学校に伝わる怖い話 ~エピローグ~
今回は続けて2部投稿していますのでご注意下さい
感想は時間あき次第返させて頂きます
いつも有難う御座います
「ねぇねぇ、翔志館学院で何が起こったか知ってる?」
外からは一足早い蝉の音が聞こえて来た、初夏。
冷房が効いたファストフード店内に、大きな声が響いた。
「声が大きいわよ。何がって……学院長とその一派による殺人事件でしょ?」
一時期世間を騒然とさせ、未だに多くの議論がなされている、翔志館学院大量殺人事件。
当時の学院長である鐙原とその協力者達が多くの生徒を殺害し、隠蔽してた大事件だ。
被害者の数は、少なくとも50人。
動機は、風紀を乱したから、気にくわなかったから等の身勝手な理由。
卒業生の中にも容疑者がいるとされ、そちらの捜査は今も続いている。
そして、同時期に起こった無差別傷害事件。
所謂上級国民や政治家、アイドルやスポーツ選手と言った層を狙った事件だ。
欠損や大火傷等と大きめの傷害ではあるが、それを一瞬の内に付けられた不可解さ。
併せて、弱いながらも毒物を摂取させられ、今もなお定期的に傷害を受けているとの事。
こちらは未だに犯人の目星も付いていないが、翔志館学院大量殺人事件と関連しているのではと思われている。
という感じではあるが、裁判はまだこれから。
しかしながら、多くの違和感を与える事件として世に扱われている。
眼鏡娘の説明にうんうんと頷く、ボーイッシュ娘。
その瞳がきらりと光った。
「って思うじゃん?実はあれ、デスゲームしてたんだって」
「……貴女、疲れてるのよ。バイト減らしなさい」
「配信用の高いパソコン買う為だもん、頑張るよ!ってか、話続けるね」
噂の発生源は、やはりというかインターネットの掲示板サイト。
とりあえず聞かせて見なさいと、眼鏡娘は話を促した。
「連続傷害事件の被害者が黒幕でね、あの学校を使ってデスゲームしてたんだって。あの学院長とかは指示されてデスゲームのハンターをしてたらしいよ」
「また思い切ったネタが来たわね。普通バレるでしょ」
「チッチッチッ!」
「今、口で言った!?」
「言った!政治家達が力使えば何だって隠し通せるでしょ!」
「謎の権力万能説来ちゃったなぁ」
そう言う眼鏡娘だが、似たような噂があるのは知っていた。
こっちは、傷害事件の被害者があの学校で生徒達を殺し合わせて賭け事をしていた、というモノだが。
「……ま、何とかに煙は立たない、って言うし。そう言うのがあった可能性もあるのか」
「でしょ?で、ソレで死んじゃった被害者達が、連続傷害事件の犯人。呪いって奴だね」
それはまた急にオカルトになったなぁ、と。
眼鏡娘は笑いを堪えつつ、ポテトを3本口へと放り込んだ。
「とまぁ、今回の事件、なーんか一杯隠されてるような気がするのよ。皆もそう感じてるから、こんな噂が立つんじゃないかな」
「確かにね、マスコミの報道もなーんか違和感あったかな。こういう様に報道しろと指示されてるような……ねぇ」
「でしょー?だけどまぁ、どうであれ事件を解明した人は凄いよね、っと」
遠くから、雷鳴が聞こえた。
通り雨が来そうだなと、眼鏡娘は未だに青い空を窓越しに仰ぎ見る。
「うわっ」
「ん、どうしたの?」
スマホを弄ってたボーイッシュの、短い悲鳴。
眼鏡娘は食べかけのハンバーガーをトレイに戻し、尋ねた。
「SNS見てたら、死体の写った画像が、ね。うぅぅ、バーガー食べてるのに」
同様にSNSを開いていた眼鏡娘も、否応なしにそれを目にしてしまう。
どうやら近くで交通事故が起こり、それを撮影した画像の様だ。
(事故現場ナウ、って!馬鹿じゃない!?)
救助活動とか現場整理せずに、写真を取ってはしゃいでいる。
素人がすると足手まといになるという話もあるだろうが、それでも面白半分にしてよい事じゃない。
しかも死体まで写して……承認欲求の化け物だ。
眼鏡娘は内心イラつき、ポテトを口内へと7本投入した。
「なんでこんな事できるのかな、解んないや」
「……貴女が正常な思考の持ち主で安心したわよ」
「失礼な!その辺の善悪の区別位あるよ。……はぁ、テンション下がっちゃったな」
「だねぇ。この後買い物して解散しようか。ったく、こういう奴痛い目見ればいいのに」
憤る、女性二人。
その奥では、男性三人組がいつもの席で談笑をしていた。
「どう、星夜。そろそろ学校は落ち着いた?」
「なんとか、かなぁ。中等部の副学院長がなんとか頑張ってるけど、まだ混乱してる」
「しかしながら無事授業が再開して安心ですな、堀氏」
「遅れた分取り戻さなきゃいけないし、大変だよ。学校のブランドも低下しちゃったしね」
ご存知、智彦と上村。
それに堀が加わったメンバーである。
智彦は堀へと内心謝りながら、話を続ける。
「俺は学校に入れなくて帰ったからね。命拾いしたよ」
堀へといらぬ心配させぬよう、智彦は入れ替わっているのがバレて追い返された……という事にしている。
自身の力を含め事の真相を話す選択肢もあったのだが、慎重に時期を見極めるつもりの様だ。
「なぁ智彦。本当に学院には入ってないんだよな?」
「うん。……どうして?」
「いや、なんか知らない人達が俺に会いに来てさ、お前じゃないとか言い出して」
(あー……)
語り部達か、と。
智彦はそっちの統合性を取るのを忘れていた事に、気付く。
というより、あそこまでして統合性を取る方が難しかったのだが。
「まぁ、事件に巻き込まれた人達らしいし、記憶が混乱とかしてるのかな」
「あー、うん。その可能性はあるか。大変だったねーその人達」
「岩上さんって人は怖かったけどね、本物だせって。いや本物って何だよって」
「ほんとだねー」
「……そう言えば堀氏、最近バイト頑張ってるみたいですな?」
棒読みになってしまった智彦を救おうと、上村は話題を切り替えた。
上村は真相を聞いているし、堀が巻き込まれなくて良かったと心底思っている。
ただ、智彦の事を知ると言う事は、厄介事に巻き込まれやすくなる事を理解しており。
その為、堀に話す際は同じく慎重であれなスタンスだ。
「そうなんだよ。また家族で旅行行こうねって話になってね。少しでも足しになればと思って」
「ほほぉ!良いですな良いですな!」
ふと、外からの日差しが弱くなった。
智彦が空に目を向けると、青に灰色が侵食し始めている。
風も出始め、街路樹の葉が揺れ始めた。
「でさ、良いバイト見つけたんだ!廃墟になったテーマパークを一晩泊まり込みで掃除するだけで8万円だって!すごくね?」
堀が、二人へとスマフォの画面を見せた。
古く小さいテーマパークで、機械で動くマスコット人形が数体いる……いや、いた様だ。
上村が、智彦へと目を向けた。
二人の目には、堀の後ろで必死に首を横に振っている御老体。
縋るように、智彦を見ている。
「……あー、良かったら一緒に手伝おうか?分け前はいらないから」
「助かる!だけどそこはちゃんと分けようか。んじゃ、早速応募しよう、っと!」
智彦が、上村へと苦笑いを返す。
まぁ、友人の助けになれるから良いか、と。
冷えたアイスコーヒーを吸い込み、襲い掛かる鈍痛に頭を押さえた。