戦艦島 ~エピローグ~
自然に囲まれた、とある青少年交流の家。
その施設内にある講堂から、大きな怒鳴り声が聞こえてくる。
「ふざっけんなよ! お前らのせいであいつ等が死んだんじゃねぇのかよ!」
備え付けられたテレビの前で……硯が出演する番組を見ながら、私服姿の田喜が吠える。
その周りでは石野と真林、そして戦艦島で生き残った隊員達が、同じように憤っていた。
「あぁクソッ! 局にクレーム入れても定型でしか返しやがらねぇ!」
「SNSでも自衛隊叩きが激しいでござるな。これ拙者一人じゃ無理でござる」
自身達が所属している組織が、貶されている。
それ以上にあの島で死んだ仲間が、穢されている。
講堂に集まった一同はこの流れに抗おうとするが、無力さを痛感するだけであった。
「こんな胸糞悪ぃ番組を見せる為に、俺達を呼んだのか? あぁん!?」
田喜は、主がいない講堂を見渡す。
冷房の利きは悪く、立っているだけで汗ばむほどだ。
「……何なんだよ、一体」
田喜は、いや、田喜達は鼻息が荒いまま、椅子へと座った。
作りが古く、体重を少しかけただけでギキィと耳障りな音を立てる。
外からは、連鎖する蝉の声。
目に映る広大な蒼が、田喜達にあの日を思い出させた。
戦艦島から生還した後、同じ基地の仲間達は喜び……悲しんだ。
多くの仲間が、戻ってこなかったからだ。
田喜は死亡した隊員の家族の下へ直接伺い、頭を下げる予定であった。
が、報告や事情聴取で、予定は忙殺されてしまう。
その間、だった。
硯達が私欲の為に映像と、武勇伝を売り込んだのは。
島神の凶行は硯でなく、自衛隊が原因。
仲間の無意味な死は、因果応報。
責任を放棄し逃げた硯が、英雄となり。
島に残った自分達が、悪となった。
世間は衝撃的な映像をばら蒔いた硯を信じ、自衛隊は一気に非難される側となる。
鳴りやまぬ、悪意の電話。
投げ込まれる、石。
向けられる、侮蔑。
基地の仲間は無実だと信じ、硯達の嘘を非難した。
だがそれも悪い方へと働き、肩身が狭い思いを抱くきっかけとなる。
馬鹿馬鹿しい。
もういっそ辞めちまうか。
そう諦観を持った翌日に……田喜は、この僻地へと招集されたのだ。
「俺達への嫌がらせじゃないよな? これ」
「あの命令書は正式なものでしたよ。相手の名前に覚えはありませんでしたが」
石野の言葉を聞き、田喜は舌打ちを放った。
今まで沈黙を守っていた上の人間が、とうとう直接話を聞きに来たのかと目を細める。
(上の人間があんなオカルト信じるわけないよな。何か適当な理由を付けられ、世間向けに罰せられるってとこか)
本当に理不尽だと、田喜は顔を伏せた。
なんでこうも自身の仕事は……誰かのための仕事が、嫌われるのか。
どうしてこうも、報われないのか。
(だがまぁ、硯には多少溜飲は下がった。どんな悪影響を与えてくれるのか楽しみだ)
田喜が改めて目を向けた、テレビの中。
唾を飛ばす硯の肩には、あの日見た御神体らしきものが……。
「てか、皆さんちょっと聞きたいんでござるが」
緊張感が漂い出した空気の中、真林が何とも言えない表情を浮かべていた。
その指は、テレビの中……誇大妄想を宣う硯へと、向いている。
「こいつの肩、何かいるでござるよね?」
少しの間。
やがてちらほらと、真林の問いかけに同意する者達が出て来た。
「最初は悪趣味な人形かと」
「お、おう。スポンサーの意向的なやつと思ってた」
「やっぱ違うよな? 黒い霧でてるし」
目を見開く、田喜。
そのまま横にいる石野へと、同じように問いかける。
「石野、お前にも見えるか」
「はい。タールっぽいので汚れた人形が、肩に乗ってます……よね?」
「そう、だな」
こいつらにも見えている……自身と同じく視えるようになっている。
戦艦島の……島神の影響かは、判断ができない。
だが、これは厄介だと。
今後は視えることでの苦しむ事が増えるだろう、と。
田喜は大きく息を吐き、腕を組んだ。
「田喜さん、あれは一体」
「ありゃあ島神っスね」
「誰だっ!」
壇上から聞こえてきた声。
一同が目を向けると、男が一人、講演台に手を付いていた。
「いやぁ遅れて申し訳ないっス。誰かが俺の自転車のスポークにボール挟んでて、それ取るのに手間取ったんスよ」
軽薄な笑いを浮かべる、胡散臭い男。
いつの間に。
どうやって。
疑問は尽きないが、その男が身につけた階級章に間違いはなく、田喜達はすぐさま立ち上がり姿勢を正す。
「あぁいや! 楽にして欲しいっス。事前に告知した通り、今日は非公式な場っスから」
壇上の男が心底嫌そうな表情を浮かべた為、一同はあえて言う通りに、椅子へと座る。
講堂内に軋みが響く中、男は満足そうに頷き、手元のリモコンを操作した。
大きな窓に暗幕が下がり始め、講堂内を黒く染めていく。
「さてまずは自己紹介っスね。俺の名前は道明堂と言うんスが……まぁ階級はコレだけど気楽に接して欲しいっス」
道明堂と名乗った男が階級章を指差し笑うが、田喜達は反応できない。
だがそれよりも、聞きたい事がある、と。
田喜は道明堂の言葉が終わるや否や、疑問をぶつけた。
「質問よろしいでしょうか?」
「あー……だから硬くなる必要は無いって。コレだから軍人さんは……、んで、なんスか?」
道明堂が心底面倒そうに返すが、田喜はそのまま言葉を続ける。
「あの男に付いている人形が、島神とは?」
田喜を除く一同も、動作こそしなかったが心の中で頷いた。
島神。
仲間達を虐殺した、忌むべき神。
それが何故、どう言う経緯で硯の肩にくっついているのか。
「ん、その前にまずは今回の件を説明させて貰うっスよ。あんた達には知る権利がある」
すっかり暗くなった講堂内。
道明堂の背後に降りていた巨大なスクリーンに、ある画像が映し出された。
「なんでござるか、これ……」
真林のかすれた声。
そして、静寂。
一言で言えば、海水に沈んだ、黄色いスライム。
だがソレは、透き通った綺麗なイメージとはかけ離れた姿だ。
どろりと濁った、まるで掃除前のオイルトラップの中身。
そして、その体内に取り込まれた……ぶよぶよと膨らんだ性別不明の、数多の人間。
「戦艦島に大きな岩があったのを覚えてるっスか? その岩をどかした下に海と繋がった空洞があって、コイツがいたんスよ」
田喜は記憶を手繰り寄せる.
大きな岩……何かが奉られていた形跡のある、巌。
【何と言えばいいか。いろんな人間の集合体みたいな? ……いや、人間以外もいたか】
戦艦島で出会った、部下と同じく重度のオタクと、その恋人。
あと、後から泳いできたというふざけた……彼らの友人の言葉を。
【島民の信仰心で島神になって、混ざった感じですかね? うまく言えませんが】
あぁ、なるほど、と。
田喜は再び、映し出された画像を注視し……見つけた。
黄色く濁った粘体の……奥。
裸の女性らしき死体に寄り添う、ボロボロとなった人形を。
硯の肩に張り付いているのと同じ、御神体を。
「島周りの死体が巌の下に入り込んで、島民の信仰を受け力を持った、ってことか」
ヒュー、と。
道明堂は口笛を放ち、感心しながら手を叩く。
「御明察っス。海流の流れのせいで、岩の下に入り込んでたみたいなんスよね。」
スクリーン上の画像が、切り替わる。
田喜があの日見た巌の前に海の幸が奉納されている……白黒の画像だ。
「ほら、日本人って“八百万の神”って感じに、いろんなのを奉るじゃないっスか。 島民もこの岩を神として崇め奉ったのが始まりみたいっスね」
実体はイソギンチャクっぽいスけどと、道明堂は笑いを堪え話を続けた。
最初は恐らく、島での生活という過酷な環境への不平不満を和らげるための、逃げ道として。
しかしながら信仰は、確実に土着していった、と。
「何かが信仰によって力を得る。こんな事例は日本では珍しくないんスよ。ただまぁ、悲劇を生み出す時もあるッスが」
道明堂曰く、それはとある山間部の村での出来事。
村人たちが毎日お祈りを捧げる巨木があった。
だがある日、とある山賊が追っ手から逃げる為に大木の洞に隠れ……そのまま息絶えてしまう。
村からの信仰は大木……ではなく、その山賊の死体にまで及んだ。
結果……信仰を邪な力へと変えて取り込み、山賊は鬼として顕現し……暴虐の限りを尽くした、と。
「逆に、病気をばら蒔く神が、信仰によって病気を抑える健康の神となった例もあるんスよ」
まぁどうでもいいスねと、唇を濡らす道明堂。
少しの間をおいて、再びスクリーンの画面が切り替わった。
『今回の件で、女港島に硯さん達の銅像を作るクラウドファンディングが始まったとか?』
『そうなんですか? いや、恥ずかしいなぁ』
次は、先程まで田喜達が見ていた……仇敵が出演している生放送のワイドショーだ。
驚く事に、先程までの話を未だに続けている。
『こっちは必至でカメラを回してただけなんですけど』
『わ、私もです。硯さんに全部、任せてしまってたし』
しかも硯の取り巻きの二人も、顔を見せていた。
田喜達の顔に憎悪が滲むが、道明堂は気にせず、話を続ける。
「んで今回のオチなんスけどね。戦艦島にいた女性の母親、兄、あと女性が大事にしてた人形。これらが島神に混ざってたんスよ」
だから、一人の女性に執着した。
だけど、その事実は、田喜達にはどうでもいい事であった。
理由がどうであれ、仲間達を殺した神であることに、間違いはないのだから。
「道明堂、さん」
「ほい、なんスか」
「島神を、なんらかで罰することはできないのでしょうか」
石野が拳を震わせながら、道明堂に尋ねた。
田喜はある程度諦めてはいるが、島神に殺された者達の無念を晴らしたい……仇を討ちたい、と。
神なる存在に実体があると知ってしまったことで、そのように願ってしまったのだ。
「無理っスね。あんなのでも神っスから、あんた達人間の社会の枠内に押さえつけるなんてできねーっス」
「なら、島神を殺」
「力失ってて死んでるも同然なんスよ、島神」
「だ、だったら! あの硯達に何かしら罰を! そうじゃないと、死んでいった奴らが……!」
石野の慟哭が、一同の悲しみを激しく揺らす。
が、道明堂は相も変わらずにやけたまま、肩をすくめた。
「神様が人を殺した、それを唆した奴を捕まえろ……、できると思ってるっスか」
馬鹿にしているわけではない。
ただ事実を言ったまで。
されど道明堂の顔付きが気に喰わない田喜が、怒りの言葉を上げようとしたその時。
『んぎぎいおいいぃぉおぉぉおおおぉ⁉』
『ほぉぉぉぉぉぉぉんぃぃいいいいいいいいっ!』
『ぴょ! ぎゃぱぱぱぱぱぱぽほぉおぉぉほ⁉』
スクリーン上の硯達三人が、凄まじい奇声を上げた。
田喜達が弾かれたように映像を見ると、硯と取り巻き二人が、床の上を転がっている。
「確かに、怪異とかそういう類を使った奴が、司法で罰せられることはまずないっスね」
だけど、と。
道明堂の涼しげな声が、一同の耳を撫でる。
「自分が怪異たちに罰せられる可能性を、なーんで想像できないんスかねぇ、そいつら」
『あぴゃ! んおぉ! ふぷぷぷぽおぉぉお!』
『硯さん! お、おい! 救急車呼べ! うわ汚ねっ!』
『だじゅげ! んぽっ! うぞづいでごべんんんぽぅっ!』
奇声を上げ続ける、硯達。
目はぐるぐると周り、涙、鼻水、涎、終いには汚物すら撒き散らす。
『暴れんなよ! 暴れいでぇ! こいつ噛みやがった!』
『CMいれろ! これヤバイぞ!』
番組が急遽CMに切り替わった瞬間、スクリーンの映像も消える。
普通の人が見れば、突如硯達の気が触れて暴れ出したように見えるだろう。
だが、田喜達には視えていた。
肩に乗っかっていた御神体から細い触手が伸び、硯達の口、鼻、耳穴から体内へ侵入していく様子を。
「……さて、あのヒーロー気取りが死んだところで、話を続けさ」
「いやいや待て待て道明堂さん殿よ、アレは何だ何ですか、つか死んだのか?」
「いずれ死ぬでしょうよ。まぁ、契約不履行への罰なんじゃないスか? 島神の願いを叶えたのがあんた達って解ったんでしょう」
そこで、道明堂の話が止まった。
田喜、石野、真林、一同は納得……はできずに、なんとも曖昧な表情を浮かべてる。
外からは思い出したかのように蝉の声が響き、遥か遠くからは雷鳴が轟いた。
(硯達は罰せられた、が。死んだ奴らは、結局は報われない、か)
田喜が抱いた無念は、この場にいる仲間の共通の想いだ。
硯が死んだとはいえ、世論の「自衛隊が島神を怒らせ、因果応報で殺された」は変わらないだろう。
名誉を穢された彼らに、されど仇を取れたことに、田喜達はモヤモヤする気持ちを何とか押し込めた。
「心中お察しするっス。人ならざる存在によって理不尽さを覚えた……そんなあんた達に、相談があるっス」
暗幕の隙間から差していた夏の光は、いつの間にか無くなり。
代わりに、雨が天井と窓を叩く音が聞こえ始める。
その夏の静けさの中、スクリーンに新しい画像が、映った。
「これは最近起きた、怪異とか化物とか、そういうのが起こした事件っス」
自我を持つ人形が、若い女性を食い殺した事件。
学校に巣食った悪魔が、人の欲望につけ込み生徒達を殺し合わせた事件。
遺体を撮影すると、自身も死んでしまう奇怪な事件。
スクリーンに表示された事件は、その輪郭を何となく知っているようなモノが並べられていた。
「この度、このような状況に対応できる攻性を持つ組織を、自衛隊内に設立するっス」
ざわめき。
まるで漫画のような……アニメのような……。
日常からかけ離れた出来事に田喜は……。
(いや、今更か)
戦艦島での出来事。
非日常なんて既に経験している。
口内で犬歯を舐め、田喜は鋭い視線を道明堂へと向けた。
「それは俺達が、幽霊などを見ることができるからですか?」
「っス。戦艦島に長い事いたからと思うんスけど、それが理由っス」
その後、質疑応答が繰り返される。
強制ではなく希望者で、その為のこの場である事。
この様な組織は実在しており、警察にも設立されている事。
自衛隊の枠内ではあるが、独立した組織の所属になる事。
給料は勿論良くなるが、殉職する確率が上がる事。
他の組織と定期的に……されど密に、情報共有が行われる事。
そして、最後に。
「同じような組織は今まで無かったんでござるか?」
「自分も同じことを考えてました。何故今頃になって新設なんですか?」
真林と石野からの質問に、道明堂は「あー……」と珍しく歯切れの悪さを返す。
その反応は聞かれたら困る、と言うよりは、痛い所を突かれたなニュアンスだ。
「上層部の人間がモーレツに反対してたんスよね。それがほら、俗にいう上級国民傷害事件があったじゃないっスか?」
上級国民傷害事件。
俗称通り、全国の上級国民や有名人が治療法不明の毒に侵され、各々大きな障害を負った事件だと。
そして犯人の目星すらついていない上に、報道規制がされた謎の多い事件だ、と。
田喜達は記憶している。
「んで、設立に反対してた連中が軒並みダメになって……つまり、そういう事っス」
道明堂の、心から湧き出た笑顔。
あー……、と。
次は田喜達が、納得したように返した。
「……田喜さんはどうします?」
「拙者はもう決めたでござるが」
「そう、だな」
脳裏に浮かぶのは、戦艦島で無残に殺された仲間達。
彼らと同じように、人ならざるモノに未来を奪われる人がいるかも知れない。
もし、力を。
戦う力を、持っていれば……。
「道明堂さん、若輩者ですが……宜しくお願いします」
「歓迎するっスよ。ようこそ、こちら側へ」
田喜はその場で、頭を下げた。
頷く道明堂に、矢継ぎ早に言葉が投げられる。
「拙者もよろしくお願いしますでござる!」!」
「あいつ等みたいな悲劇を、起こしたくないんです!」
気付けば、講堂に集められた全員が、同意していた。
道明堂は手ごたえを感じ、にやつき頷く。
「うんうん、良かった良かった。それじゃあこのまま、この施設で研修開始っス」
不平不満は出ない。
皆の目が、やる気で満ち溢れている。
道明堂がリモコンを操作し、暗幕を上げた。
雨はいつの間にか止み、雲の隙間から蒼が覗いている。
「まずはチーム分けっスね。田喜さんと石野さんと真林さんは伝奇系に強くして、チーム名は伝奇グルー……」
瞬間。
講堂内の……全員からのスマフォから、音が溢れた。
音の主は、ニュースアプリで。
先程の後、硯達が死亡した事を伝えていた。
「……死んだっスね。まぁ最後に女港島を有名にしたのだけは評価するかな」
どういう意味かと目で訴える一同に、道明堂はつまらなそうに零し始めた。
何故か蝉の声は止み、冷房が効いてないはずなのに一同は肌寒さを感じだす。
「田喜さん、この世界には、他人の命を使って自分の欲望を満たそうとする連中が多いんスよ」
例えば、戦争。
戦争を起こせば、多くの魂、死体、そして人間の負の感情が生まれる。
「それは、戦争は目的じゃなく手段、ということですか」
「っスね。でも戦争は金や資源を考えると割に合わなくなった。……そう言う連中が、この国に目を向けたんスよ」
軽薄さが消えた道明堂の視線が、田喜を双眸を捉えた。
得体の知れない……だが今は脅威を感じさせない、奇怪な目。
「で、問題。なんでこの国と思います?」
それは、と言い淀もうとした田喜の顔が、強烈に歪んだ。
倒壊した建物の下。
瓦礫が打ち揚げられた海岸。
殴り書きが残された、悪臭が漂う室内。
そこにあったのは……。
「自然災害……地震かっ!」
「近年大きなのが来ると言われてるっスからね。奴らはそれを待ってるんスよ」
地震が来れば、大勢の人間が死ぬ。
地震だけじゃない、津波でもだ。
「あの島はそういった連中が基地を作ろうとしてたんすよ。まぁ有名になったから迂闊に手を出せなくなったと思うっス」
女港島を、島神のような存在を使い津波に耐えられるようにし。
地震後に船で乗り付ける為に。
日本の南側から流れてくる死体を集める為に。
それらの野望は消えたが、日本各地でそのような施設が増えていると、道明堂。
「そいつら、被災地での行動を制限する自衛隊を敵視してるんスよねぇ。今回の騒動で多少は炙り出せるかなぁ」
羅列される言葉に、田喜達は言葉を失う。
されどその顔は、憤怒に染まっている。
「いったい何を目的に、そんな……事をっ!」
「不老不死」
道明堂の抑揚のない言葉が、講堂内へ鋭利に響く。
「人間の命や死体集めて悪魔呼んで……そういう奴らが願うのは昔から決まってるんスよね」
軽薄さを取り戻した道明堂を凝視する、一同。
再び……遠くから雷鳴が聞こえた。