復讐の為に
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「【恨み神】……?」
智彦はつい、反応してしまった。
彼自身、自称【神】と殺し合いをし、そのイメージが最悪だったからだ。
二人が何らかの形で騙されたのではと、心配となり尋ねてしまう。
「寿々がこんな目にあっても、僕達は仲睦まじく暮らしていた……んだけどね、やはり、憎しみが募って行ったのさ」
夜な夜な、寿々は東矢に隠れて泣いていたという。
東矢はそれに気付き、なんとか北牙を罪に問いたかった。
だが、結果は散々。
終いには、周りの住人からも疎まれ、孤立してしまったらしい。
「いっそ、二人で心中しようと、したんだ。寿々も、納得してたし。社内で首を吊ろうとした……そこに、彼女が居たんだ」
【恨み神】。
そう自称する人物は、心中寸前の二人の前に、音も無く現れたとの事。
黒いセーラー服に身を包んだ、少女。
白い仮面を付けた、得体の知れない存在。
「彼女は、僕達の命と引き換えに、北牙に復讐する力をくれる、と言ったんだ」
「それで、話に飛びついたんですか?」
タカモリの問いに、東矢と寿々が、頷く。
後悔の無い、清々しい笑顔。
タカモリは、項垂れた。
「馬鹿な事を……!どうして、相談してくれなかったんですか!」
「さっきも言ったように、よっさんに被害が行くと考えたからさ」
「確かにそうかもしれませんが!でも、一言位欲しかったです。……そんなに、信用ありませんでしたか?」
「信用していたから、だよ。葬儀をしてくれて、本当に感謝している。……よっさんには、負を抱え込んで欲しくなかったんだ」
大人達の問答中、智彦の意識は【恨み神】へと向いていた。
東矢と寿々の命を甘言で奪った……訳では無い。
ちゃんと、力を与えているのだ。
富田村で滅ぼした【神】とは違い、誠実な存在だなと、思ってしまう。
だが、その力と言うが……。
「横からすみません、えと、このゲームみたいな世界が、力、なんですか?」
思う事は一緒だったのだろう。
羅観香が素朴な疑問として、東矢に尋ねた。
「復讐が目的で力と言うのなら、こう……呪いとか、タタリとか、そう言うのをイメージするんですが」
智彦も、羅観香の問いに追従する。
コレだけの世界を作り出せるならば、対象を呪う事は容易いはずだ。
それに感染性を持たせれば、家族や知人にまで影響が及び、呪われた存在として社会から孤立する。
苦しみ、日々朽ちていく体に絶望し、死に怯え、感染させた人達から恨まれながら、命が費える。
しかもその呪いに持続性を付随させれば、その呪いは穢れた血とされ、呪いの対象は未来永劫、その名を穢されるだろう。
自分であればそうやって相手を苦しめると、智彦は疑問をぶつけた。
タカモリと羅観香……と寿々が、なにやら引きつった顔となるが、東矢は笑いながら、応える。
「ははははっ、怖い怖い。いや、それも考えたんだよ。でもね、力が足りなかったんだ」
東矢の話によると、【恨み神】に命を捧げ、悪霊となるも、思ったより力を得る事が出来なかったそうだ。
勿論、北牙一人殺すには、十分すぎる程ではあった。
だが、悪霊となって憎しみが肥大化した東矢の復讐対象は、一人では収まらない。
兄である北牙だけではなく、裏切った元妻の砂緒、当時の役員達、そしてその家族達も、復讐対象となったのだ。
その為に、力を増加させる必要性が出て来た。
そこで、【恨み神】は、話を持ち掛ける。
迷宮を作り、人々を誘い込み、その生命力を奪って、力にしてはどうか、と。
「まぁそういうわけでね。こんな迷宮を作り、人を怖がらせ、恐怖を食み、寿々が捕まえた人の生命力を少しばかり貰って、拡大させていったのさ」
(命を奪う、と提案しない辺り、良い神なのかもしれないな)
感心する点が少しずれているが、智彦は自覚がないまま話を聞く。
人々の恐怖心は、特定の怪異にとってはご馳走で、力の素となる。
そして彼岸花の社内で能面の巫女に捕まった人の生命力も、同様だ。
それを繰り返し、ここは次第に拡大していった……との事だ。
「良かった……。来根来さんが、迷い込んだ人の命を奪う様な事をしないで」
「無関係の人の命までは奪えないから、ね。そういう訳で迷い込んだ人にゲーム感覚で楽しんで貰い、力を蓄えたら、あの連中をここに呼び、アイツらの絶望に染まる顔を見たかったんだ」
ココに人が紛れ込む条件は、「彼岸花の咲き誇る道を歩いて」おり、「人々から恨みを買っている」のが条件らしい。
前者は、来根来邸の玄関がそうなっており、復讐対象者を呼びやすくするために。
後者は、より復讐対象である北牙を迷い込ませるため、との事だ。
「最終的にはあいつ等をこの迷宮内で恐怖に陥れ、最後に始末するつもりだった……んだけどね」
東矢の困ったような表情に連動し、寿々も同じような苦笑を浮かべた。
「その、二人して楽しくなってしまって……」
東矢の言葉に、一同が脱力した。
まさに、目的と手段が入れ替わってしまった例であろう。
「しかし、その条件だと、その、そちらの復讐対象者も迷い込んでこなかったんでしょうか?」
「それが無かったんだよ。恐らくだけど、こっち関係に明るい協力者がいたんじゃないかな」
羅観香の質問に答える東矢を見て、智彦は、鏡花と言った《裏》の世界のメンバーを思い浮かべた。
東矢の復讐対象は、大企業のメンバーだ。
彼女達であれば、彼らを守る業務くらいはしているだろうと考える。
と、そこで東矢の言う条件に、首を傾げてしまった。
「何故その条件で、タカモリさんと羅観香さんが迷い込んだんでしょう」
第一条件は、解る。
先程の神社は、彼岸花がカーペットのように狂い咲き、その中を二人が歩いていたからだ。
だが、第二条件が納得できない。
そんな智彦の考えに、羅観香とタカモリは首を横へと振った。
「八俣君、僕達程恨みを買っている職業はあまりないんじゃないかなぁ」
「うん、この業界は多くの妬み、嫉み、恨みが、その、成功者には集中しちゃう、から」
二人の表情が、曇る。
智彦は何となく察し、また、この話題は話したくないといった空気も読み取り、口を噤んだ。
「……まぁ、久々によっさんに出会えて、嬉しい誤算ではあったさ。とにかく、長年力を蓄えたおかげで、この社も大きく育った」
最初こそ5層程だった、彼岸花の社。
今は40層に増築され、各層には個性豊かなギミックが迷い人を待っているという。
今までの最高踏破階層は、五層。
能面の巫女だけでなく、東矢が育てた怪異も徘徊しているらしい。
「先日、あのクズ達の血縁者が紛れ込んで来てね。君達の話からするに、僕達の様な者から守る存在が離れたからだろう。彼女の血を使えば、あの一族をココへと招待出来る」
東矢の眼に仄暗さが浮かんだ瞬間、左側の襖がカタンと動いた。
奥には、布団に寝かされた、茶色い髪の少女。
呼吸による胸部の上下で、死んでいない事は解る。
(鏡花さんの言ってた、来根来南葉、か)
智彦は鏡花からの頼まれ事を思い出すが、助ける気が起きない。
東矢と寿々の命を賭した復讐に比べ、50万など値打ちが無いと思ったからだ。
「……来根来さん、あんた。あんな若い子を殺すつもりじゃ」
「殺しはしないさ、今はね。だが、言動があのクズそっくりだったよ。傲慢で他者を見下し、自身が世界の中心にいるような……すぐに殺したくはなったのは否めないな」
東矢の復讐を、止めるべきか。
タカモリは、未だに結論を出せずにいた。
何せ、彼の絶望を知っているからだ。
容易に復讐を否定する事なんてできないし、むしろ、それで東矢の心が救われるならと思う自分がいる。
羅観香も、そうだ。
真相を知った時はすでに犯人は死んでいたが、嶺衣奈を穢し、殺した、元プロデューサーとマネージャーには恨みが未だに残っている。
もし前もって真相を掴んでいたら、間違いなく復讐していた。
故に、何も言えずに、流れを静観している。
「すまないね、よっさん。彼女を手に入れたから僕達は行動を起こす。明日には、来根来一族は行方不明となるだろうね」
「……復讐を成し遂げたら、来根来さんと寿々さんは、どうなるんですか?」
「解らない。成仏するか、それとも、ここで生き続け……ん?」
ふと、寿々が立ち上がった。
タカモリと話していた東矢も何かを感じ取り、室内のブラウン管のテレビを付ける。
ブゥン、と。
耳に響く音を放ち、画面が映し出された。
「どうやらお客さんのようだね」
一同が、画面に齧りつく。
一昔前の巨大なテレビではあるが、画質は極めて鮮明で、声もクリアに拾い出す。
『入り口が開いてたのは都合がいい、お前ら、行くぞ』
『依頼主の娘を探すわよ』
『あんなはした金じゃやる気も起きねぇよ、リーダーは何考えてるんだ』
『ばっか、娘を人質に使って甘い汁を吸うんだよ、あいつ等いい土地持ってるからな』
そこには、カタギと言えない10人程の集団が、この社の入り口からずかずかと入り込んでいる様子が映し出されていた。
(あー……、壊した入り口、そのままだったなぁ)
気付くと。
皆が、智彦を何となく非難の混じった目で、見ていた。




