切な、先輩。

 

 ――それを、それを……!

 

 「ふざ、けないで……! アンタが、アンタなんかが、先輩の事を馬鹿にするなっ」

 

 長吉の腕を掴む。手に伝わる鋼のような筋肉の感触。再び恐怖が胸の内に渦巻きうねるが、それを上回る怒りが全てをねじ伏せた。


「その手を離せ……クソ野郎……!」

「何だ、やるってのか? 俺は吉備津の関係者だぞ? 手を出せば今度は自主休校くらいじゃすまねえ。退学だってあり得るんだぜ。テメエを苛めた女なんぞの為に、人生を棒に振るのか?」


 震える菜月に目を向ける。

 哀れな程に怯えた彼女の姿。自分を罵り、散々苛めた憎らしい少女のその姿。遥の迷いは、一瞬だった。

 

 乾いた音が、響く。遥の手の平が、じん、と熱くひり付いた。

 殴った。殴ってしまった。目の前の大男の頬を、思い切り張ったのだ。だが、後悔は無い。どう復讐されようとも、こんな奴に屈しない。


 ーーーー先輩を……優しいあの人を馬鹿にした、こいつだけには、決して!

 

「ふん……上等だ。テメエのした事の報いは、別の奴に受けてもらおう。お前の大切な『先輩』とやらに、な」

「何ですって……!?」


 どういう意味だと詰め寄ろうとするより早く、長吉は可憐をその肩に乗せて教室から立ち去ってしまう。

 待て、逃げるな。説明しろ。そう叫びながら、追いすがろうとする遥の背に、誰かが抱き付いた。

 邪魔をするな、と怒鳴りつけようと振り向き――その言葉を飲み込んでしまう。

 

「あり、ありが、ありが、とう……ひっく、わた、こわ、こわくて……ひっく……」


 菜月が泣きじゃくりながらお礼を言ってくる。彼女が自分にこんな態度を取るなんて信じられず、遥は目を瞬かせた。


 「大丈夫、久遠寺さん!?」 「怪我はない!?」


 ワッと歓声を上げて、クラスメイト達が遥の周りに集まって来る。

 みな、泣きそうな笑顔で自分を称えてきた。これは、一体どういうことなのだろう?

 

「ごめ、ごめんね……く、久遠寺さん……! わたし、わたし……!」

 

 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったその顔を見て、遥の体から力が抜けた。


 あんなに憎らしかった女だと言うのに。そんな風に必死で謝らないで欲しい。それじゃあ、あんなに肩肘を張って過ごしていた自分が、何だかバカらしくなってしまうではないか。

 

「いいよ。あたしも、いつだか殴ってごめんね。そのお返し……にはならない、か。まあ、もうアイツは行っちゃったし。大丈夫だから、ほら」


 わあっと一層泣き出した菜月の頭を撫でて、落ち着かせようとする。

 見ると周囲の生徒達も涙ぐんでいた。よほどあの男たちが恐ろしかったのだろう。

 遥はこのクラスに入って初めて、皆と気持ちが繋がったように感じた。

 不思議な連帯感が胸を熱くする。


(なんなんだろう、これ。どうしたんだろう、私……)


 何を手のひら返して図々しい。そう思う気持ちもある。

 今までの仕打ちをそっくりそのまま許せるかと言われたら、答えはNO。それはごく当たり前の話である。


 けれど、恐怖に怯えてすすり泣くクラスメイト達の姿はとても小さく哀れで頼りなく……。

 それを見ているうちに心の中から怒りや不満が消えていく。

 

 遥が己の感情をどう処理していいかも持て余していると、クラスメイトの一人がおずおずと手を挙げた。


「あの、本当にもう大丈夫、なのかな? あの人、何か変な事を言ってなかった? 先輩に報いがどうこう、とか」


 そうだ。まだ、終わってはいないのだ。

 あの男は言った。確かに、こう言ったのだ。



『――――テメエのした事の報いは、別の奴に受けてもらおう。お前の大切な『先輩』とやらに、な』



「――――先輩っ!」

   

   

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  

 


「バンチョー。出番が早過ぎよ。もっと私が喋ってから、最後の最後に登場する手筈だったでしょう?」

「そうだったか?」

「そうよ。あの子を脅すのも、遥ちゃんに殴られるのも。私がするって打ち合わせたのに、忘れたの?」

「ああ、忘れていた。すまん」


 頬を膨らませる可憐の頭に手を載せる。

 あれじゃ、三流の悪役よ、小物よ。全然だめじゃない。そんな風にぶつくさ呟いているが、黙殺する。

 何と言われようと、あそこで長吉が出て行かないわけにはいかなかった。

 遥に、可憐を殴らせるわけにはいかなかったのだ。

 

 適当にお嬢様をなだめ、廊下を歩く。何処のクラスもホームルームが始まっているのか、廊下に人気は無い。

 生徒達が教室から出てくる前に高等部の校舎に戻らねば。ここで騒ぎになって足止めを食らいたくはなかった。

 

 階段を下りて、昇降口に向かう。すると、下駄箱の前で金流院麗華とその取り巻きAが待ち構えていた。仁王立ちの姿勢。

 特に麗華の瞳は吊り上がり、眉間にはこれでもかと皺が寄っている。

 そこにBの姿は無い。彼女には、他にやってもらう事があったからだ。

 

「……全く、呆れましたわ。他に方法は無かったんですの?」

「あったかもしれないわ。でも、私達が選んだのは、あれ。一番手っ取り早く解決できる方法よ」


 麗華がこちらを睨み付ける。

 その視線を受け流し、逆に長吉は礼を告げる。


「助かったぜ、金流院。上手いとこ担任を足止めしてくれたみたいだな。お蔭で全部上手くいったぜ。お前も見てたんだろう?」


 懐からスマホを取り出す。

 

 その画面には、クラスメイト達にもみくちゃにされている遥の姿が映っていた。

 取り巻きBの「お役目」の結果である。

 

「自分たちが悪役になって、イジメの加害者も被害者も一つに纏めてしまう。なんて強引極まりない力技ですの。わたくしは認めたくありませんわね。スマートじゃありませんし、野蛮すぎる!」

「共通の敵を作るってのは大事な事さ。特に、学校みたいな閉鎖的な場所ではな。どいつもこいつも本気で殺し合いたいほど憎み合ってる訳じゃあねえ。対象が変われば立場も変わる。昨日の敵は今日の友ってな」

「利いた風な口を叩くんですのね……」


 呆れたように、麗華がため息をつく。

 大分イラついているようだ。まあ、無理もないが。


「久遠寺遥は、一本気な奴だ。委員長の話からも、アイツが理不尽な事を嫌う性格だってのは分かったからな。ああすれば、嫌いな相手でも手を差し伸べずにはいられないだろうと踏んだのさ。失敗する可能性が無いでもなかったが……結果的には大正解だったな」


 結局のところ、彼女もお人よしなのだ。そう、先輩である高寺弥生に負けず劣らず。

 いや、もしかしたら傍で触れ合ううちにその善性を受け継いだのかもしれない。

 彼女達は仲の良い、先輩後輩だったのだから。

 

「これで、後は最後の仕上げをしておしまいね。エンディングフェイズに突入よ。そこで、私達の役目は終わりだわ。色々ありがとうね、金流院さん、取り巻きさん」

「……最後の、仕上げ? 一体、何をするつもりなんですの?」


 その問いには答えず、金流院たちの横を通り過ぎる。

 後ろから、麗華の怒鳴り声が聞こえた。


「ちょっと、お答えなさいな! あなた達、まさか……!」

「……この事は委員長には黙っていてくれよ。アイツには嫌な思いをさせちまうかもしれないが、まあ……これが多分最後だろうしな」


 そちらに振り向くことなく、長吉たちは背中で返事をする。


「結果がどうあれ、もう私達はあの部室には行けないわ。残念ね、もっと貴女達と一緒に遊びたかったのだけれど。TRPGもAちゃんも、金流院さん達と遊ぶのは楽しかったわ」


 可憐が立ち止まる。長吉も足を止めて、その横に並んだ。

 

「それでも、良かったら。あなた達はまた、あの部室に行ってあげて。委員長さんと遥ちゃんと……一緒に遊んであげて欲しいの。きっと、あの子と金流院さんは気が合うと思うし、ね」

「何て勝手な……! 貴女は、貴女達は最低ですわ!」

「そうね、その通り。あなたの言う事は正しいし、コレは私の我儘よ。でも、あなたと遊んで楽しかったのは、ほんと。本当よ」


 ばいばい、と可憐が背中越しに手を振る。

 麗華は無言。それ以上、何も話し掛けて来ない。

 長吉たちは、そのまま振り向きもせずに二人と別れ、歩き出す。


「私、ね」


 ぽつり、と可憐が呟く。視線は前を向いたまま。長吉の方を見ようともしない。

 

「人に嫌われるなんて、平気よ。なんてことないわ」

「……そうか」

「ええ」


 強がるでもなく、淡々と。事実を告げるように粛々と。


「本当よ。バンチョーさえいれば私は他に何も要らないわ」


 彼女はそう、呟くのだった。


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